第20話 夢は正夢!?

ピピピッ、ピピピッ


目覚めはいつも眠気に抵抗しないで二度寝をする僕ですが、何故か今眠気は皆無で二度寝なんてする気が起きません。


その理由は鼻腔をくすぐる甘い香りと優しく柔らかな声が聞こえてきたからです。


「…はよ、おはよう、ほら、起きよう」


その声に寄り添うようにゆっくり瞼を開けていき、ぼやっと目の前の部屋の景色が映る筈でした。


「おはよう、寝坊助」


映ったのは少し少年っぽさのある小顔で栗色の髪のポニーテールの女の子はベッドで寝ていた僕に四つん這いに被さって小悪魔的で悪戯な笑みを浮かべながら僕を見つめていました 。


その正体は幼馴染の小羽織雪。

その雪が、


『蓮、私は貴方が好きです』


シンプルでストレートな告白を受けその後僕と雪の関係は変わりました。

もうただの幼馴染ではない。


「おはよう」


「驚かないんだね」


「…まあ、鈴に時折潜り込まれてるからね」


「…ふぅん。つまんない」


目を細めて口を尖らせてながら睨んでいる。

不機嫌になっています。


「蓮、私は今不機嫌だよ」


自分で言っちゃった。

そして、不機嫌な雪は眉を寄せてより不機嫌さをアピールして言葉を続けます。


「さて蓮さん。私の機嫌が良くなるにはどうしたら良いでしょうか。

一、謝る。

二、抱き締めてキスをする」


何その選択肢。キスって、何で?

だって告白は断ったよね。

どういう事?


「何を困惑してるの?……なら頑張った私にご褒美として、キス、して」


「ご褒美?」


近い距離をさらに縮めて詰め寄ってきて、その度に雪は頬を赤くしていきます。

それよりご褒美って?頑張ったって何?

その二つが頭からさっきから離れません。


「そ、江菜に勝って惚れてくれた、それだけでも嬉しい……だからね、惚れされるために頑張った私にご褒美、頂戴♪」


……そっかそうだ。恋愛感情がやっと芽生えて江菜さんと雪と何度もデートを重ねて、惚れたのが雪。

そして、今僕と雪は…


「本当の恋人になったんだから良いでしょ?」


そう言いながら雪はどんどん距離を詰めていきます。僕は縮まる度に心拍が小刻みになって同時に視線は艶かしい雪の唇から離せなくなっていきます。

………

……

いつの間にか瞑っていた目を開くとさっきと変わらない自室の天井がありました。

でも目の前に雪の姿はありません。

僕は即座に気づきました。


「……ゆ、夢……」


あああああ!


何て夢を見てしまったんだ僕は!

恋愛感情を持ってない自分が、恋愛する事に興味持てない自分が…雪とキスって。


夢に出て来た栗色髪の女の子の名前は小羽織雪。僕の幼馴染。昨日花見の途中雪に告白をされ、僕は振りました。


けど、雪は諦めることなく僕を振り向かせることを僕自身に宣言しました。


恋人がいれば諦めるところなのに。

でも僕の場合、雪が諦めないのは正しい。

雪の性格という事もあると思いますけど、先程僕が自問していた時に言った通り僕は自分の恋愛に興味がありません。でも他人の恋愛には興味があります。不思議ですよね。あり得ないですよね。

でも事実。

僕の彼女も雪もそんな僕の恋愛感情を芽生えさせて本気で振り向かせようとしているんです。


……さっきの夢は、もしかしたら恋愛感情が芽生えて江菜さんか雪のどちらかと両思い同士で付き合えるようになったらしたいとかそういう願望があって、昨日の告白でイメージが雪になったのかと考えましたけど……あり得ない。

だってそういう将来イメージを考えた事ないんですよ。

ずっと人の恋を助けることにご執心だったのに…もしかしてそういうのが募って夢に出てきた?


「それならそれでタイミングが悪いよ!」


疲れました。

目覚まし時計を確認するとまだ五時前でした。眠気はすっかり消えて、寝る気もさっぱりと。


「どうしよう」


と暫く考えました。


「久しぶりに走ろっかな」


僕はタンスの上から二段目にしまっている上下黄色のラインが入った青ジャージを着て腕時計を着けて部屋を出ます。寝起きは低血圧になります。運動すると急に血圧が上がるので大体三十分後が運動するのに良いらしいのでその間にリビングまで下りて炊飯器を開けて小さなおにぎりを作って軽食を取りました。


そして、リビングを後にして玄関に行くと「お兄ちゃんここにいたんだ」と声を掛けられたので振り向くと白のブラウスにリボンの位置を腰辺りに結び直した黒のリボンショートパンツ姿の妹が階段を下りていました。


「きゃ!」


ダン…ドン!


