第39話 マジックアイテム専門店『ハタヤ』

 

 三十九



 魔石やマジックアイテムの買い取りや販売を専門に扱う『ハタヤ』というお店。

 そのお店の在る場所は、トキオの北区、冒険者ギルドから歩いて10分くらいの、目抜き通りから一本裏へと入った先にありました。

 ですが、知る人ぞ知るお店なのか、その店先には結構な人数の冒険者が集まってます。

 お店へと入り掛けたボク達は並んでる人の列と店先に展示されてる物に興味を引かれ、改めて人の列へと並びました。



「何だか、結構な人が居るですね。目玉商品でも飾ってあるんですかね?」


「そうみたいだニャ。さっきすれ違った人が『雷神剣』がどうのこうのって言ってたニャ」


「雷神剣、ですと!?」



 どうやら目玉商品というのは、その雷神剣みたいです。


 響きからして、刀身が無い柄だけの剣で、魔力を込めると雷の刀身が現れるという物を想像しました。厨二魂がチクチクと刺激されますね……!


 ハタヤの店内に入る前にその雷神剣を一目見ようとボク達は列に並んでますが、かつての世界での美術館や博物館などの列とは違って制限時間が設けられていないので、雷神剣を見るまでに30分程の時間が掛かりました。



「これが、雷神剣……ですか。何か、想像してたよりも貧相です。……と言うか、見た目は普通の剣です」


「確かにそうだニャ。でも、もしかしたら雷の力を与えてくれる剣かもしれないニャ。雷の速さで剣を振れるとか、雷の速さで移動出来るとか。そう考えると、凄い剣だと思うニャ」



 なるほど、確かにミサトちゃんが言う通り、見た目だけで判断するのは間違ってますね。それこそ雷の力を与えてくれるかもしれないですし、もしかしたら刀身から雷を敵に放つ事が可能な剣かもしれないです。そう考えると、夢がありますね!



「そいつが気になるのかい?」


「え? あ、はいです」



 ボクとミサトちゃんで店先に展示されてる雷神剣を、あーでもないこーでもないなどと批評してたら、おじさんに声を掛けられました。お店の中から出て来たので、もしかしたら店主なのかもしれないです。

 そのおじさんの容姿はと言うと、中肉中背の50代くらいで、目は細く金縁の眼鏡をかけています。そして、貴族までは行かないものの、商会をやっているだけあって上品な服を着てました。

 中世頃のアラブの商人と言えば近いですかね? オレンジの髪でオールバックが特徴ですが、ターバンを巻いてたならば正にそんな感じです。


 ……店の目玉でもある雷神剣を貧相なんて言った事、怒ってますかね?


 でも、見た目が貧相なのは事実なので、例え怒られたとしても気にしないです。それに、この雷神剣の価格設定がおかしな金額になってるので買わないですし。いくら凄いと言っても、何の効果があるのか分からない剣に100万ゼニは出せないです。そんなお金、持ってないですけど。



「この雷神剣はね……雷の音を再現出来る剣なんだよ。凄いだろう? あの恐ろしい音が戦闘中にしてみろ! 敵は驚いて、思わず蹲る事間違いなしだ!」



 ……夢を返して欲しいです。


 店主と思しきおじさんは、雷神剣についての効果を語ってくれましたが、ハッキリ言って期待外れも良いとこです。

 ぶっちゃけ、雷の音もそうですが、雷そのものだってボクは再現出来る力があるです。……ゴミ、ですね、この雷神剣は。100万ゼニどころか、1万ゼニがせいぜいだと思うです。



