第34話 車掌さんの生まれ変わりですかね?
三十四
「それではー、トキオ草原発〜、トキオ行き〜、トキオ行き、発車致しまーす。発車する際揺れる場合がありますのでー、御座席からは立ち上がらない様お願いしまーす。次はー、トキオ。トキオ――」
どこぞの電車の車掌さんが言う様な言葉を発した後、二頭立ての馬車を発車させる御者さん。木で出来た車輪が動き出し、カラカラカラと小気味よい音を響かせ始めました。更に、二頭の馬のパカパカという蹄の音とも相俟って、のんびりとした気分になって来ますね。ちょっとした観光気分です。
しかし……レイド先生がチャーターした、ダスト商会が経営する乗り合い馬車の御者さんは、まさか……電車の車掌さんの生まれ変わりですかね? それとも、そのモノマネをする某芸人さんですかね? とにかく、少しだけ高い声で発車の言葉を言う御者さんに、ボクは不思議な気持ちでいっぱいです。
不思議と言えば、試練のダンジョンの最後でボクの傍から消えたシュテン。何故『12』の扉に入る時に消えたのか。でも、あの場所はボクの『力の継承』だけの為に存在してたっぽいので、その力が他の者に流れない様になってたのかも。
そんな事を思いつつ、ボクは自分の内側へと意識を集中します。すると、シュテン以外の気配がしっかりと在る事が確認出来ました。もちろん、アクアを含む四大精霊もです。
アクアなどの精霊は、召喚者のマナが切れると自動的に精霊界へと戻ります。但し、契約した証と言うか、絆と言うか、そういうのは意識を内側に集中させると感じる事が出来るです。その為、アクアについては安心しました。あ、絆云々に関してはボクの感覚的な感じなので、他の精霊召喚者がどう感じてるのかは分からないですよ?
「やっぱり……シュテンだけ何も感じないです。絆は繋がってるみたいですが……」
「ニャ? ユーリちゃん、何か言ったかニャ?」
「あ、何でもないです」
「ふーん。ま、いいニャ」
シュテンの気配を感じられず、その事で無意識に発したボクの言葉に、可愛らしくキョトンとした雰囲気で訊ねてくるミサトちゃん。鬼神の王であるシュテンの事はおいそれとは言えないので、ツッコまれなくて良かったです。
……と言うか、ボクの能力を含め、シュテンの事もアクア達の事もみんなには言えないです。
そもそも、ボクは記憶喪失な上に、冒険者を目指す美少女という設定です。……中身はおっさんですが。
とにかく、そんな美少女が膨大な力を誇るシュテンやアクア達精霊を使役するのは明らかにおかしな話です。むしろ、そんな力があるなら何故冒険者学園に通うのかって話です。
そして、そんな力を持ってる事が人にバレたら、間違いなく面倒事に巻き込まれるです。
ボクの当面の目的は、美代達愛する家族を探し出す事です。美代達がこの世界のどこかに居るというシヴァちゃんの話が本当ならば、ですが。
とにかく!
出来るだけ面倒事は避け、そして冒険者となって、この世界のどこかに居るかもしれない美代達を見付けるのです!
「ところで、ユーリちゃん。ユーリちゃんはトキオ草原のどこでホーンラビットを探してたニャ? クリスやネコーノの事は見かけたんだけど、ユーリちゃんの姿は見なかったニャ」
冒険者となってからの展望に思いを馳せながらグッと手を握っていたボクに、課外授業中どこに居たのかと訊ねてくるミサトちゃん。コテンと小首を傾げる仕草に思わず萌えます。同時に、頭の上にある猫耳がピンとボクに向けられてる所も可愛いです♡
「その事なら、巣穴を探してたです。そして見付けて、中に入ったらホーンラビットじゃなくて、ゴブリンが居たです」
「何だと!? ホーンラビットの巣穴にゴブリンが居ただと……! その話は本当か、ユーリ!」
あれ? レイド先生が食い付いて来たです。
「ホントです、レイド先生。後、オークも三体居たです」
「オークも、だと!? しかも、三体も……! もちろん、逃げたんだよな? 逃げたんだから無事なんだろうが、とにかく良かった、無事で」
「レイド先生、それは当たり前ニャ! いくらユーリちゃんが強かったとしても、さすがに三体のオークは相手出来ないニャ! 逃げて正解ニャ……! 捕まってたら、苗床にされてたはずだニャ……」
……三体のオークが居たと言ったのは失敗でしたかね?
