第5話 パーティー



 月の光が入り、豪華な部屋は不思議な感じになって、きれいだと思う。

 前の世界では入れないような豪華な部屋。それも、城の中にあるというものだ。城の中で寝泊まりできるとか、そんなツアーあったら鈴木が喜びそうだな。


 鈴木の好きな物語。

 死んで、異世界に勇者として召喚される。


「ストーカー女に刺されて、気が付いたらこの世界にいた。そして、勇者と呼ばれていた。」


 チート能力で無双!


「能力なんて、何もなかった。・・・だが、まだ希望はある。」


 何の力も持たない主人公が、危機にあい覚醒する。


「危険だが、これに賭けるしかない。どうせ、魔王のもとには行かなきゃなんねーんだ。同じ死ぬなら、何も希望を持てないよりは・・・」


 希望を持てないよりはいい。そんなこと言えるか?


「なんで、俺が死ななきゃいけないんだよ。俺が何をしたっていうんだよ・・・」


 熱いものが込み上げてきた。俺は歯を食いしばる。


 泣いてる場合じゃない。泣いたってどうしようもない。


 そんなことはわかっているのに、勝手に涙はあふれる。


 遠くない未来、死ぬかもしれない。そんな事実を、受け入れなければいけない理不尽が憎い。そして、対抗できる力がない俺は、悔しくて悔しくて仕方がない。


「死にたくない・・・嫌だ。」


 将来の夢なんか何もない。生きたいなんてことも、思ったことがなかった。でも、どうしても死にたくはない。痛いのも苦しいのも嫌だ。


 死が、痛くも苦しくもなく、楽なものだったとしても、俺はそれを拒否する。怖いから。



「なんで、俺なんだよ。」


 その答えは、いくら考えたって出てこない。


 豪華な部屋で、俺の嗚咽だけが響いた。




 あれから数日。

 ついにこの日がやってきた。いや、普通はもっと準備期間とかあるはずだと思うが・・・きっと、国の誰もが俺に期待をしていないのだろう。

 だが、たった一人、俺に期待するものがいる。それだけで十分だ。


「俺が、魔王を倒す。」


 そう、俺に期待するものは、俺自身。きっと、いつかとんでもない力を覚醒させて、バシーンとかぽわーんとかやって、魔王を倒す!

 うん。わかってる。無理があるわー・・・でも、そういう考えでいないと、マジで辛い。




 そういえば、鈴木が言っていた。

 異世界転生した奴は、だいたいハーレムを作るって。パーティーメンバーほとんど女って感じらしい。ま、俺は女に飢えていなかったから興味なかったけど。


 昔の話だ。今は、女を傍に置きたいと思っている。もちろん、彼女とかそういうのではない。女なんてろくでもないからな。ただ、男のさがとして、女を求めるようにできているから仕方がない。それに、城で会うやつ男ばっかで、むさくるしい。一応メイドがいるが、一歩距離を置かれている感じがして、遊べなかったし。


「パーティーメンバーに期待だな!・・・って、思っていました。」

 ちょっと前の自分の考えを思い出し、遂に口に出してしまった。人がいることを思い出し、猫をかぶり直す。

「唐突にどうかいたしましたか?」

「なんじゃ小僧、ワシらじゃ不満か?」


 両手に花ではなく、枯れ草。

 右に騎士のサウス、左にじいさんのロジ・・・魔法使いだったっけか?


「いえ、そんなことは。アリガトウゴザイマス、ウレシイデス。」

「フォフォフォ。小僧は正直じゃな~ま、そうがっかりするな。老いた身ではあるが、その力は本物じゃ。安心せよ。」

「命をお守りするとは誓えませんが、この命尽きるまで、お守りいたします。それが、俺にできる償いです。」


「償いって・・・」

「当然じゃろ?ワシらは、何の力も持たない小僧を魔王と対峙させるのじゃ。これは罪と言える。その償いじゃ。」

「本当に、申し訳ございません。謝ってどうにかなる問題ではございませんが・・・」


 本当にその通りだ。しかし、サウスの言葉にひっかかった。


「あの、2人は死ぬつもりなんですか?」

 俺の言葉に2人は当然のように頷いた。

 俺が怖くてどうしようもない死を、2人は受け入れているようだ。それがどうしても納得できない


「怖くないんですか?それに、サウスさん達が死ぬ必要は・・・ないですよね?」

「小僧・・・死とは、常に隣におる者、隣人じゃ。さして怖くはないのう。あと、さっきも言ったじゃろ?これは償いじゃ。ワシらは、小僧を殺すも同然。ならば、ワシらも死なねばならない。」


 ロジの言葉に、俺はもう一度決意した。

 そう、俺は殺されるも同然だ。だが、俺は死なない。

 死ぬなら、2人で勝手に死んでくれ。俺は、絶対、生き残る!



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