「凄いニャ! その発想は無かったニャ! やっぱり面白いニャ、マジックアイテムは。あたしも早くお宝ゲットしたいニャ!」


「そうだろう、そうだろう! 正にこの雷神剣があれば無敵。誰が相手でも、何が来ようとも間違いなく勝てる!」



 意外と、ミサトちゃんには好評みたいです、雷神剣。店のおじさんの言葉は意味不明ですが。

 それよりも、このおじさんが店主ならば、魔石について聞いてみますかね。買い取りの値段とか、ボクくらいだとどの魔物の魔石なら売ってもおかしくないか、とか。



「ところで、おじさんはこのお店の店主さんですか?」


「うん? わしか? 確かにわしがこのハタヤの店主、『ハタヤ=マタヤ』だよ」



 覚えやすい様な、覚えにくい様な名前ですね。アラブの商人としては有りな名前ですが。



「ところで、魔石の買い取りも行ってるんですよね? もしもボクが魔石を買い取って欲しいって言ったら、ハタヤさんは何の魔物の魔石をボクが出すと思うです?」



 さて、ハタヤさんの回答や如何に。



「う〜ん、そうさなぁ……。冷やかしならお断りだよって追い出すなぁ」



 ……ボクの、ボクによる、ボクの為の『ミサトちゃんとお買い物で親密な関係をゲットだぜ大作戦』が、足元からガラガラと盛大な音を起てて崩れ去ったです。



「な、ならば、ボクがゴブリンの魔石を売りたいって言ったら、買い取ってくれるですか!?」


「お嬢ちゃん、嘘はいけないなぁ。お嬢ちゃんみたいな可愛い娘が、ゴブリンとは言え魔物を倒せるなんて、おじさんには信じられないよ。マジックアイテムを買いたいって言うなら信じられるがね。うちは、君みたいな女の子でも買える様な品物も取り揃えているからね」



 くっ! ギルドカードを持っていない自分が恨めしいです……!

 この際、実物を見せた方が良いですかね? ですが、ハタヤさんのこの調子だと、例えゴブリンの魔石を見せたとしても買い取ってもらえない様な気がするです。……ボクの成金生活はしばらくオアズケですね。



「わ、分かったです。大人しく商品を見させてもらうです」


「楽しんでおくれ。それで、こんな品物があった、とか、こんな便利なアイテムが!? とか、お父さんやお母さんに話してくれると、おじさん、喜んじゃうよ?」


「……機会があれば……」


「よろしくね?」



 このお店に来るよりも、ダストさんのお店に行った方が良かった気がするです。

 ダストさんならば、ボクがゴブリンの魔石を出したとしても、きっと喜んで買い取ってくれると思うです。……ダスト商会で買い取りを行っているのならば、ですが。



「ユーリちゃん、早くお店の中を見てみるニャ! あたしが冒険者になった時の為に、どんなマジックアイテムがあるのか知りたいニャ!」


「ミサトちゃんが欲しいと思うマジックアイテムなら、ボクが創ってあげるです……」


「え……?」


「ううん、何でもないです! じゃあ、お店の中に入って、どんなのがあるか見てみるです!」



 魔石を買い取ってもらえなくて、結局お金が出来なかったですが、ミサトちゃんとウィンドウショッピングにシャレ込むとするです!


『ハタヤ屋』さんの店の造りは至ってシンプルで、武器防具関係の列、魔石の列、そして……珍しい商品の列の大まかに三つに分かれて展示してありました。いずれも、マジックアイテムだとの説明書きがあります。

 それぞれの商品で、安いのは一万ゼニから高いのは店先に展示されてた雷神剣と同じ100万ゼニまで、それこそピンからキリまで揃えられていたです。



「凄いニャ! まるで、宝飾品みたいなのまで展示してあるニャ」


「ホントです! これなんて、まんま高級ネックレスです!」



 ボクとミサトちゃんが見ているのは、武器防具が展示してある列の防具に関係する物が置いてある棚です。アクセサリー関連と言った方が正しいですかね。

 そこの棚には指輪を初め、ネックレスやブレスレット、アンクレットなどからピアスまでが陳列され、まるで宝飾店にでも来た様な品揃えでした。

 元おっさんのボクはともかく、ミサトちゃんは根っからの女の子、やはりこういう宝飾品の様なマジックアイテムには目を輝かせてるです。


 ……魔石が売れれば!


 ボクが【黒神】の中に収納している何十万個もの魔石を、せめてゴブリンの魔石だけでも売れれば、買ってプレゼント出来たものを。今ほど、自分の女の子な見た目を恨めしく思った事は無いです。



「やっぱりマレさんに似合うのはコレかなぁ。いやいや、待て待て待て。こっちのネックレスは地味だけど、マジックアイテムとしての効果は高いぞ? いや、でも……やっぱりマレさんの美しさにはこっちの方が……! はうはうはう! 次々目移りして、僕にはやっぱり決められないよ!」



 どこぞで聞いた事のある声が、隣の棚の列から聞こえて来たです。……気のせいですかね?

 むしろ気のせいにした方が良い気もします。聞こえて来た言葉の内容からすると、ボク達を見付けた彼は確実に絡んで来ると確信するです。



「この声は、カミーサだニャ! ギルド職員のくせに、何であいつがこんな所に居るニャ? マジックアイテムなら、知り合いの冒険者にでも頼めば良いニャ」



 ミサトちゃん、結構な辛口発言ですね。ですが、ホントそう思うです。

 知り合いの冒険者に頼めば、お店で買うよりは安く手に入ると思うです。でも、それだと中々気に入った物が手に入らない、という事ですかね?