失言はともかく、ボクの言葉に驚くレイド先生に、ボクの事を本気で心配してくれたミサトちゃん。やっぱり人間って良いですね。優しさを感じるです。
ちなみにアクア達は、ボクはあの方の後継者だからどんな魔物でも倒して当たり前的な事しか言わなかったです。今となっては楽勝ですが、『ライノナイト』の群れに囲まれた時は大変だったです。初見だったのに、「いけーっ!」だの「拙者、ユーリ様ならば斯様な魔物如きに後れを取るとは思いませぬ」だのと
あ、ライノナイトとは、二足歩行をするサイが鎧を着て大剣を持った魔物です。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
魔物名:ライノナイト
種族名:獣魔族
ランク:Aランク
特徴:身長が3m程の二足歩行するサイの魔物。身体はフルプレートメイルに身を包み、顔は剥き出しになっている。両手で巨大な大剣を操り、どこで覚えるのか立派な剣技を使用してくる。体重が300kg以上ある割には意外と素早い。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
ともあれ、オークが居たと言ってしまった以上、レイド先生にはダンジョンの事も話さないと不自然ですね。
しかし、どうやってダンジョンの事を伝えるか。
この『ハポネ王国』にはダンジョンが無いです。聞いた話によれば、ですが。そして、ダンジョンの事を知ってる人も少ないみたいです。それは冒険者も含めてですね。恐らく、ギルドマスターとか英雄の呼び声高い、変態紳士のマキトさんくらいになると詳しく知ってるとは思います。
そんなダンジョンを、ボクみたいな冒険者の卵が知ってるなんておかしな話ですよね?
となると、ダンジョンの事を伝えるにしてもオブラートに包む必要があるです。例えば、ダンジョン特有の現象とか。
ならば! アレしかないですね!!
「そう言えば……その巣穴、何か雰囲気がおかしかったです。通路全体がほんのり光ってる様な感じだったです」
「……一部の魔物はそういう光る土を使って化粧する習性がある。きっとゴブリンやオークにもそういった行動をする奴が居るんだろ? だからか? ホーンラビットの巣穴にゴブリンやオークが居たのは。何にしても、講師である俺にしてみれば、生徒の命が危なかったんだ。もっとその可能性について考えるべきだった。……すまなかったな、ユーリ」
……伝わらなかったです。
伝わらないどころか、レイド先生は自らの考えの至らなさでボクを危険に晒したと謝ってくる始末です。その誠実な人柄は好感度が上がるですが、ボクとしてはダンジョンの事が伝わらないもどかしさに身をよじる思いです。
「ユーリ、その話……本当か? 光る通路ってのは確かダンジョン特有の現象だったはず……!」
ボク達の話を聞いていたのか、その話に割り込んで来たクリス君。しかも、その内容からダンジョンの事を知ってるみたいです。思わぬ援軍が現れました。ですが、これで話は進みそうです。
「ダンジョンだと!? 何でクリスがそんな事を知ってるんだ? って言うか、俺が忘れてただけだがな、ダンジョンの事なんて」
「俺がダンジョンの事を知ってるのは……幼い頃に死んだ親父から聞いたからです。親父は、冒険者だったんです。その親父が駆け出しだった頃、隣の国の【ワコク皇国】のダンジョンに潜った事があったらしく、いつも自慢話をされてました。その話に俺も憧れて……それで俺も冒険者になってダンジョンを目指そうって思ったんです」
「……そうか。思い出させてすまねぇな。
ダンジョンについてだが、そもそもこの国にダンジョンなんて無かった。だから学園で教えても意味がないって事でカリキュラムから外されてた訳だ。それで俺もダンジョンについて忘れてた。しかし、もしも……本当にもしもの話だが、ユーリが入り込んだ巣穴の奥が本当にダンジョンならば、とんでもねぇ事になるぞ……! 学園のカリキュラムも変えなきゃなんねぇだろうし!」
「カリキュラムはどうでもいいけど、ユーリが見付けたのが本当にダンジョンなら、わざわざワコク皇国まで行かなくても済むな! 俺の夢が現実味を帯びてきたぞ……!」
