#086:恐々かっ(あるいは、ステイジー=マドニス)

 <さて!! 気になる対局形式ですが……>


 絶妙なタメを作って、実況ハツマが再び切り出す。場に沈黙が舞い降りる。


 まあ薄々その「対局形式」とやらは感づいてはいるのだけれど。


 でも私以外の面々は皆、律儀に注目して固唾を飲んでいる。知らないことはないと思うけど……(みんな運営側の人間、『元老』なんだし)、フェイクか? それとも天然色の持ち主なのか? 次の瞬間、


 <……10人全員が入り乱れて戦うっ、バトルロイヤル形式となりますっ!!>


 ハツマが可愛らしい声で、右手も可愛らしく天に突き上げながらそう言い放つ。どよめく一同。咆哮する客席。いや、さっき言うてた。この改めて仕切り直した感は何。


 <攻撃方法は『DEP』!! あるいは『格闘』!! このふたつ!!>


 ……だから無理あると思うよ、そのふたつの融合は。予選の時のようなターン制ならまだしも、アクティブタイムでどうせいと。


 <本戦の『DEP』はぁぁぁぁぁぁ……直で、『打撃』へと『変換』されますっ!!>


 ん? どうゆうこと?


 <相手を指名し……『DEP』を着手し、その評価が為され……それが『打撃』へと換算される……身に着けたプロテクターに、打撃を模した『衝撃』が与えられることと相成ります!!>


 歌うように滑らかにそうのたまうハツマだけど、何ィッ!? つまり、「DEP」を言い放ちつつ、打撃諸々を繰り出し、時間差の「DEP衝撃」を喰らわせる……そんなコンボが可能だとでも言うのっ!?


 私の脳裏に、魔法の詠唱をしつつ、敵に突っ込んでいって剣撃を振るい、時間差でその刀身に青白い電撃を落雷させ、それを纏わせた剣で、集団ごと敵を焼き撃ち払う魔法剣士的な映像が唐突に浮かび上がってしまうけど。


 それは……何かかっこいいかも知れない。


水窪ミズクボ、今こそ特訓の成果が生かされる時が来た」


 背後のゴンドラ内のカワミナミ君から、そんな重々しい、特訓の時にのみ見せる「鬼軍曹」モードの一声をかけられるけど。そーすか?


 「不埒なことを耳にした瞬間、光速のローが射出される」。そんな物騒な条件反射が、いまの私には仕込まれている。それ自体はこの戦いで発揮されるのかは分からないけど。


 けど。


 「DEP」で相手にダメージをアクティブで与えられることは、いまの私にとっては相当なアドバンテージだ。相手の出足さえ止めてしまえれば、


 ……後は一万回以上は練習させられて撃った、右のローをかなりの精度で着弾させることが出来ると思う。体力の限界が来つつある今、無駄な力は使いたくないから、今後はひとり一発で沈めることを考えていかなくちゃあならない。


 でも、大前提として、そのための「DEP」が必要だ。いまの私はもうその辺はすっからかんだし、いや、残っているっちゃあいるんだけど、ナパーム弾級の大物しか残ってないのよね……ここでは温存しておいた方がいいかも。私の精神安定のためにも。


 となると……先ほどの私の中の「5人」に委ねるしかないのか……うまくええのんを放り込めればだけど、なにぶん、不確定要素の塊みたいな面々だ。


 博打……そんな二文字が、私の頭の中、頭蓋骨の内側を乱反射しながら、よぎりまくっている。

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