 あ、もしかしたら、『ハタヤ屋』さんで売ってる宝飾品みたいなマジックアイテムは、このお店が抱える専門の職人さんに加工してもらってるのかもしれないです。

 と言うか、トキオのダンジョンで出て来たマジックアイテムだとしたら、明らかに展示してある品物の数が多過ぎると思うので、専門の職人さんが造ってるというのがたぶん正解ですね。

 だからこそ、まるで宝飾品の様なマジックアイテムなのですね。納得したです。



「さて、ミサトちゃん。カミーサさんに絡まれても面倒なので、そろそろ他の商品を見に行くです」


「……ユーリちゃん、手遅れだニャ」


「何ですと!?」



 専門の職人さんが居るだのと考えていたら、既にカミーサさんに見付かっていた様です。



「心外だなぁ、僕が面倒だなんて。僕はこう見えて、すっごく誠実なんだよ? よくみんなからは口数が多いだの、その一言が余計だの、鬱陶しいから黙れって言われるけど、僕は根が正直だから仕方ないんだ。それにこんな僕だけど、意外にモテるんだよ? だからこそマレさんと仲良くしてるんだし、ギルドでも人気の職員って訳さ。そんな僕が面倒だと言うんなら、面倒にならない様に僕に教えてよ。マレさんに似合うのはコレとコレ、どっちが良いかなぁ? 僕としてはどっちも似合うと思うんだけど、やっぱり女の子の意見も聞いた方が良いと思うんだよね。あぁ、でも、コレを付けたマレさんは綺麗だし、コッチを付けたマレさんは可愛く見えると思う。はうはうはう! プレゼントした後のマレさんの喜ぶ顔が目に浮かぶ様だよ!

 それで、どっちがいいと思う? ……って、あれ? どこに行ったの、ユーリちゃーん、ミサトちゃーん!」



 本当に面倒です、カミーサさんは。話が長いんですよね。なので、逃げて来ました。

 しかし……さすがに、ギルドマスターのクラウスさんが冒険者学園の入学式での話よりは短いですが、それでも短時間での口数の多さに辟易したです。逃げるのも当然ですよね?



「ねぇ、ユーリちゃん? カミーサが鬱陶しいのは分かるけど、ある程度は仲良くした方が良いと思うニャ。あたし達が冒険者になったら、否が応でもでも接する機会が増えると思うし」


「そう言えば、そうです……!」



 カミーサさんから逃げた後、隣の列の武器防具のマジックアイテムが展示してある所でミサトちゃんにそう言われました。ボクとは違って、ミサトちゃんはしっかりと先の事を考えてる様です。……鬱陶しいと思うのはボクと同じみたいですが。


 逃げるなんて、やっぱり塩対応過ぎでしたかね?


 でも、凄く面倒臭いです。人のプレゼントを選ぶなんて。

 と言うか、マレさんが綺麗になるのはむしろ好ましいですが、その為のマジックアイテムを自分で決められないのは男としてどうかと思うです。……男かどうかはまだ分からないですが、言動が男のそれなので男として扱うです。

 とにかく、自分で選んでプレゼントして、もしも気に入られなかったら売って新しいのを買えばいいです。


 ……売って? 品物を売る? カミーサさんなら怪しまれずに売れる……。


 閃いたです! ボクが魔石を売れないのなら、誰かに売ってもらえば良いです!

 そして誰かとは、そのカミーサさんです。カミーサさんならギルド職員として問題無く魔石を買い取ってもらう事が出来るはずです。



「ミサトちゃん! カミーサさんの所に戻るです!」


「ニャ!? きゅ、急にどうしたニャ、ユーリちゃん!?」


「善は急げ、です!」



 ミサトちゃんの手を握り、ボクはカミーサさんがまだ居るはずのアクセサリー類のマジックアイテムが展示してある所に戻りました。



「良かった、まだ居たです!」


「あ、ユーリちゃんにミサトちゃん、酷いよ! いつの間にか居なくなっちゃうなんて! いくら僕の事が面倒だからって、せめて他に行く時は声を掛けて欲しかったな。でも、戻って来てくれたって事は、マレさんへのプレゼント選びを手伝ってくれる気になったんだね? ありがとう! 僕一人だとやっぱり決まんなくてさ。それで、どっちが良いと思う?」