クリス君の話でようやくダンジョンについて思い出したレイド先生と、ダンジョンの事を知ってた理由が死んだお父さんから聞かされたと説明したクリス君。そのクリス君の説明に、ダンジョンの事で盛り上がりかけたレイド先生も少しだけ沈痛な表情をしたです。ボク達が孤児だという事を失念してたのかもしれないです、レイド先生は。
もしもクリス君のお父さんが生きてたならば、今頃はクリス君も冒険者となっていて、それでお父さんと二人で活動してたかもしれませんね。ダンジョンについての夢を語りながら。そう思うと、何だか切なくなってくるです。……クリス君は夢が叶うと喜んでますが。
「僕も知ってましたよ、ダンジョン。ドワーフとしては当然の話ですね、ダンジョンの通路が仄かに光るというのは。僕は生まれて直ぐに両親が死んだので、集落の長から聞いた話ですが」
ボクがクリス君の身の上話で切なくなっているところで、ノルド君も話に参加して来ました。ネコーノ君以外は孤児ばかりなので、やはり内容が切ない感じになるです。……ボクは記憶喪失の孤児という設定ですが。
「僕も知ってましたぞ、ダンジョンの事は! クリス殿と同じで、僕も死んだ父上から聞かされましたぞ……!」
クリス君とノルド君に続き、ネコーノ君までもが死んだお父さんにダンジョンの事を聞いたと告げて来たです。その表情は、やはりどことなく暗い雰囲気です。
と言うか、ネコーノ君のお父さんはトキオの領主様ですよね? ですが、死んでたなんて聞いた事無かったので驚きです。
だとすると、今のトキオの領主は誰がやってるんですかね? もしかしたら、ネコーノ君が跡を継げる様になるまでハポネ国王から任じられた代官がトキオを管理してるのかも。どちらにせよ、ボクはしんみりしてしまったです。
「「「「ネコーノの親父は生きてるだろっ!!!!」」」」
「バレた、ですぞ!」
――何ですとっ!?
ボク以外の全員から一斉にツッコまれたネコーノ君。ボクだけ呆気にとられ、思わず口が半開きになったです。……一瞬にしてしんみりとした空気が消し飛びました。
しかし……このしんみりした場面でよくも嘘がつけますね、ネコーノ君は。アホの上にドが付く程ですかね? ムードメーカーとしては最高だとは思うですが。
「ウォッホン! と、とにかく、だ! ユーリが見付けたのがダンジョンならば、こいつは大発見だ! トキオが沸くぞ!!」
わざとらしい咳を一つして、緩くなりつつある空気を引き締め直すレイド先生。ボク達もこれがまだ課外授業であるという事を思い出し、再び気を引き締めました。
……が、その後は結局、他愛のない冗談などを口にしつつ、小一時間程でトキオへと着きました。
トキオの南門での入街手続きのおり、時間がギリギリ(門限は夜八時との事)だった事で一悶着あったですが、レイド先生が「ダンジョンが見付かったかもしれねぇ!」との一言を放つと、守衛さんは「何だと!? それが本当ならば直ぐに冒険者ギルドへ行け!」と返答したので、慌ただしくはなりましたが無事トキオへと入街出来たです。
トキオに入った後もそのまま馬車で移動しました。
何故かと言えば、トキオの大通りは馬車が横で四台並んでも通れる程に広いからです。その為、南門で馬車から降りる事もなく、そのままダスト商会へと向かいました。
「終点〜、終点〜。本日は当ダスト商会馬車をご利用頂き〜、誠にありがとうございま〜す。お降りの際は、荷物の忘れ物などにご注意の上〜、足元に気を付けながらご降車下さい〜」
……やはり、御者さんはどこぞの電車の車掌さんの生まれ変わりですね。
ともあれ、東区のダスト商会の前で馬車から降りた後、トキオの北区に在る冒険者ギルドまで歩きます。
トキオはハポネ王国を代表する程栄えているので魔晶灯が幾つも設置されていて夜でも明るく、その為、夜八時を過ぎても大通りには人が溢れていたです。
この時間でも街往く人々が多いのは、酒場で食事を摂る冒険者やお酒を飲む冒険者、又は、酒に酔った冒険者が酔った勢いで娼館などに向かう為だとか。雰囲気的に、風俗街に近いかもしれませんね。
ちなみに、夜八時を過ぎた時間に冒険者が多いのは、依頼達成報告を終えて報酬を受け取り、そのお金を持って夜街へ繰り出すからだそうです。依頼を達成して飲むお酒、美味しいですよね!
