vs『悪魔』

「次は彼の始末をお願い」


 フーダニットの依頼と情報提供により、黒龍騎士団は次の“リブート”を決定していた。


「厄介だな……」


 公開された“リブート”の情報を見て、龍野が顔をしかめた。

 が、即座に一案を思いつく。


「フーダニット。

 ここにいるメカニック達に、を代行してほしい。

 出来るか?」

「任せて、騎士様。

 今の私はCEOよ」

「頼むぞ」


     *


 こうして、“準備”に掛かる時間――一晩――いっぱいの休息を済ませた後、黒龍騎士団は再び“リブート”討伐へ向かっていた。


「ここだな……」


 龍野達が向かったのは、エリア“ミステリーダンジョン”である。


「次の“リブート”は、子供と聞いたんだが……」


 そう。

 今回狙う対象は、外見情報だけ聞けば、子供としか思えない相手である。


 無論、仮に本当に“ただの子供”であったとしても、戦力の出し惜しみはしない。

 とはいえ、ララは待機状態である。


 と、龍野が違和感を抱いた。


「おっと。

 全機、止まれ」


 目にした違和感の正体は、「炎上した建物より、平然とした様子で出てくる少年」であった。


「さて……。それらしいヤツが出てきたが、確かめるぞ。

 各機は警戒態勢で待機せよ」


 6機が配置についたのを確かめると、龍野は拡声機で呼びかける。


「そこの少年よ、確認したい事がある。

 “リブート”か?」


 その言葉を聞いた瞬間、少年の様子が一変した。


「軽々しく呼ぶんじゃねえッ!」


 叫んだ直後、少年はうっすらとした光を纏い始める。


 と、グレイスが呆けた声を上げた。


「……消えたの、ですか?」

「そんなワケねえだろうがッ!」

「!?」


 その直後。

 リナリア・ゼスティアーゼが押し倒された。


「くっ……!?」


 グレイスからすれば、完全に不意打ちであった。

 いや、それを通り越して“怪現象”であった。


 何せ、


「何、この……!

 ッ!?」


 押し倒された機体の中で、グレイスは“異音”を耳にしていた。


 風を切り、何かが振るわれる異音である。


「姉ちゃん!

 させるか……!」


 リナリア・ローツェヴェルクがリナリア・ゼスティアーゼの脇に立ち、大盾を構える。

 金属の激突音が響き、また、衝撃が機体全体にまで浸透した。


「ぐっ……!

 結構力ぁ強いな!」


 黒龍騎士団の中でも最も大型(全高:14.75m)であり、それ相応の出力を内包しているリナリア・ローツェヴェルクであっても、容易く耐えられる衝撃ではなかった。


「グレイス、何やってる!

 援護するから立て直せ!」


 そこに、龍野の叱咤が飛ぶ。


「は、はい……!」


 グレイスは我に返ると、リナリア・ゼスティアーゼに霊力を込める。

 転倒した姿勢のまま、サブマシンガンを同時に連射した。


「チッ……!」


 少年の声が響く。

 と、


「案の定だ!

 グレイス、ゼルギアス、ヴェルディオ、蛍光色マーカーのある辺りに集中砲火!」


「「はい!」」


 起き上がったリナリア・ゼスティアーゼがサブマシンガンを、リナリア・ローツェヴェルクとリナリア・シュヴァルツリッター(ハーゲン機)、そしてランフォ・ルーザ(ドライ)が内蔵機関砲を斉射していた。


 何発も命中する。

 が――


「何だよ、口だけかァ!?」


 少年が――いや、“巨大な人狼”が、余裕をあらわに叫ぶ。


「って、何だよこりゃぁ!?

 クソ、取れねえ……!」


 が、彼はようやく自らの異変に気が付いた。


「見事な色ね」


 そのように、ヴァイスが評する。


「クソ、これじゃあ“ヴィジョン”が……!」


 そう。

 発射された弾丸は“ペイント弾”――少年、いやアカツキ=ウルブズレインの能力である“ヴィジョン”の特性の一部を無力化する装備であった。


(ここまでは作戦通り……!)


 手際よく進む作戦に、しかし龍野は高揚しない。

 さらなる一手を打った。


「各機、接近戦を行え!

 射撃武装は実弾以外許可しない!」

「「了解!」」


 不可視状態さえ無効化すれば、後は鋼鉄人形の戦力で十分であった。

 全高18mなど、黒龍騎士団からすれば標的に過ぎない。


「このッ、舐めてんじゃ、ねぇ!」


 だが、アカツキも必死に抵抗する。

 ワイヤー並みの強度を有した尻尾でもってバスターソードを振り回し、黒龍騎士団に抵抗すると、そのまま手に持って黒龍騎士団を牽制した。


(まだ暴れるか。

 なら、防御を崩すべきだな……)


 直感によって導き出された選択を、龍野は団員達に飛ばした。


「ゼルギアス、ヴェルディオ!

 合図と同時に、“実弾武装を”射撃しろ!

 それ以外はヤツが怯んだ隙を突いて、囲んで潰せ!」

「「了解!」」


 簡潔な意思伝達を終えると同時に、リナリア・ローツェヴェルクはサブマシンガンの砲口を正面に向け、リナリア・シュヴァルツリッター(ハーゲン機)は内蔵速射砲の発射準備を終えた。


「撃て!」


 その声と同時に、2機から“実弾”が飛んでくる。


「ぐっ!?」


 先程の影響もあり、『発射される弾丸は全てペイント弾』と思い込んでいたアカツキは、実弾の雨を受けた。


 特に、バスターソードを持っていた右腕に砲弾が集中する。

 防御に意識を集中させる為だ。


「もらうぞ!」


 その隙を突き、龍野が左側面から突撃を仕掛け――剣が袈裟斬りに振り下ろされる。


「うわぁああああああッ!」


 致命傷を受けた“ヴィジョン”が、霧散して消失する。

 ペイント弾の塗料が、地面をピンク色に染め上げた。


「ふぅっ。

 それじゃ、直接トドメを刺すか」


 龍野はアカツキを直接殺すべく、ランフォ・ルーザ(ドライ)を降りて鎧騎士と化す。


「事前準備が無けりゃ、結構苦戦してたがな……ん?」


 と、“風切り音”を聞く。

 それは塗料の上に“足跡”を残し――


「おっと!」


 龍野の大剣の前に、あっさりと敗北する。

 実体を有していない“ヴィジョン”であれど、気配までは殺せず。ましてや「足元が塗料まみれの状況」においては、優位性が最大まで発揮される事は無い。


 次々と“ヴィジョン”が襲ってくるが、龍野は全てを斬り払った。


「おう、これで終わりか?」


 そして、悠々とアカツキの前に立つと、彼を見下ろしたのである。


「ッ、まだ、だ……!

 全ては、“彼らリブート”の為に……!」


 アカツキは最後の気力を振り絞り、龍野に飛び掛からんとする。

 が。


「残念だったな」


 龍野はアカツキを軽く斬り捨てる。

 そして、その亡骸を焼き払ったのであった。


     *


「それだけの事をしたんだ。

 、地獄に行きな」


 龍野は最後に、彼にしては特大級の皮肉をぶつけると、ランフォ・ルーザ(ドライ)に戻る。


「作戦終了だ。

 撤収するぜ」

「「了解!」」


 かくして、黒龍騎士団は“リブート”の一つ、『悪魔』を撃破せしめたのである。

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