 カミーサさんがまだ居た事には安心しましたが、やはりマシンガントークが炸裂したです。ミサトちゃんも辟易した表情を浮かべてますね。ボクも同じです。

 しかし、ボクの頼みを聞いてもらうにはカミーサさんに付き合わないとダメです。



「選ぶのは構わないですが、ボクもお願いを聞いて欲しいです」


「え? ユーリちゃんが僕にお願いだって? もしかして、僕に告白かな? 嬉しいけど、僕にはマレさんっていう将来を誓い合ったような気がするかもしれない女性が居るんだから、ユーリちゃんとはお付き合い出来ないよ? でもでも、友達としてってなら考えるし、もっとユーリちゃんが大きくなったらガールフレンドとして接しても良いかな。あ、女友達って意味のガールフレンドだからね? や、嫌だなぁ。ミサトちゃん? そ、その爪は何かな? 僕としては爪を引っ込めてくれると嬉しいんだけど?」



 ミサトちゃんにゴーサインを出しちゃダメですかね?

 思わずそんな事が頭を過ったですが、ボクのお願いを聞いてもらうまでは我慢です。



「告白じゃないです! カミーサさん、ボクが持ってる魔石をボクの代わりに売って欲しいです!」


「カミーサにお願いって、そういう事だったニャ。だからハタヤのおっさんに魔石が何とかって聞いてたんだニャ」


「そうです、ミサトちゃん。魔石が売れればお買い物が出来るです。そして魔石を売ったお金でミサトちゃんに……ごにょごにょ」


「あたしに……何ニャ?」


「ううん、何でもないです! それで、ボクの代わりに魔石を売ってくれるですか? カミーサさん!」



 危なくプレゼント大作戦をばらす所だったです。ミサトちゃんは誘導尋問の天才かもしれないですね……!



「そういう事かぁ。そうだよねぇ、ユーリちゃんだとこの店じゃ買い取ってくれないかもね。あ、ギルドだったら買い取りしてくれるよ? まぁ、この店よりは安くなっちゃうけどね。ギルドは身分を証明する事が出来れば、たとえ子供でも買い取ってくれるんだ。だからユーリちゃんも自分で魔石を売りたいならば、ギルドをお勧めするよ。それに、冒険者学園の生徒なんだから、僕以外の職員とも知り合いになった方が良いと思うし。それで、売りたい魔石ってどれ? 今持ってるのかな?」



 カミーサさんからギルドについての説明がありました。

 初めからギルドに寄って、そこで魔石を売ってからここに来れば良かったです。今更、ですが。


 とにかく、カミーサさんもボクの代わりに魔石を売ってくれるみたいだし、その前にカミーサさんのプレゼント選びをしてあげるです。



「魔石はあるですが、今売って、後でプレゼントを買うんじゃカミーサさんが面倒だと思うので、先にプレゼント選びを手伝うです。ボクの意見としては、そっちのネックレスを支持するです。シックなデザインの上、マジックアイテムとしての効果が肩凝りの解消だからです。ミサトちゃんはどう思うです?」


「あたしは……うん、あたしもユーリちゃんと同じ物が良いと思うニャ。マレさん、意外と大きくて肩が凝りやすいって言ってたニャ」


「はうはうはう! ま、マレさん……着痩せするタイプなんだね♡ 美人な上に料理も鉄人だし、更にナイスバディなのかぁ♡ えへへへへへへ」



 マレさん、ナイスバディ……ですか。思わず自分の胸を見てしまったです。


 べ、別に、悔しくなんて無いんだからね!


 それはともかく、カミーサさんが鼻の下を伸ばしきって、凄くだらしない表情を浮かべてるです。それを見るミサトちゃんも、全てを死滅させる様な凍てつく視線を向けてます。あ、全ての指から爪が伸びたです!



「マレさんのプレゼントはそのネックレスで決まりって事で、次はボクの番ですね。売って欲しい魔石を今出すです」



【黒神】の中からゴブリンの魔石を100個とオークの魔石を50個、カミーサさんの目の前に出そうとしましたが、かなりの量なのでカミーサさんにマジックバッグを持ってるかを聞く事にしました。ボクが話を進めたので、ミサトちゃんも爪を引っ込めました。カミーサさんがホッとしてるのが分かりますね。



「カミーサさんはマジックバッグを持ってるですかね?」


「マジックバッグかい? もちろん持ってるよ。こう見えて、僕も昔は冒険者だったからね! ジョブは【魔弓士】だね。ランクは上げると面倒だからCランクだったけど、弓の腕前は世界一だって自負してるんだ。当時は、だけどね!」



 人に歴史あり、ですね。と言うか、まだまだ若く見えるのに、昔は冒険者って……カミーサさん、何歳ですかね?



