ep7/??「火星宙域内ゲート防衛線強行突破作戦」

 火星への超長距離ワープ作戦開始から数時間──当初の予定通り幾数百もの外訪者アウターの猛攻をかい潜り、必要量の線孔攻撃を集めることが出来た。

 いかなる大質量の物体も容易く消し飛ばせるほどの威力を持つそれは、巨大な塊としてクラインボックス内にストックしている。戦線を一時離脱した一行はこれを使い、次なる目標地点である火星を目指す準備を進めていく。


『これから私たちが向かうのは火星周辺。その衛生軌道上に存在する外訪者アウターの本拠地へ繋がるゲートへとカチ込みます。道中では推定一万体もの外訪者アウターがいますが、気にせず行きます。なにか質問ありますか?』

「はーい。えっと、春季の目標だから巣に行くのはいいとして、別の冬菜さんを救うのも目標に入れちゃってもいいんですか? 一応は同じ存在とはいっても、巣を破壊して地球に戻っても本人的には意味ないんじゃ……?」


 出発前の質疑応答タイムで、カタリは常々考えていた疑問をぶつける。

 エターナルの正体判明により分かった世界線云々の話。この世界の地球にいる冬菜は春季の救いたい冬菜ではないことが分かった上で、なおアウター核の破壊を目標に入れる意味を求める。


 本人の前ではあまり大声で言える話ではないが、同一存在とはいえ別人を救う義理はないはず。このままエターナル撃破を優先し、達成後は春季の世界を探し出し、春季自身も元に戻す方法を探すのが道理ではないのだろうか、とカタリは考えている。


『甘い! 先も言いましたがノベライザーでも無数の世界線から特定の世界線を見つけだすのは難しいんですよ。それこそ何週間かかるかも分かりませんし、時間のムダです。そんなことをするよりも、最悪なケースを想定して春季さんには覚悟して割り切ってもらうしかないんです。ですよね、春季さん?』


 その質問に対する回答は、やはりというか手厳しい内容だった。

 奇跡が起きなかった場合を見越し、春季には否応にも冬菜べつじんのことを割り切ってもらうしかないという。現実を突きつけ、なおかつをそれを受け入れさせるのは流石にあんまりな気がしなくもない。

 話を振られた本人は、そのことについての自身の考えを口にする。


『……もしも奇跡が起きなかったら、その時はその時です。この世界のフユを僕は迎えに行きます。世界線がなんであろうと、過ごしてきた過去が違くても、フユは地球で僕の帰りを待っているはずですから』


 意外なことに最初は狼狽していた春季はいつの間にか今回の件のことを割り切る覚悟を決めた様子だった。

 自分の知らない過去を歩んできたというイレギュラーを宿した存在を受け入れるのはそう簡単に決められることではない。何しろこの世界における春季から冬菜を奪うにも等しい行為なのだから当然である。


 器が広いというべきか、あるいは仕方なしと諦めがついたとも言うのが正しいのか、本意はどうあれ今の春季は結果がどう転んだとしても受け入れるという覚悟があるようだ。


『本人がそう仰るんですから、細かいことはいちいち気にしちゃだめですよ。では他に質問等がなければワープのカウントダウンを始めちゃいたいと思いますがよろしいですか?』


 カタリと春季は準備を終えたことを意味する相槌を打ち、質疑応答の時間はワープへのカウントダウンへと移行する。

 ついに始まる本作戦。これもまだ序章に過ぎない戦いとはいえ、人生初の火星に若干の興奮を覚えつつ、操縦桿を強く握る。


『9、8、7──あっ、外訪者アウターが近付いてきたみたいです。すみませんがカウント省略! すぐにワープします!』

「え、ちょ……」


 が、不幸にも待機している場所のすぐ周辺に外訪者アウターが進入してきたようで、妨害されるのを懸念してかカウントを省略されてしまう。

 いきなりのことに驚きつつ、機体から放出される線孔攻撃の塊。直線上に進んでいき、それが途中で弾けるとノベライザーとエルンダーグを丸ごと包み込むような膜を張り、全体を覆い隠してしまう。


 外側から見れば極彩色の輝く繭が宇宙空間に出現したかのようなもの。これには生物的感情のない外訪者アウターも突然の異物に驚かされるばかりだ。

 そして、その繭は一瞬にして縮小。コンマ数秒の早さで消失し、中にいた巨大な二機を望む場所へと転移させた。






 それはまさに刹那の出来事。先ほどまで暗黒の空間だった場所にいたのだが、今はすぐ側に赤褐色の惑星が確認出来ている。その存在感たるや、これまで見てきた巨大物など比ではない。


