第40話 予算が足りないのでプレゼントは創る事に決めました

 

 四十



「お待たせ、ユーリちゃん。魔石は全部で6万ゼニになったよ! オークの魔石が一つ1万ゼニで5個売ったから5万ゼニ。それで、ゴブリンの魔石が一つ千ゼニで10個で1万ゼニ。ちゃんとあるか確認して?」


「1、2、3……確かにあるです。ありがとです、カミーサさん」



 カミーサさんに頼んで魔石を幾つか売ってもらいましたが、この世界のお金の価値がどれくらいか分からないので、正直に言うと高い金額なのか安い金額なのか微妙です。

 しかし、1ゼニ=1円って事で考えれば、6万ゼニとは6万円です。だとすれば、そこそこの金額にはなったと思うです。

 美代から貰ってたボクのお小遣いは、1ヶ月で1万円。そう考えると、何と半年分も稼げたです!


 ちなみに、6万ゼニで小金貨6枚です。分かりづらいので箇条書きにしてみますかね。


 ・1ゼニ=1円換算

 ・1ゼニは小銅貨1枚

 ・10ゼニは銅貨1枚

 ・100ゼニは小銀貨1枚

 ・1000ゼニは銀貨1枚

 ・1万ゼニは小金貨1枚

 ・10万ゼニは金貨1枚

 ・100万ゼニは白金貨1枚

 ・1000万ゼニは光金貨1枚


 と、以上の様にこの世界では硬貨が使われてるみたいです。紙幣が無いのは偽造防止も然る事ながら、直ぐに破けてしまうからだとか。硬貨は破けないですからね。


 ……硬貨でも偽造出来るだろうって?


 このゼニという通貨が造られている国は【アメリア共和国】という国ですが、その国は偽造防止の為の特殊な技術を開発し、世界通貨であるゼニ硬貨の製造を一手に担っているとの事です。そして、その特殊な技術とは……一定ランク以上の魔物の魔石を粉末にし、それを硬貨の中に一定の割合で混合する事だそうです。

 魔石を粉末にするのは誰でも出来ますが、それを硬貨に混合させる事が普通は出来ないそうです。それは混合過程で、魔石の魔力が失われてしまうからだとか。その技術を開発したのが、アメリア共和国という事ですね。

 何故、魔石の粉末で偽造防止になるのかについてですが、混合出来ないというのもありますがそれ以外にも理由があり、魔石を含んでいるゼニ硬貨からは一定の魔力波が放出されており、その魔力波の数値は必ず一定値となる為、どれだけ優れた偽造師でも偽造硬貨を造る事は不可能だそうです。

 例え、アメリア共和国以外の各国が技術を結集したとしても造る事が出来ないので、ゼニ硬貨は世界通貨としての価値が補償されてるという事でした。


 ちなみにですが、そのアメリア共和国が不正を行う心配も無いそうです。何故ならば、アメリア共和国には各国から議員が派遣されており、その議員達によって国が運営されているので安全なんだとか。つまり、かつての世界の国連が国としての形になった感じですね。



「ユーリちゃん達のお陰でマレさんへのプレゼントも決まったし、それじゃ僕はこの辺で失礼するよ。仕事を抜け出して来たのがクラウスさんにバレると、後が大変だからね! あ、クラウスさんには絶対内緒だからね? もしも告げ口したら……あ、いや……何でもない、何でもないよ? だからね? ミサトちゃん? そ、その爪を仕舞ってくれると嬉しく思うよ? あ、でもでも、優しく甘噛みの様に引っ掻くのは有りかな♡ はうはうはう! 新しい世界に目覚めそうだよ! あ、ごめんなさい、帰るから……うん、今すぐ帰るから、助けてぇ〜!!」


