vs学園祭(前編)

「準備は終えた、行くぞ!」


 龍野は怒りを抑えきれぬまま、エリア“スクールデイズ”の一角で、鋼鉄人形を降りる。

 目的地である学園より、およそ500m程離れた場所で、だ。

 しかも今回は、鋼鉄人形以外にも機体を用意している。


「ララ殿下、輸送機の護衛はお願いします!」

「ああ、留守番は任せろ。指一本触れさせん」


 フーダニットが保有している、川崎C-2輸送機3機――その全てを、作戦遂行の為に貸与してもらっていた。

 ただし、万が一奪取されても逃げられないように、燃料はゼロの状態であるが。


     *


 作戦は至ってシンプルである。

 龍野達が定義した目標二点は、以下の通りであった。




一、指定した“破壊目標”を全て、原型を留めぬレベルまで破壊する事。

一、指定した“救出目標”を、可能な限り全員救出する事。

※なお、「救出」の定義としては、『フーダニットのいる本社まで、身柄を無事に移送する事』とする。




 以上の定義に従い、また、各種段取りをも定めてから、作戦を開始した。

 ただ、輸送用に、フーダニットからC-2を借り、また、ララにも協力してもらう運びとはなったが。


     *


 さて、鋼鉄人形を駐機させ、丁寧に認識阻害(視界に入らないようにする、一種の隠匿行為)の法術を機体と自身に施した黒龍騎士団は、事前に渡されたプリントに記載されていた、『神代クル・ヌ・ギ・ア學園』に足を運ぶ。


「総員、作戦開始」


 低く、怒りを押し殺した声で全団員に告げた龍野は、一気に校舎の突破を試みた。


 何故なら、「“スクールデイズ”に存在する男は、漏れなく女に飢えていると見ていい」という、フーダニットの情報を得たからだ。

 そして、「女性陣には同行してもらうが、余計な戦闘は最小限に抑える」とも、龍野は固く決意していた。

 だからこそ、全速力での突破である。

 しかし。


「おい、あんなところに美人が固まってるぞ!」

「しかもあれ、よく見たらヴァイスシルト殿下じゃないか!?」

「野郎ども、急げ……!」


 透視のチート能力を所有する一部の男が、黒龍騎士団の隊列に接近してきた。

 手の届かぬ高嶺の花と、すぐ近くにいる“高嶺の花”。

 どちらを狙うかは、一目瞭然である。


「総員、戦闘態勢!

 殺害しても構わねえ、誰一人傷つけさせず、奪わせるな!」

「「了解!」」


 号令と同時に、全員が各々の武器を構える。

 ある者は実体剣を、またある者は光剣を、そしてある者は徒手空拳で。


 龍野もまた、殺意を一部開放すると、鎧を纏い、大剣を実体化させて構える。

 正面の男を排除する構えだ。


「死にたくねえなら……どいてろ!」


 怒りを乗せた警告を飛ばす。

 だが、形式的なものに終わるのは、目に見えていた。


「邪魔だ!」


 龍野は大剣を一閃し、正面から来た男を排除する。

 他の団員も、迫る男どもを確実に屠っていた。


『左折するぞ、ついてこい!』

『『了解!』』


 龍野は用心の為、念話に切り替えて団員達に号令を飛ばした。


     *


 龍野達が疾走して数分後。

 ようやく、目的の研究棟へ到着した。


『よし、着いたな。

 グレイスとハルトが受付役の男どもと応対な』

『了解』

『了解しました』


 オトリの二人を決めた龍野は、ゼルギアスとヴェルディオに向き直る。


『ゼルギアス、ヴェルディオ。

 お前達は、受付役の排除だ。手加減、するなよ』

『あいよ』

『了解』

『呼ばれなかった奴らは、俺含め待機な。

 特にヴァイス、お前は俺と並んで、“カンパニー”界隈では有名人だ。突入まで、バレちゃ困る』

『わかってるわ、龍野君。

 見事な役割分担ね』

『最近は慣れてきたからな。

 それじゃ、作戦通り頼む!』

『『了解!』』


 龍野はやり取りを終えると、作戦通り、グレイスとハルトムートを向かわせた。

 それよりも先に、ゼルギアスとヴェルディオをこっそりと先行させ、待機させながら。


 かくして、作戦が始まった。




「止まってください。

 IDチェックを致します」


 作戦通り、グレイスとハルトが呼び止められた。


「はい、IDですね……おや?」

「どうしたのですか、ハルト?」


 もちろん演技だ。

 IDなど、持ってはいない。


「おかしいですね……。

 少々、お待ちいただけますか?」


 係にそう告げると、胸ポケットを何度もまさぐるフリをするハルト。

 かなりリアリティがある。


「もしお持ちでないのでしたら、ここは……」


 係が痺れを切らし、そう告げた次の瞬間。


「ふんっ!」

「はぁっ!」


 ゼルギアスとヴェルディオが躍り出て、係の喉を蹴り潰した。


「お通し……ごひゅっ!?」

「がふっ!」


 係が倒れたのを見ると、ゼルギアスとヴェルディオはそれぞれ、光剣を取り出す。

 念入りに頭部を切断し、無力化した。


「よし、よくやってくれた!」


 作戦成功を確認した龍野達が、入口前に駆け寄る。

 黒騎士の姿で、だ。


「後は俺達三人で、一斉にブチ壊すぜ」


 その言葉に合わせ、ヴァイスとシュシュが剣を構えた。

 魔力の光条レーザーで、ゲートの扉を焼き切る作戦である。


 果たして――扉はあっさりと溶解し、道を作った。


「それじゃ、行くぜ……」


 龍野達は一気に階段を駆け下りる。

 ややあって、ナイトクラブと思しき地下空間に到着した。


 そして、空間内部からは見えない位置から、一気に三つものフラッシュバンを投擲したのである。

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