1サビ-精霊魔法

「____ゴホッゴホッ!」


一体なんなんだこの霧は。

当たりが全く見えない。


白いモクモクを手で払っていると、徐々に視界が晴れてきた。


すると、目の前に太く毛深い腕が現れた。


「うわっ!なんだこれは!


ってこっちも!」


視界を二本のゴツイ腕が遮る。



というかこれは……俺の腕!?



何故か突然腕毛が凄いことになっている。



まさか……この腕は……



恐る恐る下を見ると、服装も変わっている。


上着は先程まで着ていたバンドTシャツから、

白いタンクトップに変わり、胸毛がはみ出している。

下半身はジーパンを履いていた筈なのに、何故か真っ白なピチピチスラックスに。


顔を触ると、髭の薄い俺の口に、立派な髭が乗っている。



これは……間違いない……


まさか俺、フレディ・マーキュリーと……



「入れ替わってるーーー!?」



周りを見渡すと、皆騒然とこちらを見ている。

そりゃそうだ。

二十歳の男が突然毛むくじゃらのダンディーなオッサンに変身してしまったのだから。

あの冷酷な国王ですら、驚きを隠せず、目を丸くしてこちらを見ている。



「貴様その不埒な格好はなんだーーー!」



突然、群衆の一人が叫んだ。


「いやどこからどう見ても、スーパースター、フ◯ディ・マーキュリーなんだが。


不埒だなんて、世界のフ◯ディに失礼だろう。」


とは言っても知るはずもないか。


もし仮にこの世界にフ◯ディが召喚されて皆が知っているなら、今ここで霊魂を呼べる筈がないし、フ◯ディだったらこの世界でもロックの素晴らしさを世に知らしめていただろう。


それにしても、普通に日本語が喋れるあたり、姿形が変わるだけなのだろうか。

声は随分渋くなっているが。


試しに歌ってみようか……


「___ゴホン。皆静粛に。」


国王が落ち着きを取り戻し、場を鎮めた。


「このように、精霊魔法は使い手が思い描いた霊魂を、その身に宿す事が出来る。


霊魂が宿ると、意識は本人のままであるが、霊魂が生前に有した肉体、技能、思念を体現する事が出来る。」


ふーむ。要するに超ソックリなモノマネ芸人になれるってことか?

ただ、技能や思念を体現出来るとなると、ただの他人がやるモノマネ以上に、本人に成りきる事が出来るってところか。


中々便利な魔法だな。


「ただし、精霊魔法は鍛練しない限り呼び寄せられる精霊や霊魂が限られる。


その上自在に魔法を操れるようになるまでは、魔力が尽きるまで魔法は解けない。」


「なんだって!?


つまり……どういう事だってばよ!?」


「奏太殿の魔力が尽きるまで奏太殿はその姿のままであるし、


魔力を鍛練するまでその姿にしかなれないという事だ。」



つ、使えねーーー!!


いや、使いどころによっては役に立つけど、この格好にしかなれないのは不便過ぎる!


使うたびにさっきみたいに周囲を驚かせちまう!


流石にフ◯ディの姿であちこち歩き回るのは、誰も知らなくても目立ちすぎる!


「ち、ちなみに魔力はどれくらいで尽きるんだ?」


まさか1日中このままって訳じゃないだろうな……。


「まだ奏太殿は魔力の鍛練が進んでおらぬゆえ、数分で魔力は尽きるだろう。」


ボンッ


あ、戻った。


「このように、霊魂の憑依は制約が大きいゆえ、


冒険者は大抵精霊を呼び出すのに精霊魔法を用いる。」


なるほど……話はちゃんと聞いておくべきだった。


「さっきはフ◯ディを想像しただけで変身しちまったけど、


死んだ人を想像するだけで毎回変身するようになっちまうのか?」


それだと使えないどころか、日常生活に支障をきたすぞ……。


「いや、先程の奏太殿は鑑定により魔力を引き出された状態ゆえに、想像だけで霊魂が宿ったが、


基本的には魔力を練るためにある程度の集中が必要となるゆえ、その心配はない。」


なるほど。それは助かった。

そうでなければフ◯ディを頭の中から消し去らなければいけないところだった。


「精霊魔法は鍛練次第で高位の精霊を呼び出せるようになるゆえ、冒険にも大いに役立つであろう。」


「ちなみに精霊を呼び出す時は何を想像すれば良いんだ?」


「自分が呼び出したい精霊の姿や名前であるが、


最初のうちは魔力を練り、精霊魔法を使おうとすれば、魔力に応じた精霊が呼び出される。」


なるほど。とりあえず最初は適当に魔法を発動させれば良いってことか。


「どうであろうか。


奏太殿の願いとは異なるやも知れぬが、冒険者としての道を歩んでは貰えぬか?」


「まあ仕方ないか。連れてこられちまったのはもうしょうがない。


ファンタジーの世界ってのも楽しそうではあるし、やれるだけやってみるさ。


それに、俺はまだ諦めていないしな。」


「と、申すと?」


「俺がギターとロックをこの世界に広めて、スターになるって話だ。


いつかギターと、俺の音楽を、誰もが憧れるものにしてみせるぜ。」


そしてモテモテになって、ハーレム王に俺はなる!


「それは実に楽しみだ。高き志を誰も咎められはせぬ。


そなたの活躍を期待しておるぞ。


今回の召喚は我らの都合ゆえ、冒険者になるために必要なものはこちらで用意しよう。


金重殿もそれで構わぬか?」


「小生は構わぬでござる。」


金重はやけにあっさりしているな。

ギターや音楽への拘りはないのだろうか。

まあ変わったオタクなんだろうな。


「あのぉ……。」


話がまとまりかけてきたところで、響子が口を挟む。



「私も……冒険者になっても良いですか?」

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