第28話 抱擁

 ヴェンドールが予約したホテルは、ドリアスシティの中でも最高の治安を誇るイゴール地区にあった。リムジンがホテルのゲートを潜ると、(ルチアーノホテル)と書かれた看板が目に入る。


 そして広いフロントに着きチェックインを済ませると、アシュレーはその場に付き添うヴェンドールを見た。


「お前はどうするんだ?ヴェンドール」


「今日は私もここに泊まりますよ。その方が安全面でも良さそうですからね」


「そうか、助かる。ミカとリノをゆっくりと休ませてやりたいからな」


「部屋に荷物を置いたら、皆でディナーを食べませんか?その後にゆっくりと休むのがよろしいでしょう」


「そうだな、そうしよう」


 アシュレーとクルー達はその後、とびきり豪勢なディナーを摂った。麻酔が効いていて上手くナイフで切れないリノを心配して、アシュレーは牛フィレ肉を細かく切ってやった。

 

「リノ、痛むか?」


「ううん、痛くない大丈夫だよ〜」


「ゼメキアさんから消炎鎮痛薬をもらっている。ご飯食べたら飲もうな」


「うん!」


 そして皆はディナーを食べ終わり、自由時間となった。ミカとリノはアシュレーの部屋でテレビゲームに興じていたが、やがて時間も午後23時となり、二人共眠たそうに目をこすった。


「パパ〜、眠い...」


「リノも〜。アシュレーおじちゃん、一緒に寝ていい?」


「ああ、もちろんだ二人共。今日は色々とあったからな、ゆっくり休むといい。おじちゃんは軽くシャワーを浴びてくるから、二人共寝ておけ」


「は〜い」


 そしてアシュレーが熱いシャワーを浴びて体を洗い流し、脱衣所を出る頃には、ミカとリノも熟睡にいざなわれていた。アシュレーは冷蔵庫からビールを取り出すと、つけっぱなしのテレビを見ながら一気に飲み干した。そこで放送されていたニュースを見ながらアシュレーはシャツを着て、自分もベッドに横になった。枕元にブラスターを隠す事も忘れない。


 するとその気配を感じたのか、ミカとリノが目を覚ました。


「...パパ?」


「アシュレーおじちゃん」


「二人共どうした、寝付けないか?」


「パパが側にいないと、何か怖い」


「リノも...」


「よしよし分かった。俺はここにいる、安心して眠れ」


 アシュレーは挟まれるように真ん中へと移動し、二人を腕枕に寝かせた。二人の肩を抱きながら、アシュレーは薄目を開けてテレビを見つめる。やがて熟睡に落ちて、次の日の朝を迎えた。


 子供たちを起こさないようそっと腕を退けたが、ミカとリノはそれに気づいて目を覚ました。窓の向こうには朝日が上っている。


「う〜ん、おはようパパ」


「おはよう、アシュレーおじちゃん」


「おはよう。二人共、まだ寝てていいぞ。俺が早起きしちまったからな」


「ううん、あたしも起きる」


「リノも」


「そうか。ちょっと早いが、朝メシでも食いに行くか?」


「行く行く〜!」


「行こう、アシュレーおじちゃん」


「よし、二人共着替えて準備しろ」


 パジャマから普段着へと着替えたアシュレー達は、地上15階の食堂へと足を運んだ。ビュッフェ形式のブレックファストで、ウインナーやパン・サラダ、スクランブルエッグ、ハッシュドポテトなどが並んだバラエティのある朝食が並んでいた。


 席に案内されたアシュレー達は、早速食べたいものを皿に盛り付け、自分たちの席に戻った。アシュレーはウインナー数本とサラダ大盛りにパン、ミカとリノはスクランブルエッグにハッシュドポテトとサラダをチョイスした。


