ゆこう東の森へ

「ふんふふーん♪ふんふふーん♪ふふふんふふーん♪」


少女は鼻唄を歌っていてご機嫌だ。


「何の歌だ?」

「登山列車の歌!」

「なんだそりゃ。」

「うーん。知らなくて当然かな。」

「なにそれ、逆に気になる、イラつく。頭にメロディーが残る。」

「ようこそ無限ループの世界へ。」

「何?その世界。」


少女とスパロは駆けてていた。猛スピードだ。どんなに凄い駿馬でも、二人には追い付けないだろう。


スパロは身体強化の魔法をかけて、速く、かつ疲れないようにして走っている。彼の得意技である。一見簡単そうにも見えるが、魔力のコントロールが微細なため、高度な技であった。


ちらりとスパロが横をみれば、少女は涼しい顔をして走っている。スパロはかなり速く走っているので、それに付いてくる彼女ははっきり言って異常だ。しかし、スパロは驚かない。この少女なら何をしてもおかしくはないと思えた。何より彼女がギルドマスターであることを知っているのだし、その強さは見たことがある。

ただ、隣でフニうんちゃらフニうんたらと謎の呪文のような歌を歌う少女がギルドマスターであるという違和感だけは拭いきれなかったのだ。


「なぁ?スパロ、お前は今、なんで私みたいなガキがギルドマスターなんだろうとは思いはせんかったか?」

「だいたい図星です。」

「あっ、敬語は結構だよ。敬う必要もない。むしろ敬語だといざというときに私が子供であることを疑われる。」

「やっぱ、子供に見られたいんだ。」

「その方が色々便利だからな。この前の本部の騒動の時は色々威圧する必要があったからでかくなったけどね。私の正体見られちゃったからあの場にいた人間は大体記憶が曖昧になるようにしといたんだ。」

「俺には?」

「かけていない。お前は中々使えそうだったから免除だ。」


そうして只今絶賛使われ中ってわけか…。


スパロは心の中で呟いた。


「そういえば、あんたの名前ってなんだ?ギルマスって呼ぶわけにもいかないだろう?」


彼は話を続けた。


「ギルドマスターの名前は一応公開されているぞ。色々書類の隅にも書いてあるじゃないか。」

「俺はギルドマスターの名前が書いてある書類はギルド登録した時くらいしか見なかったけど。たしか、アズサ・シノカワ。」


スパロがギルド登録したのは何年も前の話だ。彼の記憶力に拍手したい。


「その名前だよ。」

「嘘だろ!俺が登録したのは十年くらい前だぜ。この前変身してたのが本来の姿だとしても、若すぎる!せいぜい成り立てギルマスって感じじゃねぇか!」


この前とは本部の騒ぎのこと、彼女は美女に変身したのだ。


「阿保!見た目に騙されるなよ。というか私はこれが本性だ!あれはよそ行きの仮の姿だよ!かれこれギルマスやって三十年は経つ!」

「はぁっ?!」

「私はだな、過去に討伐した邪竜の呪いで歳をとらねぇんだよ!」

「うっわぁ。自業自得。えっ、じゃあ何年生きているんだよ。」

「かれこれ二百五十年くらい?」

「まじかよ。」

「あと、名前の件だが、その時の呪いで偽名が使えん。だけどアダ名はオッケーだから、あーちゃんって呼んで!」

「オッケーあーちゃん。ってか呪いの基準曖昧だな。」


このギルドマスターはやっぱりどこかおかしいと、スパロは思わなくなるほど、スパロの彼女に対する判断基準は劣っていた。


ふと、面白い案を思い付く。


「なぁ、俺は速いのが売りだか、あんたもかなり速く走れるだろ?競争しないか?俺がどこまであんたを離せるか。」

「いいねいいね。よし、じゃあ、一緒にスタートして、目的地まで全力ダッシュしてね?私は出来る限りあんたについていくから。但し、あまりにも離れすぎたら止めようね。」

「オッケー。じゃあ、あそこの巨岩からな。」


二人は急ブレーキをかけて止まると、道端の巨岩の横に並びました。そして、


「位置について!よーい………どんっ!」


合図を聞き、少女を振り切ろうと、スパロは全力で魔力操作に集中をして走り出したのだった。

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