第2話 役立たず

「あたし」が、この汚くも愛すべき場所に、立っていた時


着ていた物は


白のよれた半袖のシャツと、穴だらけでシミだらけで


もしかしたら、血も付いていたかも知れない


ごわついた生地の、丈夫なだけが取り柄の


薄青い、長いズボン。


足は、これまた服装に負けない程、汚れた


ボロい、ちょっと焦げている、紐も千切れた


半分潰れた、ぺたんこの靴を


これまた汚い、裸の足に、つっかける様に履いて


まるで、能面の人形の様に、身動きひとつせずに、立っていた。


後から、近所の仲良くなった、じいさんに、聞いた。


「びっくりしたよ。でも、ここらじゃ、よくある事さね。」


と。


その、じいさんは、いつも体に悪いと、しょちゅう、この国の偉い人達が


「長生きしたかったら、止めましょう。他の人にも害になります。」


と、四角い、電波と言う不思議なもので、飛ばされてくる


ただで、国民、皆に配られている


この貧民街の住民にも、無償で、平等に与えてくれる


有り難い機械で


毎日の様に、優しい笑顔と、真剣な声と顔と


耳心地の好い、大音量の聖歌の様な、音楽と一緒に


その四角い箱の中から、大袈裟な、身振り手振りで、諭しているものを、吸っていた。


それは本当だろう。


現実に、彼は、肺の病気にかかって、いつも茶色い顔をして、


目は黄色く濁って、目やにをいつも付けていて、


いつも、せき込んで痩せ細っていた。


そして、その体に悪いそれは、いたって、何処でも安価で、手に入るのだった。


「ほれ、あんたも、ちょっと吸ってみるかい?」


じいさんに、一度からかい半分に、勧められて


「あたし」は、それを一度口にした


肺に流れ込んできたそれは、酷く苦くまずくむせて、


でもその後、頭が妙に、軽くなり、気分が、ほわんと好くなった。


実は、とても、いい薬なのかもしれない。


単純に、「あたし」は、その時思った。


なんて、とても、有り難く、慈悲深い国なのだろう。


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