第3話 心霊写真①

 都立王星学園はその名の示す通り、学力旺盛な高校だ。平均偏差値でもほぼ70、さらに特進コースや国際コース、スポーツ特進コースまである。国際コースは1年の一学期で1か月留学を経験する。ただし、その時点で英検一級が最低条件らしい。他のコースも推して知るべしなんだろう。

 そこに5年前に設立されたのが霊能コースだ。卒業までにB級試験に合格できなければ退学という厳しいカリキュラムになっている。もちろん学力試験もバッチリで、偏差値67らしい。曰く「霊性と知性は不可分」だからなんだとか。たしかに徳の高い坊さんや神父さんを見れば納得もいく。

 で、そこに特待生として入学したのがうららちゃんだ。もちろん学力試験も合格している。何よりも「学費一切免除」が決め手になったらしい。これも納得だ。

「まぁ高校ぐらいは出ておかないとね。プロフィールが見栄え悪いじゃない」

 なんだとさ。そういうわけで三流大学生の俺としては、色んな意味で頭が上がらない。絶対に今の俺よりも彼女の方が頭がいいだろうしな……。

「そういえばさ、北斗君ってどこ大学に通ってんの?」

「……何処園(どこぞの)大学です……」

「……聞いた事ないわね」

「そりゃまぁ……うららちゃん達が視野に入れるような所じゃないから……」

「ああ……うん……」

 と、聞かれた時には気まずい空気になってしまった事実もある。そのぐらい差がある。神様って不公平だよな。いや、借金が無いだけマシなのかも知れない。そう考えると、神様は公平に意地悪なんだろうか。

 それでも霊能力が公式に認められているこの社会では、そういった能力がある事は十分なステータスだ。IGHA公式の認定試験に合格すれば「信頼できる能力者」として高額の報酬(もちろん規定がある)を得る事が出来る。

 そんな世の中には当然だが「モグリ」の霊能者が跋扈するのもやむを得ない流れになる。社会人ならそんなのに引っ掛かる奴はよほどの奴だが、学生にはどうしても多くなる。学生には報酬を払える奴なんか少ないし、そうなるとどうしても格安で見てくれる「自称霊能者」が救いの神に見えるもんだ。

 そんな奴がうちの学校にも何人もいる。その中でも最近話題になっているのが心霊写真の鑑定を得意としている鬱木神奈(うつきかんな)だ。五千円で心霊写真を鑑定してくれるらしい。除霊はプラス一万円なんだとか。本当にそんな金額で出来るもんなんだろうか。俺が体験したあの除霊はとてもそんなんじゃ割に合わない。いや、それがあの金額だからなのか……。

「インチキに決まってんじゃん」

「即断だな……」

 うららちゃんにピシャリと言われてしまった。それも呆れ顔で。事務所はまだ電話受け付け前ののんびりした空気が漂っている。そこにたゆたうのは薄~いお茶の香りだ。何回淹れなおしたお茶っ葉なんだろう。

「いい? カメラにはね、霊なんか写らないの。覚えておきなさい」

「いやでも……昔から心霊写真ってあるじゃん?」

「それはみんな……トリックや操作ミスなの」

 薄~いお茶を大事そうにすすって俺をキッと見た。そういう顔はやっぱり可愛いだけじゃない。凛としたものがある。俺とは大違いだ。

「写真はね、可視光線しか写らないようになってるの。だから肉眼で見たのと同じ光景が写るのよ。分かる?」

「ああ……そうなの?」

「そう。昔のフィルムならそういう作りになってるし、デジカメなら赤外線や紫外線とか、可視光線以外をカットするフィルターが何枚も入ってるの。だから特殊な能力でしか見えない霊は写り得ない」

「もしもそのフィルターがミスで入ってなかったら? 写り得るんじゃないか?」

 食い下がるわけじゃないが、ちょっと聞いてみたい素朴な疑問だ。

「その場合はね、全体の色合いが変わるからすぐに分かるの。例えば天体写真用にフィルターを改造したカメラでそこらへんの街角を写したら、全体が赤みがかって変になるから」

「へぇ……」

「だからね、写真に写るなら誰にでも見えなきゃおかしいし、霊能者にしか見えないなら写真には写らない。故に心霊写真はあり得ない」

 うららちゃんが湯呑を置いて真剣な表情になった。正直、ちょっとドキッとする。

「とにかく! その人にはすぐに止めさせなさい。取り返しのつかない事になるかもしれないから」

 取り返しのつかない事……気になる。非常に気になる。どんな事を想定しているのか聞こうとした時、仕事の電話がけたたましく呼び出し始めた。スリルとビッグマネーと借金返済の時間が始まり、俺は応対にかかりっきりになり、鬱気の事は頭の片隅に追いやられた。

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GHOST HUNTER ――冴月うららの怪奇事件簿―― 秋月白兎 @sirius1

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