「ようやく帰ったニャ! 余計な言葉さえ無ければ良い奴ニャのに」



 カミーサさんの言葉に、ミサトちゃんはどうやら限界だったみたいです。むしろ、思いっ切り引っ掻いた方が良かったのかも。そうすれば余計な一言も無くなると思うです。

 だけど、カミーサさんには感謝してるです。ボクの大作戦の軍資金を作ってくれたので。

 後は、ボクがプレゼントする物をミサトちゃんにバレずに購入して、それをサプライズにプレゼントすれば……ぐふふふふっ! 想像するだけで笑いが込み上げて来るです♡



「何で変な顔してるニャ? ちょっとおトイレ行って来るニャ。カミーサが居たから行きたくても行けなかったニャ……!」


「あ、分かったです。じゃあ、ボクはこの辺で待ってるので思う存分スッキリして欲しいです」


「思う存分って……。まぁいいニャ。とにかく行ってくるニャ!」



 ボク、笑うと変な顔になるんですかね? 不思議です。


 それはともかく、さっそくのチャンス到来です。ミサトちゃんがおトイレに行ってる隙に、今のボクの予算で買える素敵な物をゲットするです!



「さて、と。ミサトちゃんはさっき、このネックレスをジーッと見てたですが、どうしたもんですかね。ボクの予算を遥かにオーバーしてるです」



 ミサトちゃんがトイレへと向かって、ボクは直ぐに宝飾品のマジックアイテム売り場で品物を見てますが、その価格は60万ゼニと、ボクの予算の10倍の値段です。

 ボクが【黒神】に収納している高ランクの魔物の魔石が売れればなんて事は無いですが、ボクはこの『ハタヤ屋』さんでは売れないです。店主のハタヤさんに一蹴されてしまったので。

 冒険者ギルドならばボクでも買い取ってくれるとカミーサさんは言ってたですが、今から売りに行っても、ミサトちゃんがトイレから戻って来るまでには絶対に間に合わないです。


 どうしたもんですかね。


 ちなみにミサトちゃんが見ていたネックレスはペンダントタイプのネックレスで、直径2cm程の宝石をチェーンで繋いだ物です。宝石の台座は、材質は分からないですが、白金に似た金属で植物の蔦がデザインされており、それが宝石に絡んでる様な感じです。

 それでマジックアイテムとしての効果ですが、ネックレスを装備してる人にアイテムの真贋を見抜く力が与えられるという物で、世界中のお宝を手に入れると豪語するミサトちゃんには、確かにうってつけの品物です。


 プレゼントしたいけど、ボクの予算が足りない。……隣にある似たようなネックレスじゃダメですかね? ダメですよね、分かってます。



「閃いたです!」



 思わず大きな声を出してしまったので、他のお客さんから白い目で見られました。少し、恥ずかしいです。


 恥ずかしさはともかく、ボクが閃いたのは……予算が足りないならば、ボクが創ってしまえばいいじゃないっ! という事です。

 何もわざわざ買ってまでプレゼントする必要なんて無いです。プレゼントとは、気持ちがこもっていれば何でも良いのです! 少し言葉は悪いですが。


 しかし、この場で創る訳にも行かないです。そんな事をすれば、間違いなく他のお客さん……恐らく冒険者だと思うですが、その冒険者達に捕まって、アレを創ってだの、こういうのを創ってくれだのと言われるのは確実です。

 もしかしたらその話が広がって、国の内外から物を創ってくれって依頼が押し寄せ、ボクに自由が無くなってしまう事だって考えられるです。


 どこで創れば良いのか。……悩むです。



「ユーリちゃん、お待たせニャ! どうしたニャ? 難しい顔をして。トイレに行きたかったんニャら、あたしと一緒に行けば良かったニャ。……もしかして……大きい方かニャ? あ、でも、スラさんが居るからユーリちゃんにトイレは必要なかったニャ」


「っ!! それですっ!!! きょ、今日はスラさんはお出かけしてるです! だ、だからボクも我慢してたです! ちょ、ちょっと行ってくるです……!」


「そ、そんニャに我慢してたニャ!? ご、ごゆっくり……だニャ」



 叫ぶ様に返事をしてしまったですが、ミサトちゃんが答えをくれました。誰にも見られない所で創るには、正にトイレの個室はうってつけの場所です。ただ……ボクが大きい方を凄く我慢してたみたいになってしまったので、ミサトちゃんから不憫な子を見る様な眼差しを向けられたです。……とにかく行ってくるです。