「ここが火星か……」

『はい。その衛星軌道上──だいたい火星を挟んだ私たちの反対側に目標はあります。ここなら火星が陰になってあちらからでは捕捉されませんからね。念のためにここへ設定しました』


 到着地点は目標とは惑星を挟んだ正反対の場所。ここがこの戦場で最も安全な場所であると判断して選んだ模様。

 エルンダーグも装甲の一片も欠けずに存在している。本来ならば何ヶ月もの時間を費やしてようやくたどり着くはずの道のりを、宣言通りほんの数時間でショートカットに成功させたことに驚きを隠せない。


『す、すごい。本当に火星だ……!』


『本人確認も良し! ではこれから第二次作戦へと移ります。推定一万体の敵の猛攻をかい潜り、ゲートを目指します。途中、間違いなくエターナルの襲撃があると思いますが可能な限り避けていきます。何しろ相手の倒し方が分からないので、それを探るためにもゲートまで無理そうってなったら大人しく戻されましょう』

「あれ? エターナルって今すぐに倒せるって訳じゃないの?」

『うぅ、申し訳ありません。実は私もブラーヴァ級を相手にするのは初めてでして……。そもそもエターナルの中でもわりかしレアな存在なんですよね。情報も少なく、ほとんどが手探り状態。地道に活路を見いだしていくしか方法はありません』


 と、ここでさらなる事実の開示が。なんと今回のエターナルは目撃例と情報の少なさから、バーグも初となる相手であることが判明したのだ。

 毎度のことながら情報の伝え遅れは時々目に余る物がある。とはいえ文句も言える立場でもないため、カタリは紳士に黙っておくことにする。


『では行きますよ。第二作戦スタートです!』











 火星衛星軌道上を猛スピードで突き進むこと数時間。惑星の陰に隠れる形で目標物を肉眼で確認する。


『見えました。あの光ってる物がゲートです。その周囲は予想通り万単位の外訪者アウターがうじゃうじゃとひしめいています!』

「あの中に突入しなきゃいけないのか……。とりあえず線孔攻撃の回収もしておかないと」


 ゼスマリカフォームとなったノベライザーとエルンダーグが行く先に待ち構えるのは、アウター本星へと繋がるであろうゲートと、それを守護する数々の外訪者アウターたちだ。

 万の数がいるとは常々耳にしていたものの、実際に目にするとその数はおびただしい。敵の一匹一匹が今のノベライザーと同じか、あるいはエルンダーグ以上の巨躯を持っていると考えると、思わず鳥肌を立ててしまう。


 しかし、ここで戦慄おののいてなどいられない。

 臆せば死ぬ──そうなる可能性もノベライザーとてゼロではないのだから。


「────ッ。行こう、バーグさん、春季!」

『ええ、勿論! 死ならばもろとも!』


『うん、今度こそ勝ってみせる!』


 意図せず発した音頭にバーグと春季も呼応して応答。二機は最大速度で文字通り肉壁とも例えられる群の中へと侵攻した。

 無論、外訪者アウターも外敵の存在に気付く。無数とも思えるほどの敵の波に負けじと能力を発揮。


 雨──否、塊のような線孔攻撃を巨大な魔法陣で防ぎ、さらに吸収。攻撃が止んだところをエルンダーグの武装で突撃。その数を次々に減らしていく。

 群での戦いは何度か行っているものの、それでも数百程度の数などまだ楽な方だったと思わされる。回避、防御、攻撃……どれをとっても一瞬の油断も隙も生み出すことは許されないまさに地獄の無限戦闘がここにあった。


「バーグさん、文章!」

『この状況を何とかするには致し方ありません。少々お待ちを──出来ました! はい、必殺詠唱お願いします!』


 この状況はいつまでも続けていいものではないとカタリとて理解している。故に必殺の詠唱攻撃も止むなしと判断。

 すぐに文章を抽出してもらい、それを頭に叩き込んで発動のトリガーを言い放つ。


「すぅ──……、

『幾千ものおびただしい数の外訪者アウターが紅き魔神と蒼き救世主の前に立ちはだかるものの、所詮は獣同然の知能を持たない存在でしかない。群の左右に展開された巨大な魔法陣から放出される凄まじい炎雷による挟撃で外訪者アウターの数は瞬く間に減らされ、ゲートへの道筋を焼き焦がした亡骸で造り上げるのだった』──ッ!!」


