可愛いヤクザの話

心夜@今日からアイドルを始めたい!

可愛いヤクザの話

「組長! 敵の殲滅に成功しやした!」

「ご苦労さん。あとで報酬をくれてやる」

「へい!」

 

 俺……大和(やまと)心(しん)太郎(たろう)二十五歳がこの朝倉組に入ってから二年。

 朝倉(あさくら)義則(よしのり)組長とこうして毎日のように話すようになった。

 筋肉ムキムキで、髭ずらの怖そうな人だが、彼はとても優しい人だ。

 ちょっとした弾みで人殺しをしてしまった俺を、組員として迎え、今ではそれなりに命懸けではあるが充実した暮らしを送れている。

 

「おい大和、明日少し遊ぼうと思うんだがどうだ?」

「遊び? また丁半っすか?」

「いや、違えな。何だと思うよ?」

「分かりやせん……」

「そうか。きっとてめえさんも、童心に帰れんぞ」

 

 童心ねぇ……。

 

※※※

 

 俺にとって、捕まる前は下らない過去でしかない。

 学校ではクラスの隅っこで暮らし、中々帰ってこない親を待ちながら、家でご飯を食べて、親が帰る前に寝ていた。

 今の俺にとっては、親の顔より朝倉組長の顔の方が見た回数が多い。

 

「はぁ……今日も疲れたなぁ。部屋に戻ってテレビでも

「あぁ……緊張すんぜ……」

 

 あれは……。

 

「富田さん、どうかしやしたか?」

「ああ、大和か。実はちょっと困った事があってよ。女と話す術を教えて欲しいんだ」

 

 ゑ……?

 

「どういうことすか?」

「組長に、女を連れてきても良いって言われて……。知り合いの気になってる子を呼ぼうと思ってんだが、どうも俺……女に話しかけるの慣れてなくて」

「なるほどっす」

「大和! 何なら変わってくれないか? よく見たらオメエ山崎〇人に顔似てるし」

「いや世辞言って頼んでも無駄っすよ! 富田さんの好きな人なら、富田さんがちゃんと誘うべきです」

「そ、そんなあ……」

「せめて俺が近くで見守りますから、頑張りましょう! ね!」

 

※※※

 

 プルルル……プルルル♪

 

「もしもし……美咲か?」

 

 美咲か……。絶対可愛いなその子。

 あれ、でも富田さんって三十だっけ? おばさんか……。

 

「まあいうて俺もおっさんか。二十五だし」

 

 人をおっさんおばさん呼ばわり出来ない歳である。

 

 ピ♪

 

「どうでした?」

「会いには行くけど、何をやるのか見てからと言われたぜ」

「取り敢えず会ってはくれるんですね! 良かったじゃないですか!」

「ああ……スケバン辞めたあの子が会ってくれると良いけど……」

 

 スケバンって事は学生時代の知り合いか……。

 

※※※

 

 そんなこんなで当日がやってきた。

 

「富田さんの知り合い……まだ来ませんね」

「あともうちっとで来るはずなんだが……」

 

 そのまま数分後。

 眼鏡を掛けた赤い制服の女子高生が、俺達の前に現れた。

 

「おう美咲。久しぶりだな」

「お久しぶりです」

 

 学生時代の知り合いじゃなかった……。

 

「いや富田さん。こんな美人とどこでどう知り合ったんですか?」

「中学の時、彼女不良でな。その時仕事を手伝ってもらってたんだ」

 

 なんか犯罪者っぽい……。

 

「マジレスしてしまうとヤクザは犯罪者ですけどね」

「心読んだ!?」

 

※※※

 

「それで、何して遊ぶんですか?」

「花火」

「ゑ?」

「花火だよ。一緒にやらねえか?」

「……私、もう犯罪はやらないって決めてるんです」

 

 ……。

 

「……」

「では私は帰ります」

 

 富田さん……。

 

「待て待て待てい!」

 

 ? アレは……。

 

「組長!」

 

 しかも大量の花火を持ってきた……。

 

「美咲ちゃんだっけ?」

「ええ」

「花火やろうぜ! たまには童心に帰って」

「……でも、私は高校生」

「花火やるのに、年齢なんて関係ねえだろ」

「……良いんですか?」

「おう! その可愛い顔、涙で濡らして帰らずに、笑って帰ろうぜ」

「……」

 

 どうだ……?

 

「一緒にやりましょう!」

 

 その後は、時間を忘れるくらい楽しかった。

 先輩達も集まり、暗くなるまで。

 火は散り続けた。

 

※※※

 

初「あいつヤクザの仲間だったんかよ!」

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