「お店だけあって、意外と綺麗なトイレです。幸い、今は他に誰も来てないみたいなので、さっそく創るとするです」



『ハタヤ屋』さんのトイレはかなり近代的で、何と、かつての日本にあった様な水洗トイレでした。問題があるとすれば、男女一緒のトイレだという事ですかね。男性用小便器が壁際に二つあり、その背後側に女性用と言うか、大きい用の洋式トイレの個室が二つあるというトイレです。


 ……音を聞かれても恥ずかしいとは思わないんですかね、この世界の人達は。


 ともあれ、ボクはさっそく個室へと入り、ネックレスを創る準備を始めました。



「デザインはさっきのネックレスで良いとして、アクセントに何か欲しい所ですね。あ、台座の蔦の部分を百合の花に変えるってのはどうですかね? 百合の花はボクも好きですし、ボクからのプレゼントだと一目で分かると思うです。それと真ん中の宝石は……タイラントドラゴンの魔石をギュッと圧縮して付ければオッケーですね。あの魔石は濃密な深紅色な上、よく見ると中にキラキラと星が瞬いてるみたいに見えるので、とってもオシャレです。……となると、チェーンも拘りたくなってくるです。でも、ありきたりのチェーンにはしたくないです……。あ、じゃあこういうのはどうですかね? 輝く一本の棒に見えるけど、伸縮性に優れて柔らかく感じるってやつ。オリハルコンでチェーンを創れば出来る筈です。

 ――イメージが固まったので、さっそく創ってみるです!」



 先ず、オリハルコンをイメージし、それを長さ45cmのチェーンになる様に思い浮かべます。

 次に、台座となる百合の花を二輪イメージし、一つはそのまま百合の花ですが、もう一つの方は少し大きくして、その中央にタイラントドラゴンの魔石が嵌る様にします。とりあえずこれで創ってみるです。



「誰も来てないですね? 行くです! 【道具創造アイテムクリエイト!】……完璧です!」



 ボクの身体からは白銀に輝く神威が溢れ出し、そしてボクの手の上でイメージ通りのネックレスが出来上がりました。切れ目の無いオリハルコンのチェーンはゴムの様に伸縮性に優れてますし、二輪の百合の花が寄り添う台座の形も完璧です。さすが、ボクですね!

 次は肝心な宝石ですね。ボクは【黒神】の中からタイラントドラゴンの魔石を取り出しました。



「こうして見ると、結構な大きさです……!」



 タイラントドラゴンとの戦闘が懐かしいですね。魔石を見てると、あの時を思い出すです――




 ☆☆☆




 ――試練のダンジョン『9』の間、浮遊島ダンジョン。



「正に、ファンタジーです!」


『ユーリちゃん、興奮し過ぎだよー。これくらい、この世界じゃ当たり前だよ?』


「そうですぞ、ユーリ様。拙者がかつて修行した場は、見えない床が天空まで続いてる場所であり申した」



『9』の扉を抜けた先は、天高く浮遊する島が連なる場所でした。

 島と島を繋ぐ橋などが見えない事から、もしかしたら転移魔法陣で移動するかもですね。……透明な橋が架かってるかもしませんが。

 とにかく、空想の世界に紛れ込んだ様なその光景に、ボクは一人ではしゃいでいたです。



『あ、ユーリちゃん、この浮遊島のどこかに、たぶん『ウィンディ』が居ると思うから、契約してあげてねぇ』


「ウィンディ……って、誰です?」


『ウィンディは風の精霊シルフで、ワタシと仲良しなんだぁ♪ 『マンダ』も『ノムさん』も仲良しで、ワタシ達四人の精霊があの方の為にユーリちゃんを待ってたんだよ〜!』



 ここに来るまでに、炎の精霊サラマンダーのマンダと、土の精霊ノームのノムさんとは既に契約済みでしたが、風の精霊シルフのウィンディと契約すれば、遂に四大精霊と呼ばれる者たちとの契約が完了します。ウィンディとは、果たしてどんな精霊なのか。楽しみですね!



