第31話 決行前夜


 ――作戦決行まであと四日。


「そろそろ研究所の使いの連中が焦り始めている頃なんじゃないか?」

「ええ、痕跡も残さず失踪したのだから当たり前よ」

「学生端末のGPSの機能を消しといて正解だったね」

「GPSだって……?」

「ええ。金山君知らなかったの?」

「知らなかった……じゃあ俺の端末も」

「それなら俺が消しといてやったぜ?」


 KDが自慢げに言う。

 そうか、俺の居場所が分からないのはこのことか。


「よく分かったね。分解したの?」

「そんなことしないわ。推論よ」

「そ、そうなんだ……」


 やはりこの人たちは何かが違う。父さん含め人の域を超えている。

 でもまぁ、今更過ぎて驚くことはなくなったけど。


「とりあえずあと四日だ。四日で全てを終わらせる。覚悟しておけよー」

「言われなくても……!」

「そうか、ならいいんだ」


 あと四日で全てが終わる……か。


「どうした剣人」

「いやなんでもない。頑張ろうな正」

「おうよ!」


 ――作戦決行まであと二日。


「解析終了っと」

「お疲れさま、翼ちゃん」

「香恋先輩、いつの間にいたんですか?」

「なんか面白そうなことしてるなと。つい気配を消して観察しちゃいましたわ」

「そうですか。それにしても珍しいですね。こんな時期に生徒会室に顔を出してくるなんて」

「ふふふ、相変わらず勘の鋭い子ね」

「煽てないでください」

「そんな所が可愛いのだけれどね」


 香恋先輩はゆっくりと会長に近づき頭をなでなでする。


「や、やめ……香恋先輩!」

「あら、ごめんなさい。機嫌悪くしちゃった?」

「い、いえ大丈夫です」


 少し膨れたような表情で不満そうに答える。


「それで先輩、今日は何用ですか?」


 すると香恋先輩の表情が別人のように変わる。


「翼ちゃん、例の件のしっぽが掴めたわ」

「ほ、本当ですか!?」

「ええ、やっぱり『あの人』も関与していたみたいね」

「くっ……やっぱりか……」

「とにかく一刻の猶予もないわ。私の工作活動がバレるのも時間の問題。迅速な行動をすることをお薦めするわ」

「了解です。ありがとうございます先輩!」

「うふふふ、いいのよ、翼ちゃんの願いなら」

「香恋先輩、早速ですが一緒に来てくれますか?」

「行くのね?」

「はい」

「分かった。付き合うわ」


 ――月徒の民本部


「ほう奴らが動くか……」

「はい、ただ申しにくいことが……」

「なんだ?」

「月花学園の生徒会会長の向郷翼と同じく役員、早乙女香恋に正体が露見してしまいました」

「ふん、そんなこと承知の上で大胆な行動をとったのだろう?」

「……! お気づきでしたか」

「当たり前だ。お前みたいな優秀かつ冷静な判断ができる人間があんな馬鹿なことはしないだろう?」

「お見通しってことですか」

「とりあえずそっちの方は任せるぞ國松」

「はい、お任せを」


 城岩がゆっくりと腰を上げる。

 そして不吉な笑みを浮かべながら、


「さぁクライマックスだ。私たちの計画のため、邪魔する奴らは全て抹殺する。ふふふ、はははははは!」


 彼の高笑いが本部室の中で盛大に響き渡る。


 ――作戦決行前日。KDのアジトにて。


「お前ら分かっているな? 決行は明日の深夜から早朝にかけてだ。そこで全てを終わらせる」

「ダイスケさん一つ質問なのですが……」

「どうしたのかね白峰くん」

「北口から入るとのことですが侵入経路としては南口の方が入りやすいのではないでしょうか?」

「うむ。確かにそちらの方が入りやすい。だが、我々は罠だと踏んでいる」

「罠?」

「ああ、手薄にしてはいけない所の警備が薄くなっている。もしかしたら我々が来ることを察知した可能性があるな」

「そんな……知られるようなことなんて」

「どこで漏れたのか知らんが、これは誘っている。どっちにせよ逃げ隠れはもうできないわけだ」

「じゃあ計画通り三つの入り口から分かれてということで?」

「うむ、それでいこう」

「編成は前に言った通りだ。北口に俺と学園生全員、残り2つは脳筋FBIとSAT集団だ」

「の、ノウキンだと? ダイスケ!」

「あはは、悪い悪い冗談だ。それじゃあ皆、ミーティングは以上だ。あとは寝るなり、精神統一するなり各々の準備を進めてくれ」


 ミーティングが終わると俺はとりあえず部屋へと向かった。


「――いよいよか」


 命を懸けた戦闘がこれから始まるかと思うと緊張が高まる。

 だが、後には引けない。ここまで来たならとことんやり尽くすまでだ。


「お、気合い入っているねぇ」

「正……みんな……」

「金山くんここが正念場よ。必ずみんなで帰ってきましょう」

「そうそう! 一人でも欠けちゃったら意味ないんだからね!」

「そうだね、よし! やってやろう!」


「「「「「おおおおおおお!」」」」」


 俺と三人は手を翳し、団結を誓った。

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