第43話 捜査戦線 ―消えた記憶を追え!!―


 真理華たちを隣の部屋へと案内し終えた敦賀が戻って来る。そして席に戻ると、前の話の再開を始めた。


「……さて、それではそろそろ本題に入るかねぇ……。今回来てもらったのは他でもない……。君本人に事情聴取をしたい事があったからなんだ」


「えッ!? 俺ッスか!?」


 岩平は突然のご指名にビビる。多分、無意識に事情聴取というものに、疑われてるかもしれないという意味を感じてしまうからだろう。しかし、この場合の事情聴取は別に容疑者とかの意味ではなかった。


「ああ、そうだ。被災時の状況、特に爆心地付近の生存者は君だけだからね……。真相解明の為には、君の証言情報がどうしても必要なんだ! ……もちろん、辛い記憶だという事は分かっている……。だがそれでも、被災過程やどんな兵器かを知るにはこれしか方法が……」                                  


 岩平は少し圧倒されていた。それは敦賀の質問内容ではない。敦賀の姿勢の変化の方にである。最初に会った時のおちゃらけた態度はどこへやら、気が付けば敦賀の姿勢は真剣そのものだった。これが俗に言う、本当の敏腕刑事って奴なのだろう。おかげで岩平には、辺理爺さんが何故この人を信用して協力しているのかが少しだけ分かったような気がした。


「べ、別にいいッスよ……。俺は平気ッスから……」


 その気迫に押されて岩平は頷く。己の気持ちもよくわからないままに……。


「本当かい!? なら、災害発生当初の状況から……」


「え、ええっと……。まずは閃光が起きてだな……」


 そこまで言った時、岩平はハタと立ち止まる。頭の中が真っ白になった――――――。


「…………え? あれ……?」


 気付けば、岩平の頬には一粒の滴が伝っていた。慌てて止めようとするが、それも無駄だった。拭っても拭っても、ダムが決壊するかのように溢れ出してくる。


「あれ? あれ!? なんだっけ……!? 思い出せない……ッ!?」


 三半規管が眩暈を起こし、胃が裏返るような浮遊感がした。そのまま岩平は地に転がって、嘔吐物を床にぶちまけてしまう。


「お、おヴェヴェエエエエエエッッッ!!!!」


「がんぺーっ!? 大丈夫っ!?」


「担架だ! 担架持って来いっ!」


 もう岩平には、周りの声は聴こえない。そのまま岩平の意識は、糸が切れるようにプツンと途切れてしまうのだった――――――――。




 ※※※




 鷹月警察署の医務室に緊急搬送された岩平はベットに寝かされていた。酸素マスクを付けられた岩平の口には、荒い呼吸音が聴こえている。他に響いているのは、点滴の落ちる音だけだった。


「がんぺー……」


 リーゼルは傍らに座って、ただひたすら岩平を見つめ続けていた。辺理爺さんがそこを替わろうと言っても、頑としてそこを動かなかった。


「……この痙攣に嘔吐症状、さらには、ある特定の過去への忌避反応……。やはりこれは――――――――、『心的外傷後ストレス障害(PTSD)』か――――――」


 それは、辺理爺さんが最も恐れていた精神疾患の名前だった――――。

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『VRTex<ボルテックス>』―天才幼女リーゼルの物理戦― 我破破 @gabber1905

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