BLOODY BULLET

COTOKITI

第1話 青年よ進めよ進め、死の果てへ。

街中にあるビルの屋上の端に一人佇む青年がいた。


私の人生とはなんの為にあったのだろうか?

それが今の私にとっての最大の疑問だ。


「まぁ、そんな事はどうでもいいか……。」


今は早朝で人通りも少なく、誰も彼の存在に気付かない。

線路に飛び込んで死のうとも考えていたが、それでは他の人に迷惑がかかってしまうし、ミンチになって死ぬのは嫌なので断念した。


悩みに悩んだ末、ビルの屋上から飛び降りる事にした。

どうせ死ぬならこの青空の下で死にたい。

そう思ったからだ。


屋上からゆっくりと下を覗き込むと、下には豆粒の様に小さく見える自動車が道路を行き来していた。


少しの間覗き込んでいると、不意に下にあるその景色にすうっと吸い込まれそうになり、あと少しで頭からダイブする所で足を止めた。


「……はぁ……気が変わる前に早く飛び降りよう……。」


屋上の端に達、一呼吸置くと、空を見上げた。

真っ白な雲が青空に浮かび、鳥の囀りが聴こえる。


「……さようなら。 来世があればまた。」


その青年は一歩前に足を進め、体が大きく傾くと、頭から真っ逆さまに落下した。

いつも見ていた景色が反転し、それも落下で加速していくことによって何が何だか分からなくなる。


来世も人間でいられますように……。


ぐしゃ、と何かが砕ける音が聴こえ、青年の首が有り得ない方向に曲がり、頭蓋骨は潰れ、陥没し、頭を中心に血溜まりが広がっていった。


確かに、青年は死んだ…死んだのだ。

だが、彼は何の脈略も無く、目を覚ました。


「何処だここ……?」


何が起こった? 何故私は……"俺は"こんな所にいる?



どうやら俺は今、棺の様な箱の中に少し傾けられた状態で収納されているようだ。


「駄目だ……何にも思い出せないな……。」


あまりに中が狭いので、手を動かす事は難しいが、頭に傷が無さそうな所を見ると、やはり葬式や火葬では無さそうだ。


「どうするか? このままじゃここで飢え死にするぞ…。」


この箱はどこかに空気穴でもあるのか、多少息苦しくても呼吸はできた。

取り敢えず、どうにかして出られないか、目の前の壁を手を動かせる範囲でぺたぺたと触ってみるが、つるつるした大理石のような石材で作られている事が分かっただけで、出る方法は分からなかった。


「ホントに不味いな…この蓋あかな…うおっ!?」


蓋を無理矢理開けようと体重を預けようとすると、突然蓋が真っ二つに開き、前に重心が傾いた彼はべたんっと軽快な音を立てて床に突っ伏した。


「あっだ…だが何とか出られた……。」


額と鼻を擦りながら立ち上がると、彼はとんでもない事に気付いた。

そう、彼は今、全裸なのだ。

産まれたての姿で箱から放り出された彼は恥ずかしがったりする訳でもなく…キレた。


「どこの誰だ服用意しなかった奴は!? 見つけたら頭潰してピザみたいにしてやらぁ!!」


誰もいない部屋の中で"自分の言動に疑問一つ覚えずに"一人怒鳴り散らしながら局部を隠しもせず、見知らぬ部屋の中をずかずかと歩き回った。


ここ結構広いな…。

見た感じかなり古いし、遺跡の中か?


彼が入っていた箱は、部屋の奥の真ん中に設置されていた。

箱に歩み寄って見てみると、箱にはとても中2臭い魔法陣や見たことも無い文字が書き連ねられていた。


「なんだこれ? 何やら意味有りげだが…。」


中々に興味をそそる物だが、取り敢えずこの部屋から出る方法を探す事にした。


と言ってもこの部屋には出口らしき物が見当たらない。

箱以外は全て壁に覆われている。

試しに、周りの壁をノックして空洞があるか調べてみた。


「空洞があればそこの壁を壊すという方法も見つかるんだが…………おっ!あった!」


壁に耳を当て、ひたすら壁をノックしていると、一箇所だけ音が反響した所があった。

壊せそうか確かめる為に手で触れてみると……突然、そこの壁から淡く光る文様の様な何かが発生し、人ひとり通れる程の穴が空いた。


「こいつぁすげぇな! まるでダンジョンだ!」


自分が丸裸であることも忘れ、見たことも無いギミックに興奮しながら穴をくぐると、目の前に広がっていた光景は、異質なものだった。


「なんだぁこりゃ?」


彼がくぐった穴は、目の前にある古びた王座の真後ろにあり、どうやら王のような高い地位の人間がいる場所という事が分かった。


先程の石造りの部屋とは違い、部屋のあちこちに華美な装飾が施され、家具もこれまた価値のありそうな物ばかりだ。


ただ、その部屋を異質たらしめているのは、目の前に転がる何人かの骸骨と、所々にある壁や床が破壊された跡、部屋の中はかなり荒れており、何かが爆発でもしたのか、焦げて真っ黒になっている箇所も見受けられた。