「マジックバッグを持ってるかを聞いたのは魔石の量が少し多いからです。あと、カミーサさんって何歳ですかね?」


「僕の年齢はねぇ……206歳だよ! 僕って、『ハーフエルフ』なんだ。あ、でもでも、人間とのハーフじゃなくて、ドワーフとエルフのハーフ。だから男なのに女の子っぽい容姿なんだ。あ、それは置いといて、マレさんには年齢の事は内緒だよ? ジジイとなんて付き合えるかって嫌われたら嫌だからね!

 あぁ、マジックバッグだね、はい、出したよ?」


「このトキオで一番のおじいちゃんですか!? ビックリしたです!」



 カミーサさんの年齢を聞いて驚き、更に以前から疑問に思ってた事が解消されました。

 だからカミーサさんは性別不詳に見えたんですね。納得したです。

 ミサトちゃんもカミーサさんの話に驚いてるみたいですが、あまりに大きく目を開くと落ちちゃうですよ? ……落ちるのは、ボクがミサトちゃんとの恋に、ですが♡


 そんな話をしつつ、カミーサさんの出したマジックバッグの中へ手を入れ、売って欲しい魔石を【黒神】から直接入れました。



「それで、魔石の種類と数は?」


「ゴブリンの魔石が100個で、オークの魔石が50個です」


「何でそんなに魔石を持ってるの!? と言うか、何で君みたいな可愛い女の子が!? た、倒したんだよね……? まさか、どこかから盗んだ……なんて事は無いよね?」


「ニャんですと!? ユーリちゃん、三体のオークから逃げたって言ってたのに!?」



 ……おや?



「ほ、本当だ……! 僕のマジックバッグにそれくらいの量の魔石が入ってるよ!」


「記憶喪失だから、その前に手に入れてたって事かニャ? それにしたって異常な数だニャ!」



 やらかしましたかね、ボク。



「さすがにこの数は僕でも売れないよ! 僕が現役時代なら売れたと思うけど、僕が元冒険者だって知ってるのはクラウスさんだけだし、ハタヤさんは僕の事をうだつの上がらない平職員としか認識してないもん。この数は無理! 僕に売れるのは十分の一迄だね。でも、それだけでも金額は結構いくと思うから、それで満足して?」


「そ、そうだニャ、ユーリちゃん! 何にお金を使いたいかは分からニャいけど、オークの魔石だけでも1個一万ゼニになる筈ニャ。充分だニャ!」


「わ、分かったです、二人とも。じゃあ、ゴブリンの魔石を10個とオークの魔石を5個。それを売って欲しいです。あ、残りは回収するです」



 何故かミサトちゃんにまで説得されました。売る魔石の数に関しては納得したですが、何だか釈然としないです。



「と言うか、ユーリちゃんは魔石をどこに持ってたニャ!? マジックバッグとか持ってない筈ニャ!」



 ミサトちゃんからの追求は終わってなかったです。

 しかし、何て説明しますかね。【黒神】の事を正直に言いますかね?

 あ、記憶喪失という設定なんだから、それを利用して説明しますか。

 興奮してるのか、鼻息をムフームフーと吐くミサトちゃんに向けて、ボクは説明しました。



「覚えてないですけど、ボクが嵌めてる指輪がマジックバッグみたいな感じで、中に魔石がいっぱい入ってるです」



 他には【双刃剣ブラフマー】とかも入ってるですが、それは言わないでおきました。これ以上追求されるとボロが出そうですし、説明するのも面倒です。納得してくれましたかね、ミサトちゃんは。



「もしかしたら、ユーリちゃんの親がすっごい冒険者で、その親が魔物に殺されちゃった時にユーリちゃんにその指輪を託した……って事かニャ? それで、その時の事がショックでユーリちゃんは記憶喪失になったのかも。あ、ごめんニャ、ユーリちゃん。そういうつもりじゃ無かったニャ……」


「き、気にしてないから大丈夫です! もしかしたら、そうなのかもしれない、なんて事もあるかも……」



 とりあえず、何とか誤魔化せたみたいですね、一安心です。

 でも……ごめんです、ミサトちゃん。いずれミサトちゃんには本当の事を話すので、その時までは内緒にさせて下さい。


 記憶喪失の設定は便利だけど、中々思う様にはいかないなと思いました。

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