「さて、とりあえず最初の浮遊島を目指して出発するです!」



 そんな風に、ボク達は意気揚々と歩き出したです。浮遊島があらゆるドラゴンの巣窟だとは知らずに。


 その後、浮遊島の幾つかを何日も掛けて進み、何種類ものドラゴンを苦戦しながらも倒しました。

 そうして進んだ浮遊島も次で最後という所で、水の精霊ウンディーネのアクアが教えてくれたウィンディの居る場所へと辿り着いたです。


 しかし――。



「な、何ですか、あのドラゴン!? 木や岩に、何で突撃してるですか!!」


「アレは、『暴君竜タイラントドラゴン』と申して、近くにある物を破壊せずにはいられぬ、危険な竜でござる!」


「ござる、ですと!? しゅ、シュテン! 語尾がござる口調になってるです!」


「こ、細かい事を申してる場合ではござらぬ! 拙者が陽動致す故、ユーリ様は暴君竜めを退治して下され! 『龍水裂斬!』ぬぅりゃああああっ!!」



 シュテンの言う通り、呑気に語尾を気にしてる場所じゃなかったです……!

 何とタイラントドラゴンは、ウィンディの依代としている『風乱石』を破壊しようとしてたのです。

 精霊がこの世界に留まる為には、精霊魔法などの術者や召喚士と契約して召喚される事が前提ですが、今回の様にボクを待つ為に、誰とも契約してないフリーの状態で留まるには依代……精霊が宿るべき物が必要となるです。

 アクアは澄んだ泉、マンダはマグマ溜まり、ノムさんは『聖鉱石』を依代としていました。

 その精霊が宿る依代が破壊されてしまうと、その精霊は死んでしまうです。

 この場合の死ぬというのは完全な死を意味しており、召喚時の様に精霊界に戻れば回復するなんて事は出来ないのです。

 つまり、タイラントドラゴンにウィンディの宿る風乱石が破壊されてしまえば、アクアの友達であるウィンディが完全に消滅してしまうのです。


 ――なんて事を悠長に説明してる暇なんて無かったです!



「アクア! シュテンのスキルに併せて、『水楼』で奴の動きを抑えるです!」


『了解、ユーリちゃん! 『水楼アクアタワー!』――抑えられるのは数秒が限界だから、その間にユーリちゃんが決めて!』


「任されたです! 『水の渦アクアヴォーテックス!』それと、『雷の魔法剣ライトニングソード!』――舞い踊れ……! ボクの剣たち!!」



 シュテンの放った剣撃スキルの水龍がタイラントドラゴンへと到達する前に、シュテンの後に行動したアクアの捕縛魔法が先に効果を発揮しました。

 アクアの水の塔とでも呼ぶべき魔法でタイラントドラゴンは覆われ、そこへシュテンの水龍を模した剣撃が襲い掛かって行きます。


 二人の連携は今まで破られた事の無い物でしたが、タイラントドラゴンは大したダメージも無さそうですね。かなりの防御力を誇っていそうです。

 ですが、そこへボクの規模を抑えた水の渦が追撃し、更には100本のライトニングソードが攻撃を開始したです。


 水に濡れたタイラントドラゴンへのライトニングソード。シュテンの龍水裂斬はともかく、アクアの水楼はボクのライトニングソードを活かす為に伝導率が高い塩水で放たれています。その水楼の効果時間を長引かせる目的でボクは水の渦を放ち、間髪入れずに、100本のライトニングソードが次々と切り付けて行きました。

 切り付ける毎にタイラントドラゴンの身体は感電してるみたいですね。バチバチと火花が散ってるです。


 ボク達が放った連携……塩水と雷のコンボはこれまで絶対の致死率を誇る物でしたが、果たして。



「何と……! 恐るべきは暴君竜の防御力。ユーリ様の雷の魔法剣までも防ぐとは!」


『何で効かないの〜!?』



 タイラントドラゴンの身体からはブスブスと肉が内部から焼ける様な音と湯気が確認出来てますが、一向に死ぬ気配は無いです。むしろ、ようやくボク達の存在に気付いたみたいで、爬虫類特有の獰猛な眼差しをこちらに向け、激しく咆哮しながら突進して来ました。



