第7話 魔術大会の知らせ

 寝耳に水とはまさにこのことだろう。

 その知らせは突然に司の耳に入ってきた。


「魔術大会? 魔法じゃなく?」


「ええ。戦闘を想定した一対一の真剣勝負トーナメントよ」


 ここで司が感心したのは魔術の定義だった。

 魔法とは基本的に詠唱を必要とするため、一撃一撃は大きいもののどうしても詠唱時間という大きな隙が出来てしまう。

 そのため、魔法師は後方で支援に徹し、弓術士や召喚士が中衛として魔法師を守り、前衛が攻め込むというスタイルが一般的なのである。

 しかし、魔術とは一撃が大きいが隙も大きい法と、剣術、槍術、弓術等々の物理的な戦闘技を統合したものを指すという。

 この場合において重要視されるのは、魔法の発動速度と出力、そして、戦闘技術の熟練度である。

 より少ない詠唱で自身を強化する、あるいは支援する魔法を自ら発動し肉弾戦を行う。

 これらを一斉に制御するには非常に強靭な精神力が必要であるため、将来前衛になる者だけでなく、後衛の魔法師たちも経験を積むことでより大きな魔法を制御するための精神力を鍛えることが出来るという由緒正しき訓練方法でもある。

 普通であればこれらも含めて魔法と言い、魔法剣士や魔弓士なんて言ったりするものなのだが、あえて魔術という別ジャンルとすることで普段の勉強とは別に訓練をさせる意図があるのかもしれない。


「リーナは何を使うんだ?」


「火属性魔法を中距離攻撃の要としながら剣術を使うわ。

 年の離れた腹違いの兄がいるのだけども、実家にいた頃はよく稽古を付けて貰っていたの」


「やっぱり、この世界でも側室とかって貴族ならいるもんなのか?

 普通は正妻と側室で揉めそうなもんだが……」


 実際、以前とある貴族の領地で王命を処理していた時に、正妻と側室の面倒な諍いに巻き込まれたことがあったのだ。


「まぁ、そういうところもあるんでしょうけどね……

 ウチの場合は兄と弟の母・エリン母様と、私の母・アイナ母様とアイゼン父様は幼馴染でね。

 母様は庶民の出だったから側室に収まったけども、そもそも幼い頃からエリン母様の側使いをさせて貰っていたそうよ。

 それで意気投合してエリン母様には随分と溺愛されていたのだとか。

 そういうこともあって庶民の癖にって風当たりが強かったらしいのだけども、父様の求めと、エリン母様の薦めもあって側室に収まったみたい。

 当然、私もエリン母様には随分と甘やかして貰ったわ。母様が『甘やかしすぎ!』って怒るくらいにはね」


「なるほど、それで兄にも可愛がられたと」


「剣術を教え込む時点で可愛がるの方向は違う気もするけどね」


 年が離れていたとしても、両親よりは近い分、気持ちの面で気遣いはしやすかったのかもしれない。

 当の本人も苦笑いはしているものの、純粋にその異母兄を慕っているのだろう。

 その表情は実家で共に過ごしていた日々をどこか懐かしんでいるようだった。


「そういうツカサは何を使うの?

 貴方、こないだ戦闘能力もそこそこあるって言ってたでしょ?」


 ニーアのところでそんなことをチラッと漏らしてしまったのは失敗だったかもしれないと思いつつ、色々と聞いた以上答えないわけにはいかなかった。


「俺か? 俺は……なんというか」


「歯切れが悪いわね」


「端的に言えば何でもやれる。剣術も槍術も拳術、弓術、銃術、魔法、回復術に至るまでなんでもな」


「……え?」


 驚くのも無理はない。

 適正を複数持つことは別に不思議なことではない。

 剣術や槍術を扱うものが、武器を失ったときに備えて拳術を習うのは普通のことであったし、魔法師が簡単な回復術を習得することも至って普通のことである。

 しかし、俺の場合は適正がのだ。

 なにせ、精霊四属性に関しては全て魔法が使える上に、光属性を含めれば五属性の魔法が使える。

 それに加えて戦闘技術を複数所有するなど、一体どこの仙人なんだという話である。

 もっとも、俺からすればスキル等による恩恵が多いため、本当に極めた仙人なんて架空の人物より努力はしてないはずだが、よそから見れば結果が全てなので色々思うこともあるだろう。


「それ、本気で言ってるの? 私は何を召喚してしまったっていうのよ」


「さぁ、なんだろうな?

 俺も自分が何者か分からなくなってきてるんだ。

 ただ、行く先々ではこう呼ばれていたよ――星の守護者と」


――


あとがき

 もう少し、長く書くつもりでしたが、星の守護者の説明がこの物語の設定の根幹を担う内容なので、第8話に分けることにしました。

 明日の15時公開予定。気まぐれに新作いくつか書き始めたせいで更新まばら……

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