婚約破棄の破棄と痴話げんか

空のかけら

婚約破棄の破棄と痴話げんか

「また始まったよ。あの2人プラス1の痴話げんか」

「全く飽きないわよね」


 場所は、魔法講義をしている講堂。

 別にクリスマスパーティでもなければ、卒業パーティーでもない。

 普通の授業中だ。


「おまえら、毎回毎回なぜ俺の授業の妨害をする」


 そう、講師が言っても、効果なし。


 何しろ、ケンカをしているのは、王太子とその婚約者である公爵令嬢。その王太子の横に行こうとして行けてないのは、男爵令嬢だ。

 だから、2人プラス1の痴話げんかと呼ばれている。


 講師が実力行使に出ようとしても、息の合った魔法防御で攻撃魔法は無効化される。偶に流れ弾が男爵令嬢に当たってダメージを受けているようだが。

 遮音シールドまで張っているようで、中で何を話しているか分からないが、仕草や口の動きでかなり激しい口論になっているように見える。

 講師が叫んでも、声が届かないのは、この遮音シールドの影響だ。


 遮音シールドが解かれた。

 いよいよ、痴話げんかは佳境に入った模様です。


 王太子が意味不明な言葉を叫ぶ。

 話すではなく、叫んでいる。

 毎回、うるさいことこの上ないが、ここで口を挟むと拡声魔法を使って学校中に声が響くから何も言わない。


 公爵令嬢も負けるものかと意味不明な言葉を叫ぶ。

 令嬢なのに、何をしているんだか、この人は。

 こちらもマナーなどと言うと、冷却魔法が放たれて、講堂に雪が降るほど寒くなるから、何も言わない。


 男爵令嬢が、やっと王太子の横に行くことが出来て、公爵令嬢のことを悪役令嬢だと言って、王太子に公爵令嬢にいじめられたと言う。

 ここも、毎回同じ。


 王太子は、その言葉に迎合するかのように、お決まりの言葉を言う。


「おまえがそんな奴だとは、知らなかった。婚約破棄だ破棄」

「王太子さま、真実の愛に目覚めたのですね。私、信じていました」


 真実の愛が、どういうものか分からないが、男爵令嬢はうっとりしながら王太子に寄りかかろうとした。

 しかし、それを華麗に避けると、顎に手を当てて独り言のようだが、みんなに聞こえるような言葉を出す。


「いや、待てよ。こんなに優良物件は他にないかもしれないぞ。王妃教育も、ほとんど終わっていると聞く。何しろ、幼い頃から一緒だから、黒歴史も知っている。いやいや、黒歴史を周知されないためには、婚約破棄はまずい」


 その言葉を公爵令嬢は黙って聞いていると思いきや、


「黒歴史ですか、何にしようかしら」

「わぁ~ちょっと待ってくれ。婚約破棄を破棄するぞ」


 男爵令嬢が、その言葉に


「王太子さまぁ~、真実の愛に目覚めたのでしょう。私と婚約しましょうよぉ~」


 しかし、王太子も公爵令嬢も男爵令嬢がいないかのように、振る舞う。


「やっぱり、公爵令嬢と婚約をしたままがいい」

「私との真実の愛がそこにあるのですね」

「ああ、さっきはすまなかった」

「いつもの事ですもの、信じていました」


 はっきり言って、痴話げんかから婚約破棄、そしてその婚約破棄を破棄して仲直り。

 何をしているのか、この2人は。


 そして、いつの間にかに忘れ去られる男爵令嬢。


 この時点で、講師がいじけている。

 講堂の隅の方で、床に渦巻きを書いている。


 渦巻き講師の自信を復活させるのは、男爵令嬢だが復活と同時に忘れ去られるのは、自業自得というか、因果応報というか、あちこちに媚びを売りまくったためだろう。


 そして、来週のこの講義の時にも同じことが繰り返されるのだろう。


 おかげさまで?当人たち以外は、全員補習である。

 いっそのこと、この時間を自由時間にしてくれないかと思っているけれど、無理だろうなぁ~。

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