「グルルルオオオオオオオオッッ!!!」


「は、速っ!! ぐぅぅぅ……!」


「ユーリ様!」


『ユーリちゃん!?』


「だ、大丈夫です! 多少ダメージを負ったですが、今のボクにはなんて事無いです! それよりも、何故に雷が効かないです!?」



 体長が5mを超える巨体でボクに体当たりをしたタイラントドラゴンはボクを跳ね飛ばすと、勢いそのままに、ボク達の後方に広がっていた森へと突っ込みました。巻き添えを喰らった大木達が、何本もメキメキと音を起てて倒れて行きます。相当な威力の突進ですね……!

 ボク達の攻撃は効かなかったですが、ウィンディの宿る風乱石からタイラントドラゴンの意識をこちらに向ける事が出来たのは良かったです。


 しかし、雷の魔法剣が効かないとなると、次の攻撃はどうしますかねぇ。『混沌の焦熱炎カオスフレア』だと森はおろか、ウィンディが宿る風乱石にも影響が出そうですし。かと言って、『絶対零度アブソリュートゼロ』の魔法は、この辺り一帯を極寒の地に変えてしまうです。


 タイラントドラゴンが森に突っ込んだ隙に、次の攻撃方法を考えてますが、中々良い案が浮かびません。そんな悩むボクへと、シュテンが話し掛けて来ました。



「ユーリ様、暴君竜めはどうやら回復力が優れておる様でござる。しからば、それを上回る威力の攻撃か、回復するいとまを与えぬ連撃をするべきだと具申致す」


「だからあんなに色んな物に突撃しても平気だったんですか、タイラントドラゴンは!」



 さすが鬼神の王だけあって、シュテンの敵を見抜く力は凄いの一言です。たったあれだけの戦闘でそれを見抜いたんですからね。頼もしい味方です!


 ですが、シュテンのアドバイスで、タイラントドラゴンへの攻撃方法が決まったです。100本の魔法剣でダメなら、1000本にすれば良いだけですね。簡単な計算です。

 幸いな事にボクの魔力は無限なので、万が一1000本でダメなら、次は10000本。それでもダメなら10万本の魔法剣で切り続けるだけです。



「シュテンとアクアはボクの後ろに下がってて欲しいです。巻き込んでしまう恐れがあるので」


「分かり申した」


『了解〜!』


「タイラントドラゴンもボクが生きてる事に気付いたみたいですね。……『千の魔法剣サウザンドソード!!』」



 ボクの頭上に千本の魔法剣が出現し、切っ先をタイラントドラゴンへと向けながら宙に静止しました。後は攻撃をイメージするだけです!



「行け、ボクの剣たち。タイラントドラゴンを細切れにするです!」



 初めて千本の魔法剣を放ちましたが、正に圧巻。空を埋め尽くすかの如く縦横無尽に宙を舞い、次々とタイラントドラゴンを切り付けて行きます。

 しかし、タイラントドラゴンの回復力も大した物です。ボクの魔法剣に切られた瞬間に回復してるんですから。

 ですが、それも最初の方だけ。圧倒的な物量攻撃の前にタイラントドラゴンの回復は追い付かず、次第にその身体は細切れになって行きました。



「グルルアアア……アオオ……ォォ……ォ…………」


「断末魔の咆哮を上げる力が残ってるのは凄いですね……!」



 タイラントドラゴンの手足は既に無く、胴体は胸の辺りしか残ってません。獰猛な顔も完全に骨と化していました。まだ咆哮出来る力があった事に驚きですね……!