「…なんでや」


春咲鈴菜、僕の妹です。僕は鈴って呼んでます。理由は鈴がそう呼んで欲しいと言ったからです。

鈴はおっちょこちょいな所が少々あり、今も最後の一段という所で足を滑らせて一段を下りました落ちました

既にこういったドジは日常の日課になってしまっているのでつい関西弁でツッコンでしまった。

学校ではお姉さまといわれるほど確りものらしいんですけど、僕は………ブラコン過ぎる妹の姿しか知りません。


「うぅ~いてて」


ってツッコンでる場合じゃない。


「鈴、大丈夫」


一段ですけど


「うん大丈夫だよ(一段だし)」


「それで鈴はこんな朝早くに出掛けるの?」


「……まぁうん。それよりお兄ちゃんこそジャージ姿なんて久しぶりだよね。もしかして走るの?」


「うん。こんな時間に起きちゃったから」


「そっか、着替えてるときお兄ちゃんが起きた気配がしたから部屋に行ったんだけど終わった時にはいなかったから下かなって」


怖いんですけど家の妹!

やっぱりスキンシップ自重させるべきかな。うん、でも鈴だし、今更感ありますし。


「お兄ちゃん」


「ん?」


「私も走って良い?」


「良いけど、出掛けるんじゃないの」


「じゃあちょっと待ってて!」


「え?鈴!」


目を輝かせて自分の部屋に向かって駆け出して階段を上っていきます。

出掛けより僕優先、嬉しいようなもう少し自分優先にしてほしい所でもあるんですけど。


「ぎゃ!」


「鈴!」


鈴は二段目で足を引っ掛けてガンガンと顔面から滑り落ちていきました。

僕は直ぐに鈴の方に駆け寄りました。


「お兄ぢゃん」


向けてきた鈴の顔は擦ってやっぱり赤くなっていて涙目になっていました。


「今日はおとなしく寝よっか」


「……うん」


「じゃあ先に戻ってて氷水作ってくるから」


「ランニングいいの?」


「今日はたまたま早く起きただけだから」


「えへへ、ありがとうお兄ちゃん」


鈴は痛々しい顔で笑顔を見せてくれました。

僕には子どもっぽくて少しおっちょこちょいなせいでドジな所があってブラコン過ぎますけど。

鈴はこのままで良いかなって、自重させたら鈴らしく無くなるそう思いました。

それに今ではそれが可愛いですし。


その後暫く鈴をリビングのソファに寝かせてタオル越しに氷水で冷やしてから鈴を抱えて部屋に戻りました。

鈴が眠りにつく間、頭撫でてと言われて撫でたまでは良いんですが、ぐいっと抱きつかれて僕がそれだけだと油断した所でキスされそうになり、僕は鈴を引き剥がして逃げました。

で、結局朝のランニングをすることになりました。


◇◇◇


「お兄ちゃんの…あほ」


私の気持ち知ってるのに、こんなに思ってるのに。

ねぇお兄ちゃん。江菜さんと雪さんの気持ちには答えようと頑張っていくんだよね。

何で私の気持ちには答えてくれないの?

兄妹だから?血の繋がった妹だから?


悔しい。

他の人の恋には興味津々と変わった絶食系のお兄ちゃんが今は自分の感情と向き合い始めた。

そしてそのきっかけを与えたのが彼女となった江菜さんで雪さんもそれを知っていながら告白して、諦めずに恋愛感情が芽生えたとき自分に振り向くように頑張ることを決意した。負けじと対抗して江菜さんも攻めに行くつもりみたいだし。


私だって振り向かせたい。

お兄ちゃん、好き、大好き、愛してる。付き合って結婚したいくらいに愛してるんだよ。

お兄ちゃん。

負けてられない。でも


「何で答えてくれないのお兄ちゃん」


なんて私が言えるわけない。


◇◇◇


鈴の行動で思わず外まで出てランニングしてますけど、逃げるのはよくなかったです。


「はぁ」


それでも僕は溜め息を吐きながら住宅街を走り回ります。

住宅街を走るだけでも十分距離はあるため住宅街の中心辺りにある公園をゴール地点にして走ります。

三十分程して公園が見えてきました。大体学校の持久走くらいの時間かな。でも徐々に速度を上げて走ったので距離は持久走以上にあると思います。


「はぁ…はぁ。久しぶりだと…やっぱり……少しキツイ」


公園に到着して僕は直ぐに息を整えるためにランニングからウォーキング変えて公園一周を始めます。


パカン!…パカン!…パカン!