冒険者学園に通うボクは当然まだ経験してないですが、かつての世界において、仕事を終えてから飲むビールの美味さは知ってます。それを思い出すと、無性に飲みたくなって来ました。頑張って冒険者にならねば!
それはさておき。
「しかし……ダンジョンが見付かったからって、守衛さんもあんなに騒ぐものなんですかね?」
「当たり前ニャ! ユーリちゃんは記憶喪失だから分からないかもしれニャいけど、ダンジョンは国にとっての資源ニャ。ダンジョンが国に在ると無いとじゃ、当然経済にも天と地ほどの差が出てくるニャ。そして、ハポネ王国は今までダンジョンは無いとされてきたニャ。ユーリちゃんが見付けたかもしれニャいダンジョンが本物ならば、この国はこれからとんでもなく活性化するニャ!」
「な、何だか分からないですが、とにかく凄いという雰囲気だけは分かったです……!」
冒険者ギルドへと向かう中、ダンジョンが見付かったくらいで騒ぎ過ぎじゃないかと聞いてみたら、ミサトちゃんから小難しい説明を受けました。学の無いボクの頭からは、当然大きなハテナマークが飛び出たです。
そんな話をしてる内、冒険者学園を通り過ぎて冒険者ギルドへと到着しました。話に夢中になると、時間の流れが速いですね。時刻も既に夜九時過ぎです。時計も持ってないのに時間が分かるのは、その能力も力の継承の時に受け継いだからみたいです。不思議ですよね。
それはさておき、大人が三人並んでもなお余裕のある入口を抜けて中に入ると、依頼達成報告をする冒険者も
そんな冒険者ギルドの造りは、扉の無い入口(荒くれ者の冒険者に壊される為に扉は無くしたとの事)を抜けると直ぐ右側に依頼書を張り出す為の掲示板があり、正面を向けば受付カウンターが二種類あります。左側のカウンターは素材買い取りや報酬の受け取りカウンターで、右側のカウンターが依頼を受けたり依頼達成報告をするカウンターだそうです。それぞれのカウンターは
役所とは違う点を挙げるとするならば、勇ましい絵が壁に大きく描かれてる事ですかね。その絵とは、ドラゴンと思われる魔物に剣が交差する様に突き立てられているという絵です。もしかしたら、これが冒険者ギルドを表すシンボルマークなのかも。でも、何だかカッコ良いです。そう言えば、入口前の看板にも同じ絵が掲示されていました。という事は、やはりその絵が冒険者ギルドのマークという事ですね。
マークはともかく、ギルド内部の広さはと言うと、結構広くて……そうですね、かつての日本における一般的な市役所などのロビー程はありそうです。
ちなみに、受付カウンターの奥には階段が見えており、そこから二階へと上がれる様になってます。恐らくギルドマスターの執務室はそこに在るんでしょうね。
「やや? ややや!? 君たちは僕がクラス分け試験で目を付けた子供達じゃないか! あ……えと……目を付けたって言っても、やましい気持ちじゃないからね? ほら、なんて言うか……そ、そうだ! 猫の形の魔法でドヤ顔をしてたり、人虎の爪でアソコを引っ掻かれたら嫌だなぁって思ったり、意味が分かんないけど、何故かちっちゃなスライムを出したりって……い、いや、あのね? みんな、どうしたのかな? 冷たい目をして。やだなぁ……僕の事忘れたのかい? ほら、僕だよ! 『カミーサ=ツオム』だよ! はうはうはうっ! そ、そんな目で見詰められると……照れちゃうよ……♡」
「くだらねぇ事言ってんじゃねぇ! それよりもカミーサ。……クラウスさんはまだ居るか?」
ボク達の姿を見るなり、一人で残っていた事が寂しかったのか、捲し立てる様に話しかけて来たギルドの職員さん。ギルドに残っていたその職員さんは、ボク達がクラス分け試験の時の試験官だったカミーサさんでした。