「美味しいね〜リノちゃん」


「うん、朝はこういう塩の効いた物が食べたいよね〜」


「ハハ、そうかそうか」


 すると皿に料理を盛り付けたギルボア人がアシュレー達に近寄ってきた。


「おはようございますアシュレーさん、早いですね」


「ようヴェンドール、お前こそ早いな。まあこっちに座れよ」


「よいしょっと。ミカちゃんリノちゃん、おはよう」


「ヴェンドールさん、おはよう!」


「おはようございま〜す」


「皆さん昨日はゆっくりとお休みになられましたか?」


「ああ、おかげさまでな」


「それは良かった。警備を増やした甲斐がありました」


「色々と手間をかけたなヴェンドール。助かったぜ」


「いえいえ、何のこれしき。時にアシュレーさん、この後はどちらに向かわれるのですか?」


「惑星ミニミーチュアだ。二万五千光年彼方の僻地だよ」


「そうですか。物は相談なのですが、実は私もミニミーチュアに用がありまして。よろしければ私も一緒に乗せていってはもらえませんか?」


 アシュレーはそれを聞いて怪訝そうな顔をヴェンドールに向けた。


「それは別に構わないが...一体あの星に何の用があると言うんだ?」


「ええ、ミニミーチュアに駐留する銀河連邦艦隊から呼び出されましてね。詳しい事情は後でご説明しますが、あの星が何故無政府状態にあるか、アシュレーさんはご存知ですか?」


 アシュレーは顎に手を添えて、新聞で読んだ内容を思い起こした。


「確か、星の開発を無理矢理進めようとする政府軍と、それに断固反対し星の資源を守ろうとするクーデター軍との争いが、未だに続いているのが主な理由だったよな?」


「その通りです。私はその件で調査する為に呼び出されました」


「何を調査するんだ?」


「公の場ではお答えできません。詳しくは船の中でお話しします」


「連れて行くのは構わないが、帰りまでは面倒見きれないぜ?」


「それで構いません。しばらくはあの地に留まる事になるでしょうから」


「OK、それなら乗せていってやる。但しあの星は物騒だからな。危険が及んだ場合は艦長である俺の指示に従ってもらうぞ?」


「もちろんですアシュレーさん。それでは早速部屋に戻り、準備をしてきますね」


「おう、俺達も行くか」


「わ〜い、ヴェンドールさんも一緒だ〜!」


「良かったね〜ミカちゃん」


 はしゃぐ二人を連れて、アシュレーは部屋に戻りスーツケースを整理した。その後クルー達皆が集合してチェックアウトし、リムジンに乗り込んでダグワール宇宙港へと到着した。ウートガルザ号の戦闘指揮所に皆が座り、発進準備を整える。


「皆聞いてくれ!ここにいるヴェンドールを惑星ミニミーチュアまで連れて行く事になった。皆よろしく頼む」


『了解!』


「皆様の道中邪魔にならないよう努めて参ります。よろしくお願いします」


 アシュレーがコンソールパネルを操作すると、左側のドノヴァンを挟んだ隣のスペースに、椅子が地面からせり上がってきた。


「さてヴェンドール、そろそろいいだろう。ミニミーチュアに行く真の目的を話してもらえるか?」


「はい。実は銀河連邦艦隊が、ミニミーチュアのとある箇所で、超古代文明の遺跡を発掘したらしいのです。その遺跡には、古代ギルボア語で書かれた壁画が存在するらしく、そこでギルボア語に精通した私に白羽の矢が立った訳です。元軍属ですし、セキュリティ面でも問題ないと判断されたのでしょう」


「なるほどな、そいつは面白そうな話だ」


 その話を聞いていたミアが茶々を入れてくる。


「遺跡っすかー、もしかしてお宝とかあったりして?」


「ホッホッ、ミアさん、その可能性も大いにありますよ。何せつい最近発掘された遺跡ですからね。誰も手を付けてはいないはずです」


「それはいいっすねー!ソフィーっち、お宝見つけたらどうする?」


 ソフィーはそれを聞いて指で眉間を摘みながら言葉を返した。


「あのねーミア、銀河連邦艦隊が発掘したのよ?勝手に持ち帰っていい訳ないじゃない」


それを聞いて、クロエとカティーも遠い目をして連想する。


「だがしかし、超古代文明か。夢があっていいじゃないか」


「私も一度この目で見てみたいものですわ」


 そしてウートガルザ号はワームホール航行に入った。

アシュレーはミカとリノのシートベルトを外し、二人を自室に連れて行く。そこで昼寝のため二人に添い寝して寝かしつけると、アシュレーは静かに部屋を出て戦闘指揮所へと戻っていった。

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