第12話 アイリス誕生編②

 ダークエルフのリーダーはその言葉の通り、だいたい二カ月に一度のペースでユニコーンの村にやってきた。

 まあ、それ自体は良いのだが、やはりファテマとしてはあまり面白いものでは無かった。

 ダークエルフ達が来ているときは自分の部屋からほとんど出てこないようにしていた。


 少しずつ成長するアイリス。ちょっとしゃべるようになったり、立てるようになったり、歩くようになったり、そして言葉で会話ができるようになったりと、数年経ちすっかりと成長していた。

 そして成長するに従い、アイリスは父親よりも母親よりも何よりもファテマに懐いていた。それはもうべったりくっついていた。難産だった母親のお腹の中でファテマの声が聞こえていたのかもしれない。


 一方、ファテマというとなかなかアイリスを完全には受け入れられないでいた。


 大好きな母親と憎き父親の仇の子。


 こんなこと、アイリスは何一つ悪いことが無いのは理屈ではわかっている。しかし、まだ幼いファテマにはどうしても気持ちの踏ん切りがつかないでいたのである。

 ずっとモヤモヤした気持ちで日々を送っていた。


 そんなモヤモヤしているファテマに対して、アイリスはというとほぼほぼ四六時中ファテマにべったりくっついている。

 そんな無条件に愛情を表してくるアイリスに対して、少しずつであるがファテマの心も解かされていた。

 が、解けきる前に事件が起きてしまうのである。



 アイリスが十歳の誕生日のこと。


 ユニコーンの村でアイリスの誕生日のお祝いをしていた時のことである。もちろんアイリスの父親でもあるダークエルフのリーダーも来ている。

 普段、ファテマはダークエルフ達が来ているときは部屋にいるが、流石にアイリスの誕生日となると別で一緒にパーティーに参加していた。

 そして今回、アイリスの父親はとんでもないことを言い出したのである。


「さて、速いものでアイリスも十歳になる。そろそろ我々の村で暮らさないか?

 親子が離れて暮らすのもどうかと思われるしな。妻はもちろん、ファテマちゃんもこちらの村で暮らすための準備をしているのだが。」

「なんじゃと!?」

 アイリスの父親の提案にびっくりして声を挙げてしまうファテマである。


 この情景に周りのみんなの空気がざわざわとどよめく……。

 そんな空気感の中、ファテマがぶち破る。


「わっ、儂は……。

 ここに残るからな。エルフの村へは行かんぞ。」

 最初こそ威勢が良かったが、段々とボソボソ声となりながら言った。

「お姉ちゃんが行かないなら私も行かない!」

 アイリスは周りの状況など関係なしに答える。


「アイリス。それはダメなのよ。」

 母親はなだめるように言う。

「え? そうなの?

 だったらお姉ちゃんも行こうよ!」

 アイリスはファテマの腕を引っ張りながら言う。


「ええい。ダメなものはダメなんじゃ!」

 ファテマはアイリスの手を振りほどきながら叫ぶ。

「ええ? なんでそんなこというの?

 そんなの嫌だあああ。お姉ちゃんと一緒がいい!

 うわああーーーん。」

 そう言ってとうとうアイリスは泣き出してしまった。


「ほれ。わがままを言うでない。母上が困っておろう。アイリは良い子じゃろう?」

「うわーーーん。」

 ファテマが声を掛けるが、それでも泣き止まないアイリスである。


「母上、すまぬ。儂は………。

 儂はどうしても無理じゃよ。」

「ええ。」

 ファテマの母親はそっとやさしく一言。その後、優しくも力強くギュッと抱きしめた。


 そして母親は父親に言う。

「アイリスを先にお連れ下さい。私は準備をして数日中にエルフの村へ向かいます。」

「そうか。よろしく頼む。

 確かにもっと事前に言うべきであったな。サプライズと思って黙っておったが、ちょっと悪いほうへ出てしまった。」

 ダークエルフは泣いているアイリスをなだめながらも一緒に連れ出していった。



 そしてその後は誕生日などの祝い事、年明けなどのイベント以外では顔を合わさなくなっていったのである。

 その期間は五十年ほど続くことになる。


 そしてその五十年後に事件が起きるのである。最悪なあの出来事が………。


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