あの時もそうだったですが、どうしてこの人は余計な言葉を口にするんですかね? 性格なんですかね? せっかくのイケメン……性別不詳なのでいまいち分からないですが、とにかく顔は整っているのに、余計な一言で二枚目から三枚目に成り下がっているです。きっとそのせいでマレさんにも相手にされないんですね。
「え? マスターに何の用なのかな? って言うか、マスターは学園長もやってるんだから明日会えば良いと僕なんかは思うけど、急用なのかな? なんだったら僕にも聞かせてよ、急用の話ってやつ。凄い事だったらマレさんに話して、そんで自慢したりなんかしちゃったりして……♪ や、やだなぁ! そ、そんな事しないよ! うん、しないしない! えっ!? 早くマスターを呼べって? れ、レイドさん? 無言で剣を抜くのやめません? ま、マスターーっ!!」
なんだかんだ言いつつ、カミーサさんはレイド先生の無言の脅しに屈し、ようやくギルドマスターのクラウスさんを呼びに行きました。カウンター奥の階段を昇っていったところを見ると、ボクの予想通り、ギルドマスターの執務室は二階に在るみたいです。
「……ところで、どの様な要件ですか?」
……ここにもアホがいました。要件を聞かずに何を言いに行くつもりだったのか。カミーサさんは直ぐに戻って来たです。
「……ダンジョンが見付かったかもしれねぇって伝えてくれ」
「だ、だ、だ……ダンジョンですか!? ダンジョンって……あの、ダンジョンですかっ!? はうはうはうっ! 遂にこの国にもダンジョンですか……! あ……っ! 今すぐマスターにお知らせして来ます! ま、ま、マスター!! だ、ダンジョンがぁーーっ!!」
呆れながらも、ダンジョンが見付かったかもしれないとカミーサさんに告げるレイド先生。カミーサさんは毎度そんな感じなのか、急いで執務室へと向かうカミーサさんを見詰めるレイド先生の吐くため息にも呆れの色が見え隠れしてるです。
程なくして、カミーサさんが再び戻って来ました。
「マスターが会われるそうです。こちらの階段から二階に上がって、突き当たりの執務室まで行って下さい」
「分かった。クリス達も本当は帰ってもらう所だが、この話を誰かに話されるとまだ困るから、悪ぃけど付き合ってもらうぞ? ユーリは発見した本人だから強制だがな」
何故か丁寧な口調になったカミーサさん。本当は真面目なのかもしれないですね。
カミーサさんはともかく、ボク達はレイド先生と一緒にギルドマスターの執務室へと向かいました。その際、ボク達全員に付き合ってもらうと言ったレイド先生ですが、ここで帰されると不満が出ると思うです。
だって、みんなが憧れる冒険者の拠点とも言えるギルドですよ? しかもマスターの執務室なんて、マキトさんみたいな有名な冒険者しか入れないと相場は決まってるです。帰れと言われて、はいそうですかって帰る訳ないじゃないですか! 案の定、みんなの顔はワクワクした表情を浮かべてるです。
「学園長……じゃなかった。クラウスさん、入りますよ?」
執務室の前でコンコンとノックした後、入室の確認をしたレイド先生。学園長と言ってしまったのは愛嬌ですね。
「入りなさい」
執務室の中からは、入学式の長話をした時と同じ声で入室を許可する言葉が聞こえました。改めて聞くと、少し低い声で渋い感じで……凄くダンディーな声ですね。大人な感じがするです。
クラウスさんに許可をもらって入室すると、目の前にはアンティーク調の机があり、クラウスさんはそこで書類と睨めっこしてました。ダンディーな声に執事と見まごう姿のクラウスさんだけに、
クラウスさんの様子を気にしながら執務室の中をそれとなく見回すと、左の壁際にはマネキンの様な人形に使い古された様な軽鎧が着せられて飾られており、反対の壁際には何本かの剣が飾られてました。
「気になるかね?」
「え、あ……はいです」
「失礼だぞ、ユーリ!」
「構わんよ、レイド君。君は、ユーリ君と言ったね。私の執務室は殺風景だろ? でも、冒険者上がりの私としては、やはり愛着を持って使用してた防具や剣があった方が落ち着くんだよ。……他の街のギルドマスターには笑われるがね」
