第3話 空振りの嫉妬

しおりちゃんと通学しなくなった中学2年生の春頃、しおりちゃんは急に前田にベタベタし始めた。

どうやら前田はしおりちゃんとも寝たらしい。

あいつのウワサはどんな些細なことでも私に入ってきた。わざわざ伝えに来る人がいたりして、その度にイライラしていた。

しおりちゃんは前田と男女交際がしたいようで、休み時間になるといそいそ会いに行っては、前田の周りに彼女アピールをしていた。

前田は少し鬱陶しそうにしていた。

「リン!いいの?!!」

しょう子は小学生時代から仲の良い女の子で、常々前田と私のことをくっつけたがっていた。

「何が?」

「だってしおりちゃん!わざわざリンに分かりやすいように前田にベタベタしてさ!」

「付き合ってるなら普通じゃないの?」

「あの二人付き合ってないって」

前田、またあんたはやり逃げしてるのか。

「でも私には関係ないし。」

「もー、リン!あっ!前田!」

ゲッ!!!

「まえだー!あんたしおりちゃんと付き合うのー?」

「はー?俺が佐藤以外と付き合うわけねぇっての!」

「ほらほらー。前田ああ言ってるじゃん。」

おーー、やめてくれ!誰が聞いてるか分からないか、ら…。

「リンちゃん!前田のこと好きじゃ無いならハッキリ振ってよ!」

でた!しおりちゃんだ。

「前田もなんでリンちゃんなの?なんで?」

「ちょっとしおりちゃん!その言い方おかしくない?リンに失礼だし!」

「本当のことじゃん!」

「自分が相手にされてないからって八つ当たりするなってこと!」

「私は、ずっと前田のこと好きだもん。」

「へーいつから?」

「小6の頃からずーっと。」

そうだったんだ。知らなかった。

「なのにリンちゃんばっかで、ようやく私の番になったと思ったのに。」

「ふーん。小6?へーー。リンなんてねー!」

えっ!!

咄嗟にしょう子の口をふさいだが、少し出遅れた。

「リンなんて?」

前田は初めて告白されたあの時の用に、真っ直ぐこちらを見つめていた。

しおりちゃんはにらんでいる様にも見えた。

「しょう子!行こうっ!とにかく前田が悪いの!」

もーー!!

私達は早歩きでその場を離れた。

「ちょっとしょう子!」

「ごめんごめん。イライラしてきちゃって。」

しょう子は、私が本当は前田のことを好きだと知っている人間のひとりだった。

「だって。最低だし。しおりちゃんって男が絡むと周り見えなくなるタイプだね。」

「さぁ、とにかく前田が悪い。」

そうだ。前田が悪い。なんで口では私だけと言いながら、他の子に手を出すのか。

腹が立つ。

「あー。あいつのせいで本当にお腹空く!今日のランチカレーだって。」

「おーカレー!じゃなくって、」

リンはまだプンスカ膨れていた。

私も怒っていたけど、自分にも怒っていた。本当は誰よりも前田が好きで彼女になりたい思いと、付き合ってみたら意外とすぐに飽きられて他の子の様に捨てられるだけなのだろうという気持ちがゴチャゴチャして、結局何も出来ないでいる自分に。


部活の帰り道、同じ部の後藤くんから告白された。

後藤くんは真面目で、顔は普通で、身長は低めで、頭が良かった。

よく話しはしていたけど、後藤くんの話しの端々に「前田は男として最低だ。」という感情がにじみ出ていた。

私は返事を明日にしてもらった。




「まえだー。お前後藤がコクったの知ってるかー?」

「後藤?って誰だよ。」

「佐藤と同じ部活のメガネだよ。あいつ昨日佐藤にコクってたらしいぜ。」

「は?俺がいるのに?」

「ばーか!お前も佐藤と付き合えてないだろ」

「ほら、あれ見ろよ。」

水泳部は特に男女の練習は分かれておらず、一緒に泳ぐのが普通だった。

「あー、水着でイチャイチャと。後藤はムッツリっぽいな。佐藤は鈍感だから分からないみたいだけど。」

俺はフツフツと怒りがこみ上げてきた。



「おい。」

「あ、前田くん。」

「お前に声かけたんじゃねぇよ。佐藤お前こっちに来い。」

校門の前で待っていたのは帰宅部でいるはずの無い前田だった。

「悪いけど、佐藤さんは僕と話しがあるから。」

「あ?そんなことはどうでも良いんだよ。」

前田と後藤くんがにらみ合っている。

遠くの方から部活を終えた軍団が歩いてくる姿も見える。

「佐藤、俺はお前に怒ってんだよ!」

「っ!はー?なんで私があんたに怒られなきゃならないの!」

佐藤のいつもと違う鋭い目つきに、一瞬ひるんでしまった。

「お前は何も分かってないんだよ!」

「何が?分かってないのはあんたでしょ!」

「お前が分かってねぇんだよ!」

「だから何が?!」

「後藤にやられていいのかよ!」

「だから何が?!」

「後藤が初めてでいいのかよ!」

「僕はそんなことしないよ!」

「いいや、こいつはムッツリだ!お前とやりたがってんだよ!」

「もー!いい加減にして!!」

周りにはもうすっかり人だかりができてしまっていた。

「後藤くんごめん。また明日ね。前田!あんたは来なさい!」

後藤をにらみ続ける前田の腕を引っ張りながら、夕暮れ時の通学路を歩き始めた。

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