口裂け女のコンプレックスを解消したらどうなるの?

ちびまるフォイ

私…キレイ…?

それは人がいなくなった夜の路地裏だった。


街灯もぽつりぽつりとしかなく、

ぼんやりと照らされた道路はかえって不気味。


しんと静まり返った夜。

帰り道を早足で急いでいると街灯の下にひとりの女がいる。


髪は長く、赤いロングコート。

顔はうつむいてじっと立っている……。



「ねぇ、あなた」



思わず声をかけられてしまい足を止めた。


「ねえ、あなた」


じとりとした声に女の方を振り返る。

女はうつむいていた顔をあげると、口を隠していたマスクを取る。



「わたし……キレイ?」



マスクを取った女の口は耳まで裂けて――。


「自信がないのか!?」

「え?」


「誰かに聞くってことは自分の美しさに自信がないということだね!!」


「あ、いや」


「実はわたしは女性をターゲットにしている美活ジム『Pザップ』を運営していてね!

 君も入りなさい! そしてあなたのコンプレックスを一緒に解消しましょう!!!」


口裂けはジムに入るとありとあらゆる最先端の技術で美ボディへと生まれ変わった。


「はいもっと!! 声を出していこう!!」


「ぶーち! ぶーち!!」


「まだまだできるはずだ!! もっと声を出して!」


「ぶーちぶーち! ぶーちぶーちっ!!」


「まだまだあきらめるな! あと100セット!! 返事は!?」


「ぶーち!!!」


口裂け女はコーチの熱い指導により割れた腹筋と

引き締まった肢体を手に入れることができCM出演まで果たした。


「ナイス、ザップ。君はこれで生まれ変わった。

 もう「私キレイ?」なんて聞く必要はない。すでにキレイなのだから!」


「いや、私が気にしているのは体じゃなくて、むしろ顔で……」


「な、なんだって!?」



「お困りのようだな」


「あなたは……!? 天照クリニックの委員長!?」


「あなたのコンプレックス、私がみごと消してみせましょう。

 さぁ自家用ヘリコプターに乗ってください」


「いやちょっ……」


美ボディになった口裂け女はヘリコプターに乗ると、

そのまま南国の空を回りながらヘリの中で手術が行われた。


「終わりましたよ。鏡をご覧なさい」


「これが……私?」


鏡にうつる自分はすでに別人だった。

コンプレックスだった裂けた口も跡形もなく治されている。


「いかがですか? これでもう"私キレイ?"なんて尋ねる必要はない。

 あなたは体も顔もすっかり美しく変わったのですよ」


「え、ええ……同時に自分のアイデンティティを失った気さえします……」




「お困りのようだね」


「お、お前は!?」



「私は心をキレイにする心療セラピストBINGO。

 こんなにも美しくなった自分を受け入れられないのはあなたの心が

 外面の美しさに釣り合っていないからSA☆」


「どういう……ことですか?」


美ボディになり、顔もきれいになった口裂けてない女はぽかんとしていた。


「ひらたく言えば、僕が君の内面もキレイにするって話SA☆」


「いやそれはちょっと……」


「ノンノン。その余計な遠慮は美しくない内面を持っている証拠SA。

 そういう人こそキレイにしがいがあるってものSA☆」


「ちょ、ちょっとーー!!」


口裂けてない女は男に連れ去られると、

怪しいいくつかの儀式をへて内面からも美しい女性へと変化した。


「どうだい? 内面もキレイになった気分は」


「ええ、とても良い気分です。今までどうして私はキレイになることを拒んでいたのか。

 今となっては理解でいません。あっ、小鳥が鳴いている」


口裂けてない女は足音が「しゃなりしゃなり」となるほど内面からも美しくなり、

言葉遣いから所作ひとつひとつが美しく磨かれた。


「これでもう"私キレイ?"なんて尋ねることはないのSA。

 なぜって? それはあなたが心身ともにすでに美しいからSA☆」


「ええ、私もそう思います。

 必要以上の謙遜はかえって相手への嫌味になりますから」



こうして、3賢人の力によって恐怖の都市伝説「口裂け女」は解決された。




その後……。




「私……キレイ?」




かつての路地裏では、多額の請求で借金まみれとなった通帳を見せる

「通帳女」という恐怖の都市伝説が今なお語り継がれている……。

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