第10話 変態紳士、現る!?

 

 十



 ん……うーん……朝、ですか。窓から射し込む朝日が、瞼越しでも眩しく感じるです。外からは小鳥の囀りも聞こえて来るですね。清々しくも瑞々しい朝の空気が、優雅な時間を演出してくれてるです。



「……後五分、寝かして欲しいです……」



 ……という訳で、二度寝でもしますかね。


 ……


 …………


 ………………


 ……………………っ!?


 お、起きなきゃダメでした! 入学初日から二度寝をするとは、ボクはなんてダメな子ですか!?

 ともあれ、早く身だしなみを整えて、着替えて、食堂に行くです!



「…………出るです。……ト、トイレ!」



 やはりマトモな食事をすると……出ますね。……何が、とは言いません!


 部屋のトイレで用を済まし、急いで食堂へ。

 寝坊したと思ってたですが、どうやら間に合った様です。ミサトちゃんを初め、クリス君やノルド君も朝食を食べてました。あ、ミーナさんも半分寝ながら食べてますね。口からは食べ物が……。本人の許可無くこれ以上は言えないです。尊厳は尊重するです、ボクは。

 ……それはともかく、先ずは挨拶をするです!



「おはようです、みんな!」


「…………あぁ」


「おはようございます、ユーリさん」


「おはようニャ」



 半分寝ているミーナさんからは無かったですが、ミサトちゃん達からは三者三様の挨拶が返されました。ですが、今はそれ所じゃないですね。遅刻をしない為にも急いで朝食を済ませないと!

 ちなみにですが、孤児院の食事は近くに住んでいる『マレ』というお姉さんが作ってくれているそうです。何でも、トキオの南区の定食屋さんで料理人をしているらしく、ダストさんとも仲が良いとの事で引き受けてるみたいです。さすがダストさん。顔が広いですね!



「さて、と。それじゃあ今日は私も付いて行くから、みんなで行きましょう。ユーリちゃんは私と手を繋ぎながらね♪」


「……お断りするです」


「そんなぁ〜!?」



 白パンと野菜スープの朝食を食べ終え、それではと冒険者学園へと向かいます。

 ミーナさんがボクと手を繋ぐなどと言い出しましたが、クリス君にキッと睨まれたし、恥ずかしいので断ったです。

 そうしてみんなで孤児院を出て、北区にある冒険者学園に向かってましたが、北区に入った辺りで人集ひとだかりが出来ていたです。

 ……こんなに朝早くから……早くでも無いですが、どうして人が集まってるんですかね? 少し気になるです。



「ねぇねぇ。何でこんなに集まってるの?」



 ミーナさんも気になったらしく、集まってる人々の一人に聞いていたです。



「いやぁ、俺も来たばっかだから良く分かんねぇが、何でも『マキト』さんが大物を仕留めて帰って来たらしいぜ?」


「マキトさんが!? しばらくトキオに居ないと思ったら、そういう事だったのかぁー!」



 マキトさん……? 誰ですかね、その人は。大物を仕留めたという事は、冒険者なんですかね?


 ……などとマキトさんについて予想をしてたら目の前の人集りが左右に割れて、そこから、大きな荷車を引いた大きな体の紳士(?)が現れました。

 身長が190cm程もある大きな紳士の首から上は、正に紳士。柔和な目元に整った鼻。その鼻の下には、これぞ紳士と言わんばかりの手入れされた口髭が生えてます。髪型は短髪オールバックで、髪の毛や髭の色、そして瞳の色も碧色ですね。

 顔の見た目は素敵な紳士なのに体に纏っている装いは、大きなリボンが腰に付いたノースリーブの黒いワンピース……。左腕には白いブレスレットを付けてますね。そして、背中には巨大な大剣を担いでいるです。……どこから見ても変態です。

 そんな変態紳士が引いている荷車の上には、ボクが倒したゴリライガーが乗せられていました。胸に大きな穴が空いている事から、ボクが倒したゴリライガーで間違いはないですね。



「そこに居るのは……おおっ! ミーナ君かね! 久しぶりだね。元気にしてたかね?」


「マキトさんこそ、久しぶりですよ! それで、今回はその荷車の魔物を仕留めてきたんですか?」



 …………………………。


 ……はっ!?


 あ、危ないです……! あまりにも強烈なキャラクターだったから、半分魂が抜け掛けたです!

