第6話 異世界は無かったのです

 俺は女神ルナの自己主張された胸を見てうな垂れていた。


 俺は健全な男の子だ。これは仕方ない。だけど一旦平常心に戻ろう。このままでは話が進まない。


 罪悪感ざいあくかんをかき消す都合のいい考えをした。


「生き返れると分かって安心した? もう大丈夫だからね」


うな垂れていた俺に女神ルナは優しく声をかけてくれた。


 俺の思いと違い、女神ルナは俺が戻れる事の安心から下を向いてホッとしていると勘違いしたらしい。


 俺はうな垂れるのをやめて、正座から胡座あぐらに座り直して女神ルナと一メートルくらいの距離で向き合った。女神ルナは女の子座りをしている。


「女神様——」


「ルナで良いわよ。女神様って言われるのは慣れてないから。それに敬語もいらないよ」


「そうなの? わかった。じゃあ女神様——」


「ルナって呼んでー!」


 そう言って可愛らしくほっぺを膨らませた女神ルナ。それを見てつい笑ってしまった。それにつられて女神ルナも笑った。


「ゴメン、ゴメン。生き返るって言ったけど、もしかして異世界に転生とか転移とか? 」


「異世界転生? 転移?」


「異世界は男の浪漫ろまんです」


「えっ? 男の子は皆そうなの?」


「そうなのです!」


 そう言われて、女神ルナは右の人差し指をくちびるに軽く当て、


「うーん、異世界かぁ。小説でよくある今の姿のままで、チート能力を女神から貰って剣と魔法の世界に転移したりの異世界?」


「そう、それ」


「もしくは悪役令嬢が転生して年を取っておっさんになったらハーレム要員になった。とかの異世界?」


「何それ? そんな小説あるの?」


「知らない。適当に言っただけだよ」


 そう言ってルナは笑った。


 くっ、可愛い子が笑うとこんなに笑顔は可愛くなるのか?


 俺はちょっとだけ顔が赤くなり鼓動がちょっとだけ早くなった。


「異世界なんて無いよ。残念だったね拓海君。それに、生き返るのは人間界にある拓海君の体だよ」


「異世界は無いのか。残念。——ん? 人間界? 何それ?」


 俺は意味が分からず首をかしげる。


「そういえば、人族の拓海君は知らなかったね。拓海君の生きている世界、宇宙って言うと分かるよね?」


「宇宙は分かる」


「宇宙を私達は人間界って呼んでいるの。地球以外にも人が居る星も有るんだよ」


「そうなの⁉︎ 凄い!」


「剣と魔法の世界の星もあるんだよ。それと私達の住んでいる世界は、天界と魔界って所なの」


「おおっ! 剣と魔法の世界の星ってあるんだ! それにルナの住んでいる、てんかい? まかい? 全部で三つの世界があるの?」


「そう、天国の天と世界の界と書いて天界。魔法の魔と世界の界と書いて魔界、あと人間界で三つの世界があるんだよ」


「天界はなんとなく分かるけどさ。魂の行く所とかなのかな? でも魔界って怖そうなイメージだよなぁ」


「魔界は怖い所では無いんだよ。天界と魔界は同じ環境で美しくて過ごし易いんだから」


「そうなの、ゴメン」


「それは仕方がないよ。人間界の人達のイメージはそんな感じなんでしょ?」


確かに天界は天国、魔界は地獄って思ったからな。


「それとさっき俺の事、人族の拓海君って言っていたよね? 人族って?」


 そう俺に聞かれて、女神ルナはあごに手を付けた。何かを考えている様だった。


「……ねぇ、拓海君?」


「何?」


「この世界の事知りたい?」


「この世界?」


神世界しんせかいの事——」



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