背後霊でございます、お嬢様

原幌平晴

プロローグ

第1話 よくある話でございます。

 枝葉を端折れば、まさしくよくある話でございます。


 とある地方の旧家に長らく執事として使えていたわたくしは、めでたく七十歳を迎えて引退となりました。

 既に家内には先立たれ、子供たちも独立し、退職金もそれなりにいただいて、晴れて悠々自適の身であります。


「余生をどう過ごす?」

 そう旦那様に聞かれて、しばし考えた結果。

「まずは、子供らの家を回り、孫の顔でも見ようかと」

「なら、下取りに出すはずだった車がある。使ってくれ」

 と、これまたそれなりの高級車を譲っていただきました。

 そして、旦那様とそのご家族に見送られながら、日本中に散らばった子供らを訪ねる旅に出たのですが。


 はい、もうお分かりですね。

 その車は、オートマでした。


 見晴らしのいい岬の先端の展望台で、車をバックで停めようとして、わたくしはブレーキとアクセルを思いっきり踏み間違えたのであります。

 眼前に広がるのは、初夏の青空。

 ああ、やってしまった。そう思うと同時に、どこかほっとしておりました。

 自損事故ですから、誰も巻き込まずに済んだと。

 背後からの衝撃で意識が掻き消される瞬間、そう思いました。


* * *


 と言うわけで、まさに第一話でわたくしは死んでしまったわけですが、なぜかまだ話は続きます。

 ここからは「よくある話」ではないので、いわゆるタイトル詐欺でございます。

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