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 魔物名:暴君竜タイラントドラゴン

 種族名:竜族

 ランク:SSランク

 特徴:体長5m前後の比較的小さなドラゴン。姿はT・レックスに似ているが、側頭部から二本の角が生えている。

 ドラゴン特有の有り余る魔力は、その全てが回復力へと使われている。

 タイラントドラゴンは本能でのみ行動するので、ドラゴンとしての格は低い。しかし知能が低いからこそ、危険だ。誰彼構わず、それこそ周りにある全てを攻撃するのだから。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 僅かに残った胴体から魔石を取り出し、アクアに血を綺麗に洗ってもらい【黒神】へと収納しました。



「さて、後はウィンディとの契約ですが……」


『呼ばれて飛び出てジャ――』

「シャラーップ!! それ以上は言わせないです!!」


『むふー、残念』



 タイラントドラゴンの脅威が去った事が分かったのか、風乱石から吹き出る風と共に飛び出て来たウィンディが飛び出した勢いのままボクに抱き着き、小さな口を開けて危険なセリフを言おうとしました。

 抱き着いたと言っても、ウィンディの身長は50cm程しか無いので、ボクの胸にくっついて来たが正解ですね。

 しかし、10mはあろうかという巨岩の風乱石に宿っていたウィンディの大きさが、まさかこんなに小さいとは。まぁ、だからこそ風乱石はタイラントドラゴンの攻撃で破壊されなかったという事ですね。


 ちなみに風の精霊シルフのウィンディの特徴は、正に可憐な妖精といった姿をしていて、絵本の中からそのまま飛び出して来た感じです。

 詳しく言うと、背中の中ほどまで伸びた金髪ストレートヘアにリ〇ちゃん人形の顔立ち、身体は女性的だけど性別は有りません。背中には透明なトンボの様な四枚のはねが生えてます。

 性別が無いというのは、恐らく精霊の最大の特徴でしょうね。精霊とは、自然界に漂う魔力が長い年月の果てに水や炎に宿り自我を得て生まれた存在なので、他の生物の様に生殖行動が必要有りません。なので、見た目が女性的な精霊は、その姿が自分で相応しいと思ってその姿になってるみたいです。便利な身体ですね。



『アクアちゃん、久ぶりー!』


『ウィンディ、元気してたー?』


『もち! ねぇねぇ、アクアちゃん、この幼女があの方が言ってた奴なの?』


『そうだよー。ユーリちゃんって言うの。間違いなくあの方の後継者だから、ウィンディもさっさと契約しなよー!』


『分かったー!』



 何だか失礼な事を言われた気がするですが、契約はしっかりするです。ウィンディで、四大精霊との契約はコンプリートですし。



「……『召喚契約サモン・コントラクト』」


『あ、すごーい! ユーリちゃんって、呪文の詠唱しなくても魔法を唱えられるんだぁ! うん、契約かんりょー! これからよろしくー! それじゃ、一旦精霊界に帰るねー! 必要な時に喚び出してね? バイバーイ!』



【黒神】から小刀【無銘】を出して指先に傷を付けて血を出し、契約の魔法名だけを唱えました。今回で既に四回目なので、呪文の詠唱は省ける様になったです。

 ボクの指先に滲み出た血は煙の様に空気に溶けて行き、そして消えました。やはり精霊によって違いますね、血の消え方は。

 アクアの時は水に滲む様に消えましたし、マンダの時は燃えました。ノムさんの時は、血がまるで砂の様にサラサラと風に舞って、そして今回ウィンディとの契約では煙の様に消えました。それぞれの特徴が良く分かりますね!



「さて。ウィンディとの契約も無事に終わったし、先に進むとするです!」


「ここも、後は大将を残すだけでござるな!」


『レッツ、ゴー!』




 ☆☆☆




 タイラントドラゴンの事を思い出してた筈なのに、ウィンディの事を思い出したです。今度、精霊を全員召喚してみますかね。たまには喚んであげないと、へそを曲げるかもしれないですし。


 それよりも、タイラントドラゴンの魔石を圧縮してネックレスを完成させねば!


 ボクは魔石に魔力で圧力を掛け、直径50cm程もある大きさから2cm程にまで小さくしました。元々深紅色だったタイラントドラゴンの魔石は圧縮した事で色が変化し、表層から芯までの濃密な赤のグラデーションが美しい宝石へと姿を変えます。

 後はこの宝石を、ネックレスの百合の花の台座へと嵌め込めば完成です。



「んしょ、ほっ! 出来たですぅ!!」



 ボクの手の上には、この世界に二つと無い、とんでもなく価値のあるネックレスが誕生したのでした。

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