第30話 作戦決行に向けて


 KDのサイドカー付きのバイクの乗せられてやってきたのは都市街から約30分の場所にある大きな豪邸だった。


「着いたぞ。ここが俺たち『滅殺の餓狼』の本部だ」

「なんだその組織名は」

「ああ、言っていなかったな。俺が組織の長となって立ち上げた反ラグーンズ組織だ。中には元ラグーンズ研究員もいる」

「マジか。いつの間に……」

「俺たちだけじゃさすがに奴らには勝てないさ。だからこそ綿密な準備が必要だったわけだ」


 俺たちはとりあえず中に入る。

 目を引くような豪邸の玄関を抜けると、中では屈強な男たちがゴロゴロとくつろいでいた。


「おい、みんな。新入りを連れてきたぞ」

「おお、KD。例のガキンチョか」

「ああ、でも今回はガキンチョの友人も連れてきた」


 俺たちはそれぞれ自己紹介を済ませた。


「オウオウ、ゲンキのいいことだねぇ。オレはマックス。こう見えても元FBIの捜査官だ」

「え、FBIだって!?」

 

 他にも元アメリカ海軍特殊部隊、Navy SELsにアメリカ陸軍特殊部隊のグリーンベレーなどその名の通り優秀な人材が集まっていた。中には現役のSATまでいるという事態だ。


 父は一体どうやってこんな人脈を作ったのかは分からないが、とりあえず頼もしい人たちということに変わりはない。


「君たちは作戦決行の日までここで身を潜めてもらう。まだ時間はあるが不用意に外に出たりすることは避けてくれ。ここが見つかったら厄介なことになる」

「わかったよとう……KD」


 他の三人もうんと頷く。


「それじゃあ私は先に休ませてもらうわ。色々神経使いすぎて疲れた」

「私も今日はお休みします」

「わかった。みんなありがとうねわざわざ俺のために……」

「そういうことは言うものじゃないわよ金山くん」

「うんうん。困ったときはお互い様! 助け合わないと」

「当たり前だ。一緒に夜を共にした仲だろ?」

「時宗くんそれ誤解を招くよ」

「おっといけないいけない」


 正がいつもの調子で爽快にボケる。


「みんな……」


 俺は今にも泣きそうになった。

 今までこんな感情は抱いたことはなかったからだ。

 

 誰かに、しかも赤の他人にこんなにも心配してもらえるなんて思ってもいなかった。

 

 俺は改めて良い仲間に巡り合えたんだなとこの時強く思った。


「それじゃあお休みなさいね」

「私も寝るね」

「うん、おやすみ二人とも」


 二人は各寝室へと入っていった。

 すると正が、


「剣人、お前は寝ないのか?」

「ああ、ちょっとベランダに出て夜風にあたったら寝るよ」

「俺も一緒に行っていいか?」

「お、おう……いいけど」

「じゃ、行こうぜ」


 と、いうことで俺たちは真冬のベランダへ繰り出すことに。


 時期はまだ冬真っ盛りである故、外はそれなりの寒さだった。

 でも凍えるほどの寒さではない。これは人工的に作られた季節である利点でもあるだろう。


「正、なんでこんな茨の道に進もうと思ったんだ?」

「それはどういうことだ?」

「こんなことをしなくても正たちはこの学園を難なく卒業できたはずだ。でもなんで俺なんかのために……」


 すると正はいきなりはっはっはっと笑い始めた。


「なっ、なにがおかしいんだよ」

「い、いや……お前はホント、自分の事を過小評価することが多いなって」

「そういうわけじゃ……」


 学業を筆頭にその他の分野においても俺は三人よりも大きく劣る。

 自分を過小評価しているんじゃない。レベル差を感じているだけだ。


 対等になるにはそれ相応の実力を持たなければならない。

それが普通なんだと俺は思っていた。

 だからこそ白峰さんたちがする行動の意味が俺には理解できなかった。


 普通なら眼中にないはずなのに。


「なぁ剣人、真の……本当の友達ってどういうことなんだろうな」

「本当の友達?」

「ああ、俺はその定義が知りたい。普通に話せれば友達なのか、そいつと周りの人にはない特別な『何か』があったら友達なのか」

「……それは」


 友達の定義なんて今まで考えたことがなかった。

 そもそも友達と呼べる人間が人生の中でいないに等しかったため、定義どころかその言葉すら俺の中で存在していなかった。


 悩む俺に正はふっと笑う。


「でもよ、友達という物がどういうものかって言うのは分かった気がするぜ」

「え……?」

「それはな……気を許せる相手ってことだ」

「気を許せる……?」

「そうだ、俺も今まで友達と呼べる人間なんていなかった。この学園に来てからだ他人と仲良くしたのは」

「そうなのか……」

「この学園でも前と同じような生活だと思っていた。だけどそんな時、お前に出会った」


 正は一息ついて話し始めた。


「お前の生徒会の活動を頑張る姿勢とその裏にあった大きな不安。でもこれと言って頼る者もいない、だからあんな大量の資料の山を一人で整理していたんだろ?」

「ま、まぁ……学園に入ったばかりというのもあったし俺自体、友達という他人が今までいなかったから……」

「俺はその時思ったんだ。俺と似ているなと」

「似ている……」

「話してみて分かった。こいつとなら仲良くやれそうだなって」

「それが今回俺に力を貸そうとした理由なのか?」

「ま、それだけじゃないさ。今まで一緒にやってきた仲間として俺たちが剣人を助けたかったからってことよ。それによ――」

「それに……?」

「裏で行われている政府の陰謀みたいなのも解明してボッコボコにしてやりたいって思ったからさ。だって面白そうだろ?」

「はははは……正らしいな」

「ありがとよ!」

「褒めてねぇよ!」


 俺たちはしばらくの間笑い続けた。

 そうか……この感覚が友達ということなのかもしれないな。

 ホント、この学園に入ってから初めてのことばかりで調子が狂う。


「だからよ、俺たちで暴いてやろうぜ。大人たちの理不尽を!」

「ふっ……そうだな」


 今まで何を不安に思っていたのかというくらい清々しい気持ちだ。

 俺にはこんなに頼りになる仲間がいる。今だったらどんなに強大な敵にも勝てるような気がしてきた。


 やってやる、負けてたまるか。


 こんな気持ちが俺の心の中に生まれた瞬間だった。

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