第2話 おっさんとおネエさんとニーサン

事務所という名のボロアパートのカギを僕は使い慣れた合鍵を使って開ける。

ここは僕達三人の主な集会所であり、僕の家でもある。


「あら、お帰りなさい!」

「ちゃんと菓子は買ってきたか?」


一言目に飛んできたのはその二言だった。

僕に向かってなれなれしい視線を向けてくるのは二人の男(そのうち一人はよくわからないが)。

一人は八村 敦。『自分の身は自分で守る』がモットーのメカニック。何かあるたび『○○しちゃだめよ。おおん。』とどや顔で言うのが癖。コードネームは『ジコボウ8(エイト)』。

そしてもう一人は見るからにインパクトMAXなサングラスをかけた全身筋肉だるまの巨漢。名を岡 栄三。見てわかる通り生粋のオネエだ。僕達三人の中でも随一のパワータイプで面倒見がいい。コードネームは『岡マン』。オネエなのに自分が男であることを隠そうともしていない。

そして僕は原 真一。先代の『腹パン師匠』のもとで十年近くの修業を続け、めでたく免許を皆伝した世界最強の腹パンの使い手だ。

語りだしてしまうと長くなってしまうので、この場で腹パンの魅力を示すのはやめておこう。コードネームは『原パンマン』。

僕達三人はこの街の都市伝説を解き明かすというちょっとした趣味のために行動を共にしている盟友だ。まあ僕達そのものが都市伝説になっていたりするのだが、最近はいろいろと追いかけると闇業者なんかがよくいたりするのでどうしても話題になってしまう。


「ああ。確かに十周年記念のチョコプレートは買ってきたよ。」


そう言って僕は机の上に『照慶堂』と書かれた箱をどさりとおく。


「そういえば、もうすぐ『アイスの庵久屋(あんくや)』も八周年だったわよね?」

「また僕が買いに行くのか?勘弁してくれ……。」


ここ最近の人間は欲望が強すぎる。

そして少し思い出して敦に言う。


「そういえば敦。例のブザーを使ってしまったから、また新しく一つ作ってくれないか?」


それを聞いて彼は一瞬目を見開く。そりゃあ確かに使ったということは一度逃げなければならない状況だったわけで。彼は僕の怠慢を責めるようにゆっくりいう。


「油断、怠慢、強敵、どれにせよあまりいいことじゃないよね。調子に乗っちゃだめよ。おおん。」


彼の『いつもの』が炸裂し、僕は少し後ずさる。

彼のドヤ顔はうざくも何故か説得力と強キャラ感があふれ出ており、どうしてもこれをされると後手に回ってしまう。


「まあまあ、この気配遮断の達人がそう簡単にミスするはずがないわ。何かよっぽどの事情があったのでしょう?」

「あ、ああ。実は外出中、興味深い人間と接触してね。」


岡のフォローに胸をなでおろしながら僕は話の転換を試みる。

それは見事に成功。二人は先程の失態など置いておき、僕に質問してきた。


「へえ。いったいどんな奴よ?」

「ああ。僕達と同じく、都市伝説の一人だよ。聞いたことがあるだろう?『暗闇で人を捕食する怪物』そして、『怪物を対峙する魔法少女』。」

「まさか、その魔法少女と接触したってこと?」

「ああ。年齢は15~16といったところか。ヒロイン枠としては少し合法性に欠けるね。」

「人間の屑な意見ね。」


馬鹿馬鹿しく語りながらもこれは重要な話題だ。

先程も言ったように、僕達の活動理念は『都市伝説の解明』だ。サークル的な集まりとはいえ、僕達は決して遊びでやっているわけじゃない。遊びで闇企業と戦ったりはしない。

僕達はそれぞれが自分たちの理由を持ちながら、それを隠して活動を共にしている。なので僕はなぜ八村があそこまで機会に詳しいのかも知らないし、岡がなぜオネエになってしまったのかも知らない。聞くのもタブーなので聞いていない。


「それで、いったいどうするんだい?写真もとっていないのだから、放置というのはここの理念に反するな。」

「もちろん。再び接触を試み、直接話をしてみたい。何やら彼女にも事情があるようだし、恩を売ってみるのもいいかもしれない。」


ここの活動理念は『衝動的でも始めたら最後までやりきる』だ。

都市伝説の正体らしき存在を見つけたからには、解明せずにはいられない。

取り敢えずはどう接触するかだ。


「拠点の場所すらつかめていないんでしょ?どうやって特定するのよ?」

「そこには多少考えがある。魔法少女の噂には必ずと言っていいほどくっ付いてくる噂、魔物の話。確かあれは目撃される時間帯や場所に規則性があったはずだ。それを追っていって正体を掴む。後はそこに沿って行けば勝手に会えるって寸法さ。」


僕はサムズアップしてきらりと歯を光らせる。

しかしそれを見て二人は背筋を震わせた。


「あなたのキャラには絶望的に合ってないわ、そのポーズ……。」

「自分にふさわしくないキャラやっちゃだめよ。おおん。」

「そ、そんなに?」


やはりレジェンド中のレジェンドは自分にはふさわしくないようだ。次からは鏡の中の奴くらいで自重しよう。何言ってるかわからない人はあまり深く考えないでよろしい。


「まずは周辺の情報収集からやっていきましょうか。私がやると何故か怖がられるから、原、お願いね。」

「また僕がやるのか……。」

「お前が持ってきた案件だろうが。」


僕は『面白そう』なんて軽い理由でこの話題を口に出したのを早くも公開した。



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ハラパンマンとゆかいな仲間たち~守れ!町の平和と魔法少女~ しいたけの使徒 @20190504

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