「ただ事じゃねぇな……。」


部屋に転がっている骸骨は衣服や鎧を纏っているものが殆どだ。

女の物と思しき服装の骸骨や、髪の毛まで見つかった。


死因はそれぞれ違うようだ。

頭をかち割られた奴に、肋骨を折られた奴、そもそも首が無い奴、四肢が無い奴、特に目立った損傷が無い奴と様々な骸骨がありこれもまた彼の興味を惹く。


別に彼は死体好きとか歴史マニアとかそんなものでは無い。

単純にその場の光景に興味が湧く、それだけなのだ。


骸骨の傍にはそれらが生前使っていたであろう錆びた剣や、壊れて使い物にならなさそうな装飾が施された弓、首が無い骸骨の傍には柄の部分が鋭利な刃物によってか、真っ二つにされた槍があった。


「戦闘がここで起きて、こいつは多分槍ごと首をはねられたんだろうな。 お気の毒様。」


その骸骨を踏み越えて、部屋の脇にあった何処かの部屋へと続く扉を開けた。

その部屋は、どうやら、誰かが住んでいたらしく、ベッドや書き物をする机などが置かれていた。


窓は開け放たれており、そこから太陽の光が差し込み、部屋の中を照らしていた。


「なんかねぇのか?」


机の後ろにある椅子に座ると、机の引き出しの中を物色し始めた。

引き出しを開けて、何も無ければ閉めを繰り返し、一番上から二番めの引き出しを開けると、そこには何冊かの手帳があった。


「これ、まさか日記か?」


手帳の中には未知の文字で書かれた日付やその日にあったことなどがあった。

未知の文字で書かれている筈なのだが……何故か彼には理解が出来ていた。


「えーと、どれどれ…。」


パラパラと適当にページを捲って目に止まったページの日記を読んでみた。


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1701年 2月 10日


《18世紀が訪れてからもう一年が経った。

寒い中、妾の側近や部下達は熱心に働いてくれておる。 妾も頑張らねば。

それと最近、妾の息子であるフェリークが一人歩きをし始めるようになった。 息子の成長を眺めるのはとても楽しいものだ。》


最初は、こういった内容が続いていたが、ページを飛ばしていく内に、内容は段々と不穏な物となっていった。


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1703年 7月 9日


《部下の報告によると、我が領土に人間の兵士が複数人侵入していた様だ。 報告通りの見た目なら、メラード王国が送ってきた斥候の可能性がある。 もし本当なら狙いはもしかしなくともこの大陸にある豊富な資源だろう。》


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1706年 5月 25日


《とうとうメラード王国が我々オルドラント帝国に宣戦を布告した。

奴ら人間は自衛の為に我々が軍隊を持ち、武器を作り始めただけで過剰に反応し、オルドラント帝国に一番近いマリューレン皇国の沿岸に王国の主力の一つである第三軍を集結させている。

帝都だけでなく、国全体に緊張が走っている。 現在は側近であり参謀でもあるケールァが敵の上陸地点を予測し、その近辺に住む住民を内地に避難させている。》


「戦争でも起きてんのか?」


彼は日記に書かれた文章をまじまじと見つめながら呟いた。


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1710年 9月 18日


《今日も戦争は続いている。

数日前に工業都市で武器の製造を担っていたトラギが陥落してから我が軍は劣勢に立たされている。

我が軍の死者74万人に対し、王国軍は25万人。 オマケに王国は不足した兵士を金で操った冒険者共で補っている。 出来たてでまだ練度も足りない我が軍は既に負けの一途を辿っている。

側近が調べた所によると奴ら、勇者共を異界から召喚した様だ。

代償として何万もの人の命が奪われた筈だ。

そこまでして我々魔族を滅ぼしたいと言うのか奴らは?》


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1711年 8月30日


《もう殆どの部隊が壊滅した。 我々は帝都に立て篭り、四方から攻めてくる王国軍を辛うじて食い止めている。

もう駄目だ。 我が国は滅ぶだろう、魔族諸共。 だが、まだ今まで数々の戦場を生き抜いて来た不滅部隊と呼ばれた唯一の精鋭軍、第一軍が戦力として残っている。

それに、妾が指揮官の帝都防衛軍も健在だ。

彼らは全員、玉砕の覚悟で勇者共率いる第三軍に挑むようだ。

無抵抗で負けるくらいなら、一人残らず死んででもこの国を守り抜いてみせる。》


この先を見ようとしたが、それ以降は白紙で何も書かれていなかった。

他の手帳も全て白紙で、これ以降書かれた痕跡も無かったが、ある一冊の手帳から何かの紙がひらりと落ちた。


「これは……。」


その紙は手帳のページを一枚破り取った物だった。

その紙には急いで書いたのか、殴り書きで文章が書かれている。


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《妾の息子、フェリークよ、お前がこの手紙を読んでいる頃には既に我が国の国土と資源はメラード王国の手に落ちてしまっているだろう。

そこで、妾からお前に頼みがある。

仲間を集め、軍を作り、この国を王国から取り戻してくれ。

お前には出来る。 妾にはそれが分かる。

それと、これから必要になる物は全て部屋の奥にあるお前と妾だけが開けられるクローゼットの中に入っている。

全裸で反乱を起こされては後の世に変態国家と呼ばれてしまう。》


手紙を読み終えた彼は早速部屋の奥にあるクローゼットの扉の取手を掴むと、ぐいっと引っ張り、扉の錆びた蝶番がギイっと不快な音を立てながら開いた……。







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