第2話

 朝、目を覚ますと体の痛みは大分治まっていた。普通に生活するのに差し支えないような状態で、仕事も出来そうだ。しかし、念のために近所の病院で診てもらうようにする。会社に事情を説明して休みを貰った。

 近所の病院は歩いて十分ほどの所にある。しかし、当時の私は歩くという事が全く考えになかった。太っていた事もあるだろうが、そもそも運動するという考えが無い。わざわざ徒歩十分の病院へ車を走らせた。

その開業医の病院は、私は専門をよく知らなかったが、住宅街の中にある事もあってか何でもとりあえず診てもらうために患者がいっぱい来る。その日も朝から沢山の人が待合室にいた。

待合室の長いソファーの端に腰かけて、スマホをいじったりしていた。その頃には痛みも特に無く、昨日の事が何かの間違いに思えた。

 名前を呼ばれ、診察室に入り事情を説明すると先生はベッドに横になるように指示し、聴診器で胸の音を聞いた。そしてレントゲンと心電図を取ってみるから少し待合で待つように言われた。

私はそう言われても特に何も感じなかった。念のために検査する事はよくある事だ。

しばらくすると病院の奥で呼ばれ、ベッドに寝かされ心電図のセンサーを身体に張り付けられる。ヒヤッとする感触が気持ち悪い。ピッピッという音が静かな部屋に鳴り響いた。

そしてまた診察室に呼ばれる。先生は私に狭心症の疑いがあるから、今から総合病院へ行って診てもらえと言う。今すぐですか?と聞き返すと、今すぐだと言った。

待合室に戻されると病院受付の人が私の元へやってきて、周囲に聞こえないよう小声で話す。


「今からタクシーで総合病院へ行ってください。車はここに置いて行ってください」


そう言ってタクシーを呼んでくれた。

 この段階でも私は特に気にしていなかった。何故かというと、以前に同じような経験があったからだ。

大分前、胸に違和感があって別の開業医に診てもらうと肺炎かもしれないから総合病院にすぐに行けと言う。言われた通りに総合病院へ行き様々な検査を受けた。その結果異常は見られない、との事でお金だけ取られて返された。結構な金額だ。

きっと今回もそんな感じだろうと思っていた私は、手持ちの現金が少ない事を気にしつつ、タクシーに乗って総合病院へ向かった。

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