逆転した家畜

@monsteredbull

第1話

牧場には、妊婦の牛だけがいる飼育小屋がある。腹のでかいそいつらは、人間で言えば15〜45くらいの年齢幅があった。前に僕が訪ねたときには、1頭の牛が凄い声を上げて子牛を産み落としていたことを覚えている。それから暫くして、私は宇宙旅行へと出掛け、途中で事故にあった為、とある星に不時着した。







「これは人間ですか?」

「人間だが、異星人だから食用にはならん。」

「大して美味しくなさそうだし、男かぁ…つまんねぇなあ…失礼、言葉が乱れました。」

「こら、そこはまあいいとしても、異星人に対して危害を加えるのは即死刑だぞ」

…ん?ここは…彼らは何を話している?

よく見ると、2足歩行の牛たちが僕を見下ろして世間話をしていた。

「なぁ、君たちは…誰だい?僕は地球人だよ。」

そういうと、そのなかで1番豪華な服を着た牛が返事をした。

「ああ、起きたんですか。貴方が地球人であることは、もう既に存じ上げております。あなたが乗ってきた宇宙船の故障箇所は、この星が地球と交わした条約に基づいてこちらで修復させていただくのでご安心を。」

よかった、この星は地球と良好な関係にあるらしい。

「はぁ…なるほどそれはありがたい。ですが、、、まず、貴方の名前を伺っても?」

「これは失礼、申し遅れました。私はこの星の外務大臣をさせて頂いております、フォルティス・ピクスと申します。それでは、意識も戻ったことですし早速お話をさせて頂きますね。故障が治るまでの間、この星の中なら自由に見物していただいてかまいません。お金は例の宇宙共通のカード、お持ちですよね…?それは良かった、はい、そちらが使用可能です。但し、パスポートとこちらの異星人証明書を肌身離さず持つことが前提ですが。後者の方は、常に誰もが見えるような形で。」

「そりゃまたなんでです、この星の方々はどうやら牛から進化した見た目をしていますし、我々猿型の高等生物を見たなら異星人であることくらいすぐ分かるでしょう。」

「いや、この星には所謂人間も、一応存在しているのです。ですが…この話は貴方には非常にショッキングなものになるでしょう。それでも聞きたいですか?その理由を。」

ショッキングとな…?一体何があるんだ…

「ええ、お聞かせ願いたいです。」

「では、お話ししましょう…簡単に言えば、この星での人間は貴方達の星でいう我々牛なのです。いや、もっと扱いは酷いかもしれません。この星では、彼らは乳、肉を生産する家畜として扱われております。さらに、人間のメスはこの宇宙でもかなり苦痛に満ちたお産をする動物です。その苦しむ様を見世物にする文化が、この星にはあるのです。」

…昔聞いたことがあるな、この話。実話だったのか。

「なるほど、そういうことでしたか、、、大臣、お願いがあります。私をその人間たちがいる場所へと連れて行ってはくれませんか?」

そう言うと、彼は眉を釣り上げた。

「おやまあ、貴方は随分と物好きなお方だ。無論、構いませんよ。イグノランテス、車を用意してこの方を牧場に連れて行ってあげてください。」

「わかりました、それではこちらへ。」


なぜ見に行こうと思ったか。それはただ単純な好奇心のせいであると言っておこう。車の中で、家畜としての人間はどんなものか想像してみた。カニバリズムをするつもりなど微塵もないが。牛のように振る舞う想像上の彼らはかなり滑稽だった。その中に自分を混ぜると血の気が引いたのもまた事実だが。


「着きましたよ、ここが牧場です。あのビルに、人間…これでは貴方も指してしまいますね。なら…家畜と言いましょうか。が住んでいます。」

驚くことに、その中はそれなりの設備があるちゃんとしたマンションだった。

「家畜はこのマンションの1室に三頭ずつ住んでいます。間取りは3LDK。1人1人にプライベートルームを与えてストレスをかけないようにし、肉を上質にする…素晴らしい。乳用が1〜5階、肉用が6〜10階、そして…出産を控えた雌は10〜15階に住んでいます。そうだ、どこか1部屋訪ねてみますか。私のオススメは、10階〜15階の雌ですね。」

「なら、そこへ連れて行ってください。興味が湧きました。」




、、、家畜用とかいいながら、エレベーターまで付いている。

「この建物自体、通常のマンションよりクオリティは上なんですよ。家畜たちが勝手に文化的な生活を求めて建てていくんです。手間がかからないでしょう?そして彼らには知性がある。だから幼少期にいくつかのことを刷り込ませてから、私らは彼らに教育を施します。そうすれば、彼らは社畜にもなり得る。ここまで素晴らしい家畜もなかなかいませんよ。それと、あまり大きな声では言えませんが、年中発情期というのも面白いものですね。」

「あはは、年中発情期は人類の取り柄ですからね。…失礼、『刷り込む』とは?」

「簡単なことです。幼少期から、雄の方には、『食べられることは名誉なこと』『働くことは至上の喜び』と、雌の方には、『母乳は献上するもの』『出産することは名誉なこと』と、言い方を悪くすれば洗脳するんですよ。単純な高等生物ほど操り易いものはない!…失敬、着きましたよ。」

なかなかえげつないことを力説されている間に、目的の15階に到達した。

「この階は、所謂正産期から過産期の妊婦が住んでいます。どの部屋がいいですかね…ここにしますか。少々お待ちを。」

そう言うと、彼はノックもなくその部屋へ入っていった。

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