 このような長文も即座に記憶し、読み上げることが可能となったカタリ。それはそれとして詠じた言葉にノベライザーは確かに応える。

 ギラリと桃色の輝きを放つ『ゼスマリカ』の五文字が投影されたバイザー。その瞬間、目の前に存在している外訪者アウターの集団を挟み込むように最大サイズの魔法陣展開される。


 そして、詠唱通り左右の陣からは炎による焼却、雷による滅却、二つの属性魔法による攻撃が範囲内の外訪者アウターを焼き尽くしていく。


『す、すごい……!』


『いえ、まだまだまです! 今のでも奴らの数はそこまで減っていません。第二波来ますよ!』


 感心する春季だが、それをかき消すようにバーグは次なる脅威を察知。

 詠じた通りに焼き殺した外訪者アウターでゲートを拝める道は出来たが、血液が凝固して傷口を修復するように新たな外訪者アウターが道を塞いでいく。

 やはり一度や二度の必殺技ではそうそう突破は出来そうにないらしい。厄介な相手であるとカタリは内心肩を竦めた。


「これじゃキリがないね。どうしよう、バーグさん」

『うーむ、頁移行スイッチでズル出来れば良いのですが、エルンダーグがそれに対応出来ない以上は強行突破しかないでしょう。もっとこう、大きい大質量の盾みたいなのを前に突き進められれば多少は楽になるかもしれないですけど』


 ゲートカチ込み作戦は想像よりも早く難攻不落の兆候を覗かせる。それはカタリもバーグも、勿論春季もそう思わさざるを得ない事態だ。

 しかし、バーグのふとした呟きに対し反応を示す希望も存在しているのもまた事実。


『えっと、バーグさん。そういうのなら心当たりがあるんですけど……』


『何ですと!? 詳しく教えていただいても……?』


 それを口にしたのは春季。なにやらバーグが求める大質量の盾という物の存在に一つ思い当たる記憶を持つという。

 思わぬ朗報。これを用いれば必ずやゲート突破を成就させることも出来るはず。そう思って詳細を訊ねようとしたところ──




 ──おぎゃああああ……!




『ああっ、エターナルが出現したようです。取りあえず……どうします? ここは一旦戻されて、その大質量の盾とやらを持ってきてから再戦しますか?』

「そんなあっさりと戻されていいの、それ?」


 ここでエターナルは再びその雄叫びを宇宙空間へまき散らす。何とも言えぬタイミングでの出現だが、これはこれで都合が良いというもの。

 どのみち盾がなければゲート防衛を果たす外訪者アウター群の突破は困難を極む。時には諦めも肝心──そう言わんばかりにバーグはリセットを推奨する。


『……っ、確かにアローヘッド無しじゃ突破は難しいかもしれない……。分かりました。今は一度戻されて、そのあと目標の物を取りに行きましょう』


「春季、もしかして少し吹っ切れてる?」


 自ら捕まりに行くことへの疑問を抱くカタリではあったが、一方の春季は乗り気のようである。

 この世界の冬菜が同一にして別の存在であるということが判明したが故の反応なのは明白。初めて出会った時であれば絶対にしない選択を躊躇なく選んだことへのギャップに困惑を隠せない。


『本人からの了承も得られたので、ここは大人しく捕まりましょう。カタリさん、エルンダーグへ密着してください』

「あ、本当にやるんだ……」


 別に春季へやる気を促すための口上などではなく、本気で戻されて目標物の回収をする模様。これにはカタリは苦笑いも出てしまう。

 まさか二回目の会敵にしてリセットボタン感覚で戻されに行くとは考えもしなかった。このようなことが今後も何度か来るのだろうと内心予感しつつ、エルンダーグへ密着姿勢を取る。




 ──おぎゃあああああ……!




 そして、おそらくこのループが始まってから初となるであろう自ら戻されるという行動を取り、白い渦の中に捕らわれる二機。

 中は以前と変わらず真っ白な背景が満ちており、次第に強まる光量に目を閉ざすと、いつしかそこは始まりの場所座標へと戻されていた。


 最も穏便に事が済んだであろう二回目のチャレンジ。しかし、次なる目的は決まったも同然。そこへ向けて次の舵を切る。

 ゲート防衛戦突破のキーとなる存在『アローヘッド』。それを探しに紅と蒼は黒い世界に軌道を再び描いて行った。

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戦い綴る者 ノベライザー (連載版) 角鹿冬斗 @tunoka-huyuto

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