第21話 帰ってきたら妹が○○状態でした!?

僕におぶられる雪は気持ち良さそうに小さな寝息をたてています。

少しの朝練で疲れるくらい眠れなかっただね。

……雪の気持ちにも向き合うべき…だよね。

江菜さんと話し合った方が良い、ですよね。

でも、その前に僕が恋愛をしたいと恋愛感情を持てないことには出来ません。


「……何で僕には恋愛感情がないのかな」


思わず口から漏れた本音。

同時に木の幹が降り積もった雪の重さに耐えきれずに落ちてきたようにいきなり不安が募っていく。


向き合うその気持ちに変わりはない。でも僕は長い間待たせたくありません。

本当にどうしたら。

『蓮なら絶対私か江菜の気持ちに答えれるようになれるよ。私も頑張るから』

さっき雪が言ってくれた言葉がふと頭に浮かびました。


僕は寝ている雪の方へ顔を向けて小さく「ありがとう」と呟いて雪の家へと歩み進みます。

お隣の幼馴染さんだから僕の家に戻ることにもなってるんですけどね。


◇◇◇


雪の自宅前についてインターホンを押しました。公園から戻ってきてからの時間はまだ午前6時20分起きてないと思いますよね。

でも、雪が朝練をするのは親は当然知っていて帰ってきたら空腹度マックス状態なので雪のお母さんは早めに起きてくれているので直ぐに出て来てくれました。

少々驚かれましたけど。

そのあと僕は数歩で到着する距離の自宅へと戻りました。


ガチャ


「ただいま」


「ん?…蓮地、おかえり」


リビング扉を明けて出てきた僕の母さん、春咲水樹は物珍しそうな表情を見せながら出迎えてくれました。

中学では部活やってたから朝に走り込みをしていて僕の母さんも早起きしてくれていました。その習慣が抜けずに今も早く起きて朝食と弁当を作ってくれています。

ありがたいですよね。


「ランニングなんて久しぶりじゃない。もしかして寝付けなかった?」


「うん、まあ」


「そっか。お腹は空いてる?」


「空いてる、かな?」


「何で疑問形?」


そういって笑いを堪えて二人を起こさないようクスクスと母さんは笑います。

いやだって、ホントに軽食取っただけだよ。

もしかしたらまだ残ってるのかもしれないけど。たった三十分のランだし。

と思ったらそれは只の杞憂でした。

リビングの方から漂う香りが食欲をそそり腹の虫がなりました。


「母さんやっぱり食べるよ」


「白飯どのくらい」


「今日は普通で」


部活をやらなくなってからは茶碗の半分ですが今日はプラス半分。


「分かった、じゃあ着替えてきなさい。母さんもこのまま食べようかな?……となると季吹さんは寝かせてあげて。蓮地、鈴奈の様子見てきて」


「うん」


僕は手を洗って着替えより先に鈴の様子を見に行くことにしました。


鈴の部屋は僕の部屋を通過した廊下奥の隣の部屋です。


扉前に着き僕は扉にローマ字表記で『SUZUNA』と書かれた掛札がかけられている扉をノックをしました。

起きていれば返事がくるからこれだけでも様子が少し分かりますよね。


「ウェルカムお兄ちゃん」


毎回なんですけど何で僕だって分かるのか不思議です。

ランニング一緒にできなくて落ち込んでるのかと思いましたけど声からして元気そうです。

とにかく僕はドアノブを捻って鈴の部屋に入り右端奥のベッドへと向かいました。


「鈴、どう?」


「うん大丈夫。ありがとうお兄ちゃん!」


「氷はちゃんと変えた?」


「心配は無用だよ…お、お兄ちゃん!」


鼻から顎にかけての赤みは引いてましたけど、念のため額の方も確認とりたくて鈴の前髪を上げて、見ると赤みは引いてましたけど擦り傷のようなものが出来てました。


「鈴、擦り傷が出来てるから絆創膏貼る?不格好になるけど」


「………あ、貼りゅ」


「じゃあ、はい」


実は二階に上がる前に絆創膏を持ってきていた蓮地氏である。


「えへへ、流石お兄ちゃん」


「お兄ちゃんだからね」


何故か恥ずかしがる鈴によく分からない受け答えをした僕はここに来たもうひとつの目的を鈴に聞きます。


「鈴、お腹空いてる?」


「うん」


「母さんが朝食作ってくれてるから行こっか」


「…………うん」


ん?その変な間は何?

気になった直後鈴が恥じらいながら教えてくれました。


「お兄ちゃん、あのね…その……私ね、今裸なんだ」


「何でや!?」


「関西弁だよお兄ちゃん」


「そんな事どうでもいいよ!何で裸になったや!?」


どういう訳か今この部屋は様子を見に来た兄と、掛け布団一枚剥ぐだけで裸体をさらしてしまうブラコン妹がいるというカオスな空間になっています。

お兄ちゃんはそんな変態に育てた覚えはありません。


「えっと、お兄ちゃんに抱えられた感覚を感じたくて、脱いじゃった」


「脱いじゃった、じゃないよ!てへぺろ的な感じで言っても駄目だよ!」


ブラコンにも程があるの妹よ。


「むぅ。だってお兄ちゃん、いてくれるって言ったのに出ていっちゃうから」


あれは鈴がキスを迫ってきたらじゃないと言いたいですけど、出ていったのは事実です。しかも外まで。


「それはごめん。でも、せめて裸はどうにかならなかった」


「無理」


「即答!?…そっかこれは夢なんだ。夢を見る夢の中。中々にリアリティーあるね」


「お兄ちゃん、現実逃避は良くないよ」


「部屋出た後に妹がいつの間にか裸体だった件、そんな…ラノベみたいなことあるわけないじゃないか!」


「既にお兄ちゃんのセリフがラノベっぽいよ…」


とと、とにかく服を着てもらわないといけないのて…部屋を出ないと。


「…じゃあ先に下に行ってるから着替えて来て」


「お兄ちゃん待って!」


そう言って鈴は僕を後ろから抱きつき引き留めました。

勢いよく抱きつかれふにょんと柔らかな感触が当たるのを感じました。

ジャージの中は薄生地の半袖シャツ。

だから、多分これは――



――本当に裸!!


「す、ず」


流石の僕もドキドキしています。

だって妹とはいえ後ろには裸の女の子が一人。

恋愛感情がないから欲情が湧くわけことはないにしても動揺はします。

僕は身構えるようにじっと立ち止まります。


鈴は何をするという事もなくただ抱きついた状態を維持して暫くすると


「…お兄ちゃん成分満タン。ありがとうお兄ちゃんドキドキしてくれて。裸っていうのは嘘だよ」


そう呟いてスッと離れました。

振り向くと体を布団で覆っていて明らかに脱いでると思わせる姿でした。

が、すぐにそれは杞憂となりました。布団から出た鈴はパジャマを着ていました。

ただいつものモコモコではなく無地のピンク色のパジャマ。

そのパジャマは透けることはないそうですが、かなり薄地らしいです。

そのせいで勘違いしたんだと思います。


……恥ずかしいです。


そんな気持ちを読み取ったように鈴はニコニコ笑みを向けていました。

思惑通りだったんでしょう。

でも本当に焦りました。これは色々と心臓に悪いです。

僕でなければ本当にどうにかなってましたよ。


「じゃあお兄ちゃん先に行ってて」


「……うん」


そして、僕は扉の方へ歩き部屋を出ました。

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