そう言って、ニコッと笑うクラウスさん。柔和な笑顔に歴戦の勇姿を彷彿とさせる雰囲気が滲み出ています。素敵なおじ様ですね、カッコ良いです。
「それで……ダンジョンが見付かった、と言うのは本当かね?」
「俺が見付けた訳じゃないんですが、ユーリがどうやら見付けたらしいんですよ」
「それは本当にダンジョンだったのかね? 君はダンジョンの事について知らないと私は思うんだが」
クラウスさんから、本題のダンジョンについて聞かれました。
確かにクラウスさんからしてみれば、冒険者学園に通うボクがダンジョンについて知らないと思うのは頷けます。ですが、試練はともかく、あのホーンラビットの巣穴の中は確かにダンジョンとなっていました。力の継承を終えた今となれば、確実にそれが分かるです。融合だけでは足りてなかった知識も、継承の時にしっかりと受け継いだので。
「あれは確かにダンジョンでした。ダンジョン特有の仄かに光る通路に、倒して暫くすると粒子となって消える魔物。浅い階層だったのでゴブリンでしたが、粒子となって消える所を確認したです」
実は出口まで戻って来る時、再び三体のゴブリンと遭遇してました。今のボクにとってゴブリンはもはや虫と一緒です。軽くぶつかっただけで死んでしまいました。
その時にふと気になって少し様子を見ていました。何故かと言えば、オークの死体がその後消えたかどうかを確認する事なくあの広間を出たからです。レイド先生に怒られるって急いでましたからね。
しかし、想像以上に身体能力が上がってたのでレイド先生の所に戻るのにも少し余裕が出来、だからこそ、ぶつかって死んでしまったゴブリンの様子を見ていたという訳です。
時間にして10分。いや、15分くらいですかね。死んで通路の床に横たわるゴブリンの死体は灰色の粒子となって消えていったです。
「仄かに光る通路に、粒子となって消える魔物……か。確かにその話を聞けばダンジョンにしか思えないな。分かった、ありがとうユーリ君。この件については明日、マキト君を初め、数人の冒険者達にそのダンジョンらしき所を調査してもらう。それと、レイド君、それにユーリ君を含む君達は、決してこの事を他人に話しちゃいけないよ? しっかりとダンジョンと確認出来た後になら構わないがね。じゃないと、実力の無い者たちが勝手に入ってしまうからね。それで死んでしまったら大変だ。
そうだ、それで場所は何処かね? これを聞いておかないと、マキト君達も何処に向かえば良いのか分からないだろうからね」
ダンジョンだと信じてもらえる理由をそれとなく伝えると、クラウスさんも納得したみたいです。そして、Sランク冒険者のマキトさんを含む高ランク冒険者数人で調査するとの事でした。しっかりと口外禁止したところを見ると、危険度が分かっていないダンジョンに実力の無い冒険者が勝手に入る事を防ぐ為ですね。ギルドマスターだけあって、その辺はしっかりしてるです。
その後、ボクはダンジョンの場所をクラウスさんに教え、それからみんなで学園まで戻りました。
本当はそのまま孤児院へと帰りたかったんですが、クリス君とノルド君が武器を借りてる以上戻らないとダメですし、そもそもマジックバッグも借りてます。どちらにせよ学園に戻らないとダメでしたね。
あ、そうそう。マジックバッグの中に入ってるホーンラビットは学園の方で解体して、毛皮などの素材は売って学園の備品の足しに、お肉の方は学園の食堂で提供するみたいです。出来ればお肉の方は孤児院に持って帰って、マレさんに調理してもらいたかったですが、授業の一環として狩ったので仕方ないですね。
ともあれ、ボクにとっては久しぶりの、ミサトちゃん達にとっては少し遅い帰院となりました。
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