何か打ってる音?コートから。

この公園にはバスケのハーフコートがあります。住宅街の中心にあるのにちょっと大きいんです。そのコートから何かを打っている音がします。

心音で聞こえてなかったみたいです。


腕時計で時間を確認すると6時5分でした。

僕はその音が何となく誰の者か分かった気がします。


コートは防護マットと張って壁を高めに作っているので入り口まで回らないと中は見えないんですよね。

なので僕は、公園入り口の反対側にある入り口まで駆け足で向かいました。

そして、コート入り口のある場所迄回ると中にいたのは練習用のテニスウェアを着た幼馴染、僕が昨日告白を受けた張本人雪でした。


キィ


「ぁ…やっぱり雪だった」


「ん?…れーん!」


「うぶ!」


中に入る時のフェンス扉の音に反応して振り返った雪は僕と分かって直ぐに駆け寄って抱きついてきました。

雪が抱きついた事で豊満な胸が押し当てられました。

雪に抱きつかれるなんて初めての事で頭が困惑して余り分かりませんけど、感覚としては柔らかくて物凄いボリュームで張り?もあると思います。

そして、練習してた事で掻いた汗から漂う匂いはこう誘惑するようなもので僕はドキドキするだけで他のだったら冷静でいられなくて可笑しくなってたと思います。


「そうだ蓮。こんなところで何して…ラン?」


僕のジャージ姿を見て雪は何をしているのか察したようです。


「うん。そういう雪はテニスの練習」


「正解。っていっても15分前だけど」


それにしては汗が一時間程やったってくらいの量が出ているように見えます。


「ぶっ通しでやってた?」


「分かる?まあ分かるよね。汗凄いし。蓮は何時から?」


「僕は5時半過ぎ」


「早っ!…あ〜、でもそっか実乃鐘入る前は部活で朝、毎日走ってたもんね。でも今日はどうしたの?」


「……ちょっと早く起きちゃって」


言えない雪と恋人同士でキスを迫られた夢を見て起きたなんて、絶対に言えません。


「蓮?」


小さく悶えていた僕を心配して覗き込むように顔を近づけた雪に声を掛けます。

心配する声に反応して目を開くと雪と目が合い雪は顔を茹で上がったタコみたいに真っ赤にして体ごとそらしました。

僕?僕は分かるでしょ。あっ目線が合ったってだけです。


「…ご、ごめん」


「何で謝るの?」


「それは…その」


「顔を近づけたことなら心配してくれたことなんだから寧ろありがとうなんだけど」


「……そっか。そうだよね」


そう言って雪はいつもの明るい笑いました。

無理はしていないです。


ぐぅ〜


「あはは、お腹空いちゃった」


「もしかして、朝食たべずにしてたの」


「……うん……その、私…本当は眠れなくてここに来たんだ。蓮に振り向いてもらうために頑張るって気持ちが段々強くなってそれで眠れなくなって……気づいたら6時でした」


確かによく見てみると少しだけ隈が出来ていました。


「目の下余り見ないで欲しいかな」


「あ、ごめん…雪あの」


「あぁうん分かってる。寝てなくて食事もしてないから早く帰れって言いたいんでしょ」


その通りです。

告白は誰にとっても勇気のいるものです。雪が眠れないのも納得できます。

突然不安が募ってきました。


「蓮なら絶対私か江菜の気持ちに答えれるようになれるよ。私も頑張るから」


「……うん。帰る?」


「うん」


雪はラケットをケースに直すためケースのある方へ走り、直すと肩に掛けて戻って来ました。


「じゃあ蓮おんぶして連れて帰って」


「何で!?」


「…だって、お腹空いて…歩いたら家まで持たないかも」


「……了解」


「よし!お礼に思う存分胸の感触背中で味わって良いから。…ん?でもそれはお礼にならないかな…手で触る?」


……何か雪が変です。

いくら言いたいこと言うとはいっても恥ずかしいことを言うなんて事はないのに…余り。

そういえば昨日寝てないってさっき。

どうやら寝不足は人を可笑しくするんでした。


「蓮、無視しないでよ」


雪はむっと膨れっ面になっていました。これが何かのアピールなら良いんですけど本当に不機嫌何ですよね。


「ご、ごめん」


「…悪いって思ってる?」


「うん。思ってる思ってる」


「…許してほしいかぁ!」


「お、おぉ!」


「なら選択肢をやろう

一、胸を触る」


ん?何か覚えがある様な無いような内容なんですけど。でも余り良くない予感が


「二……キスして」


正夢だぁ!

あの夢は願望じゃなくて予知夢だったの?

どどどど、どうしようとにかく連れて帰って寝かせます?


「雪帰って寝よ。寝不足でテンションが可笑しいよ」


いやもう可笑しいのレベルを超えてますよねこれ。酔ってる?みたいな


「蓮、もしかして恥ずかしいの?可愛い。…えへ…もっと見たいかも何がなんでもキスしてもらおう!おりゃ!」


雪が飛び込んできたので避けると危ないので回避を選択肢から消したせいで僕は雪に押し倒されてしまい手首を押さえられて上手く動かせない。


「ああヤバい完全徹夜明けテンション(かも疑わしい)雪怖い……ちょっと首筋を舐め…くすぐった!」


「怖くないよ、えへへ、でへへ〜」


雪の顔が唇が徐々に近づいてくのが運動後の雪の放つ体温で伝わってきます。


「…………あれ?」


抵抗できずもう駄目だと目を閉じていたら雪の攻めが中々来ないと思った瞬間ポスッと体に軽く重みを感じたので目を開けると「すぅ…すぅ」と雪が安らかな吐息を溢して気持ち良さそうに僕の上で寝ていました。


「ドキドキした」


別の意味で。


僕は雪が起きないようにゆっくりと何とか離れて、雪をおぶって自宅へと向かいました。

でも、あの夢がこの事を指していたと思うとホッとしたようなしないような。

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