第3話 花山 加奈子(はなやま かなこ)①

 プルルルル、プルルルル。


 閑散とした室内に鳴り響く、スマホの着信音に私は目を覚ました。


 重い瞼を擦り、時刻と着信先を確認する。


 深夜2時50分……真帆からだ。


「もしもし、どうしたの?」









 それから約一時間、真帆のよく分からない話に付き合わされた。


 ビッチになりたいやら、どうやら……おそらく牧瀬先輩の影響だろう。


 私も、入学当初は牧瀬先輩に憧れたその一人だから分からなくもない。


 しかし、牧瀬先輩が好きなのは、ビッチでは無く、ギャルな訳であって、真帆はその辺を理解しているのだろうか……。


 真帆は、ブッ飛んだ発想や考えの持ち主だから、勘違いしていても不思議では無いが……。


 それより、オシャレや美容に無頓着だった、あの真帆が服装や髪型、メイクまで私に聞いてくるだなんて、そっちの方が驚きだ。


 それに加えて、牧瀬先輩と飲み会がしたいだなんて……あの人、コンパって言わないと絶対来ないからなー……。


 となると、三対三……。


 美南でも呼んでみるか。


 寝ぼけた頭の中で状況を整理し、ふと横目でスマホの時刻を確認した。


 4時……もう朝じゃん。


 まぁ、ちょっとだけ寝れるか。


 布団を被り、目を瞑る。


 暗闇の中で、ほんの少し……ほんの少しの嫉妬をすり潰すかの様に奥歯を噛み締めながら、私は眠りについた。











 合コン当日、私は牧瀬先輩に指定された店の近くで真帆を待っていた。


 すると、見覚えのある様な、無い様な金髪ギャルが私の目の前で立ち止まった。


「ちょっ、待って! 本当に真帆?」


 私は、開いた口が塞がらないまま、目の前の金髪ギャルにそう問い掛けた。


「えっ? 私だけど……やっぱり、なんか変?」


 一ヶ月ぶりの再会とはいえ、驚きの変貌ぶりに、少し感動さえ覚えた。が、真帆のピンヒールの側面に貼られたままの半額値札が目に留まり、笑いが込み上げる。


 安売りの女……まさしくビッチじゃん。


「いい! めっちゃいい! ザ・ビッチ!」


 咄嗟に親指を立て、笑っているのを誤魔化すが、


「それ、褒めてんの?」


 と、真帆に睨みつけられる。


「ごめんごめん、冗談だって。でも真帆が、突然ビッチになりたいとか意味わかんない事言うから、最初はビックリしたけど、まぁ様になってるじゃん」


「いい感じ?」


 真帆は、そう言うと胸をワシワシと揉みしだきながら私に言い寄ってきた。


「ねぇ、いい感じ?」


 やはり、真帆はブッ飛んでいる。


「ちょっ、バカ! やめてよ、周りに見られてるって!」


 周りを見渡すと繁華街の真ん中にもかかわらず、歩みを止め、真帆を見やる男の人がチラホラと見えた。


「ふーん、男の人ってやっぱりこういうの好きなんだ」


「もう、何やってんのよ、恥ずかしい! 牧瀬先輩たち待たせてるから、早く行くよ!」


 私は真帆の手を引っ張ると、勢いそのまま居酒屋へと入っていった。


「いらっしゃいませー」


 小上がりのある居酒屋にホッとする。


 半額値札付きピンヒールを見る度に、笑いを我慢出来る自信が無いからだ。


 ブーブー。


 スマホのバイブを感じ、ポケットからスマホを取り出す。


 美南からのLINEだ。


(今、着いたであります(*´∇`*))


 女の子らしさの中にドジっ子要素を含ませた様な文面。


 モテるんだろうな。


 シャクれてさえいなければ……。


「あれ、そういえば美南は?」


「もう来るってさ」


 真帆の問いに、私は牧瀬先輩へのLINEメッセージを打ちながら答えた。


「おっ、きたきた」


「おまたせー」


 美南が猫なで声と共に駆け寄ってきた。


 やはり、美南は今日もシャクレている。


「って、えっ? 真帆?」


 美南は変貌した真帆を見て、私と全く同じリアクションを取った。


「驚くのは分かるけど、早く行くよ!」


 私は美南にそう言うと、個室の番号を確認しながら店内の奥の方へと歩いて行った。


「301……301……ここか!」


 個室の襖をカラカラと開ける。


「すいません! 遅れましたー」


 個室に顔を覗かせながら、ぺこりと頭を下げた。


「おお、いいよ、いいよ、早く入りな!」


 牧瀬先輩の返事を聞き、個室の奥へと歩を進める。


 牧瀬先輩とその友達二人……。


 明らかにチャラそうな人達だな。


 目も合わせてくれない。


 眼中に無いってか……。


「えっ? 真帆ちゃん? どうしたの?」


 驚いた表情で真帆にそう訊ねる牧瀬先輩。


「どうも、やっぱり変ですか?」


「いやいや……いいじゃん」


 二人の会話を聞きながら、顔をゆっくりと上げた男の子の顔に、私は雷に撃たれた様な衝撃を受けた。チャラそうな割に、なんともいえない不器用な苦笑い……かっ、可愛すぎる……これが、一目惚れってやつなのだろうか⁉︎

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青春曇り空ダイアリー 恋するメンチカツ @tamame

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