第13話 先輩13 夏休みー5

 「先輩、この問題の答え方ってこれであってますか?」

 「んー?それはね、問題文の時制が現在形じゃなくて過去形だから、答えの文も過去形に合わせなきゃダメだよ」 

 「あ、ホントだ。ありがとうございます」

 「いえいえ、どういたしまして」


 僕たち2人は、夕食ができるまでの間、夏休みの課題を着々と進めていた。と言っても、おそらく30分ほどで準備できてしまうと思ったので、一問一答形式のような簡単な課題を進めていた。


 「カイ君は英語は苦手なのかな?」

 「あー、そうですね。単語とかリスニングもそうですが、何より文法の問題がどうしても凡ミスが多くなっちゃうんですよね、テスト」

 「それは多分、毎回の定期テストでせっかく覚えた文法をリセットしてるからだと思うよ?私の勝手な予想だけど、カイ君はきっと英語とか社会みたいな暗記科目は前日に徹夜で詰め込むタイプなんじゃない?」

 「え、すごい。なんでわかるんですか!?」

 「あははは、文系科目が苦手な子ってそういう傾向にあるって友達に聞いたから」

 「そうなんですか。確かに僕は英語や社会よりも数学や理科の計算の方が好きですね」

 「じゃぁカイ君は理系寄りだね。私は逆に理系科目が苦手だから教えてほしいなー」

 「僕が教えられる範囲なら全然いいですけど……。でもさすがに2年生の内容は分かんないですよ?」


 すると先輩は恥ずかしそうに言った。

 

 「実は私、数学が大の苦手で……。今も数学の問題解いてるんだけど、1年生の内容で躓いちゃって」

 「ちょっと見せて下さい……。えーっと、この問題だったら、とりあえず分配法則したら後は通分するだけですよ」

 「え。ほんとだ!すごいカイ君、頭いい!」

 「いや、これくらいは全然……」

 

 そう言いつつも、仲のいい先輩に褒められて悪い気はしなかった。


 「あ、これなんかはですね、マイナスの符号を意識したら……」

 

 先輩に褒められて調子に乗った僕は、次の問題を教えてあげようと知らず知らずのうちに先輩の方に大胆に身を寄せてしまっていた。


 「か、カイ君。ちょっと近い……」

 「あ、ご、ごめんなさいっ。つい……」

 

 先輩に言われ、はっとする僕。


 「もうっ。先輩に勉強を教えることにそんなに優越感に浸っていたのかなー?」

 「すみません……」

 「ふふっ。怒ってないから安心して。でもちょっといつもより近くて、ちょっと……ドキドキしたよ……?」

 「え……?」


 予想だにしない言葉が先輩の口から飛び出し、僕は自分の耳を疑った。


 「な、なんでもないっ。今の忘れて?」

 「は、はい」


 ……


 なんか気まずい……。なにか、この沈黙を破る話題を……。

 

 「そ、そういえば、そろそろ30分くらい経ちますね。夕食はできたのかな?」

 「ど、どうだろうっ。お母さん、料理は上手だけど、時間はかかるからもう少しじゃないかな」

 「へ、へぇ。じゃぁ、もう少し勉強続けます?」

 「そ、そうだね。後1ページだけ進めておこうかな」

 

 結局、そのあとはお互い特に話すこともなく、小春が呼びに来るまでの10分間、黙々と個々の課題に専念した。



 「はぁ、ごちそうさまでした」

 「お兄ちゃん、今日の夕食どうだった?」

 「おう、おいしかったよー。小春はホントに料理上手になったなー」

 「えへへ、やったぁ」

 「うん、小春ちゃん、今日は買い物から料理まで私と一生懸命協力したもんねー?ほんと助かったよー!」


 エリカさんにも褒められて、とても満足そうな小春。


 「あ、そうそう。さっきね、カイ君たちのお母さんから連絡あって、ちょっと渋滞にはまっちゃったらしいから迎え遅くなるらしいよ」

 「そうですか。わかりました、じゃぁ、もう少し勉強して待ってますね」

 「わぁ、えらい!有希亜、あんたも見習いなさいー?」

 「わ、分かってるよ!ごちそうさまっ」


 そう言って、先輩はまたすぐに上の階に上がっていった。僕もそれについていく。


 「はぁ、お母さんのお節介には嫌になっちゃう」

 「でもまぁ、ちゃんと言ってくれるなんて、優しいと思いますよ?僕なんて、両親どちらも勉強に関してはあんまり口出ししないから全部自己責任って感じです」

 「えー、そのほうがいいー」


 そう言って、先輩は自分のダブルベッドの中に入っていく。

 「もうっ。先輩、勉強するんじゃなかったんですか?」

 「ちょっと休憩」

 「食べてすぐ寝たら、牛になりますよ」

 「あはははっ、カイ君ってばホント面白いね。ほら、カイ君も入りなよ」

 

 そう言って、先輩は片腕で薄い布団をめくり、僕のスペースを作ってくれた。

 

 「いや、さすがにそれは……」

 「なにー?恥ずかしがってるの?かわいいっ」

 「そういう問題じゃなくて……」

 「いいから、こっちおいでって」


 僕の承諾も聞かず、先輩は僕の腕を取って、自分の入っているダブルベッドの中に引き込む。 

 

 「もうっ。これでいいですか?ほら、勉強再開します……」

 

 キュッ・・・・・


 ベッドの中で、僕の裾を軽く引っ張る先輩。

 

 「も、もう少しだけ……。ね?」


 予想外の展開に完全に思考が停止する僕。

 ど、どうなっちゃうの!?

 

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