第13話 最低最悪のドラゴンの襲撃

 昨日から何やら空が騒がしい。ファテマは何とも言えないような心のざわめきを感じていた。

 そしてエルフの村からの一報が届く。

 ファテマとユニコーンの幹部たちが集まってダークエルフの使者の報告を聞くこととなった。

「ダークエルフの村へ幼体のレッドドラゴンが五体。襲撃に合っています。」

「なにぃ? ドラゴンじゃと? しかも五体も!?

 で、状況はどうなんじゃ?」

 幹部たちを差し置いてファテマは思わず大声を出してしまう。


「はい。村はほぼ壊滅的。我々の同胞もすでに九割以上はドラゴンの犠牲になっています。」

「なっ? それで母上はどうなっておる? アイリは?」

「はい。我々のリーダーと奥様、そしてアイリス様がこちらへ向かっております。もうまもなく到着される事と思われます。」

「そっ。そうか。」

 立ち上がっていたファテマであったが、その場でヘナヘナと萎れるように座り込んだ。


「で、我々としては救援に向かったほうが良いのか?」

 ユニコーンの幹部の一人が使者に尋ねる。

「いえ、救援などは不要。おそらく同胞もどれだけ生き残っているか不明な状態………。

 それよりもドラゴンは食糧を求めているようなので、おそらくこの村にもやってくることと思われます。

 なので、散りじりになって逃げた方が良いとのこと。」

 ダークエルフの使者は答える。


「そ、そうか。それはお悔やみ申し上げる………。」

 ユニコーンの幹部は千切れるような声で答えた。

「いえ、お気になさらずに。

 ドラゴンしかも五体相手ではどうしようも無い事です。私としても、のちに来るリーダーと合流して指示に従うつもりです。」

「報告に感謝する。

 では、我々としてはすぐに立ち去る準備をしよう。」


 そう言ってユニコーンの幹部たちは仲間たちに連絡するために外に出ようとした時である。



「ドッカアーーーーン!!!」


「チュドドドォォォーーーン!!」



 レッドドラゴンのファイアボールが飛んできた。空には二体のレッドドラゴンが旋回飛翔している。

 完全に不意を突かれた形になってしまった。事態のつかめていないユニコーン達から次々とドラゴンに襲われていく。

 圧倒的に、そしてあっという間にユニコーン達のほとんどはドラゴンの犠牲となった。もしかしたら数体ほどは逃げ切れた可能性はあるが今は確認のしようが無かった。


 まさに地獄絵図。


 先ほどまでそこにあったのどかな風景はこの瞬間で無くなってしまったのである。


「ファテマ!」

「その声は母上!?」

 ファテマの母親の声にファテマが反応する。

「すまぬ。どうやら我々がドラゴンを連れてきたみたいだ。」

 ダークエルフのリーダーが弁明する。


「で、アイリは? アイリはどこじゃ?」

「お姉ちゃん!」

「おお。無事か。何よりじゃ!」

 無事に再開してお互いにホッとしている。


 そんな二人を見ながらも、ダークエルフのリーダーがことはやにファテマに言う。

「こんな事、父親の仇の私から頼める話では無いのだが、アイリスを連れて逃げて貰うことはできないだろうか?

 ファテマちゃんであればドラゴンから逃げ切れると妻から聞いて………。」

「何を言っておるか! こんな非常事態じゃぞ? 当たり前じゃ!

 それにアイリは儂の妹でもあるんじゃからな!」

 そう言ってファテマはアイリスの手を力強く握る。

「かたじけない。本当に感謝する。二人が逃げている間くらいは何とか時間稼ぎをさせてもらう。

 文字通り命を懸けて。」

 ダークエルフは大きく涙を流しながら二人を抱きしめた。


「ファテマ。とりあえずこれを。」

「ん? なんじゃ? ああ。ありがとう母上。」

「とりあえず、これだけあれば人族の国に行ってもなんとかなるでしょう。または亜人の国もあると聞くわ。そこでも役に立つはずよ。

 ドラゴンに破壊されていなければ例の場所に行けば残りもあるから。」

 ファテマは例のリュックを受け取るのであった。


「そしてもうひとつ言っておくわ。

 アイリスだけど、どうやら生まれの特異性からか魔法の属性をすべて持っているみたいなの。もしかしたらドラゴンたちはそれも狙っているかもしれないわ。

 今回うまく逃げられてもまたすぐに襲ってくる可能性があるの。」


「なんと本当なのか? アイリよ?」

「うん。そうみたい。まだ練習中で下手くそなんだけど、でもいっぱい種類使えるよ!」

 ファテマの問いにアイリスは笑顔に答える。

「おお凄いではないか!」

 ファテマも答える。


「さあ、そろそろここも気づかれてしまうわ。」

「我々が時間を稼ぐのでその隙に。」

 母親とダークエルフが二人に声を掛ける。ファテマとアイリスはひとつ頷く。

 最後に四人でしっかりと抱き合う。

「よし。行くぞ。」

「はい。」

 二人はドラゴンのいる方へ向かっていった。そしてこれが最後の言葉となるのである。


「よし。アイリ。儂らも今のうちじゃ!

 とりあえずリュックはアイリが持ってくれるか?」

「うん。」

 ファテマはリュックをアイリスに渡し、そしてユニコーンの姿になる。

「ほれ。乗れ! アイリよ。」

 アイリスはファテマの背中にまたがる。その後、ファテマは低空を飛行しながらドラゴンに見つからないようにユニコーンの村を後にした。


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