 そんなボクをよそに、変態紳士とミーナさんが親しげに話していました。



「うむ! 私が長年探し求めていたゴリライガーを、遂に仕留める事が出来たのだよ! 見たまえ! この恐ろしい姿を!」


「ゴリライガーですか!? 魔物図鑑でSランク指定の危険な魔物の……! さすが、マキトさんですね♪」


「はははは! そうだろう、そうだろう! 苦労したのだよ、私も……」



 ミーナさんに尊敬の眼差しを向けられ、得意満面な変態紳士……のマキトさん。

 ですが、そのゴリライガーはボクが倒した魔物ですよ? 誰にも言いませんが。誰かに言ったら、レイク湖の傍の大穴事件の犯人がボクだとバレてしまうです。

 しかし、ゴリライガーがSランクですか。攻撃は大した事なかったし、魔法初心者のボクの魔法で死ぬくらいですよ? SランクのSは、きっとスモール(小さい)のSですね!

 それはともかく、一応紹介してもらいますかね。



「ミーナさん。ボクにも紹介して欲しいです。その人は誰ですかね?」


「あぁ、この人は……」


「み、ミーナ君! こ、この小さなレディはいったい誰かね!?」


「ひぃっ!?」



 紹介して欲しいなどと思わなければ良かったです……! ボクを見るなりマキトさんは興奮を隠す事無くボクを抱き締め、そしてあろう事かボクの胸に頬擦りしてきたです!

 あまりにも気持ち悪いので何とか逃れようと足掻きましたが、ムキムキの太い腕の力は尋常では無く、ボクはされるがままに頬擦りされたです。……泣いても良いですかね? と言うか、既に涙が止まらないです。



「ちょ、ちょっと! いくらマキトさんがこの国唯一のSランク冒険者でも、私のユーリちゃんに勝手に抱きつかないでよ!」


「何を言っているのかね!? ちっぱいこそ至高! そして、至宝なのだよ! 君はユーリちゃんと言うのかね? 君こそが正に全世界の宝なのだよ! ムッハーーーッ!! たまらん!」



 ……ミーナさん、ボクの体はボクの物ですし、マキトさん、ちっぱいって……至宝なんですか?

 ともあれ、ミーナさんとマキトさんの問答の末、ようやくボクは解放されました。



「ヒグッ……怖かったですぅ……うえぇぇぇ〜ん……」


「す、すまなかった。あまりにも私の理想のレディだったものだから、つい。……それでも、これは何かの縁という気がしてならないのだよ、私は。もしも何かあれば私を頼ると良い。こう見えて私はSランクだからな! わっはっはっはっは! それではミーナ君にリトルレディユーリ、私はこの辺で失礼するよ」



 恐怖と気持ち悪さですすり泣くボクに、変態紳士は縁が何とかと言いながら去って行きました。大きなゴリライガーを乗せた大きな荷車を、その大きな体で引きながら。


 ……朝から酷い目にあったです、しかし。


 ちなみに、ボクがマキトさんから酷い目(頬擦り)に遭っている時、ミサトちゃん達は群衆に紛れてました。目で助けを求めても、目を合わせてもくれなかったです。……こうなると知ってましたね。あの三人は。

 ともあれ、ようやく冒険者学園に行けますね。


 トキオ北区の大通りでマキトさんとの一悶着がありながらも、その後ボク達は冒険者学園へと着きました。



「……グスッ……ココが……スンッ……冒険者学園……グスッ……ですか……」


「……ユーリちゃん、私の胸で泣いても良いのよ?」


「俺は許さねぇぞ!?」


「クリスはうるさいニャ。最低ニャ」


「僕もそう思いますね。しかし、僕達四人は今日から冒険者学園に入学ですから、仲良くしましょう」



 ……何ですと!?


 マキトさんとの事で未だに涙が止まらないボクでしたが、ノルド君の言葉に驚いたです。お陰で涙も止まりました!

 ボクの涙はともかく、ノルド君の言ってる通りだとすれば、ボクだけが今日から入学すると思ってましたが、どうやらミサトちゃん達も今日から冒険者学園に入学するという事ですね。

 孤児院の経営方針でそう決まってるという事ですかね? 聞く所によると、冒険者学園を卒業した人は冒険者になるだけじゃなくて、色々な職業にも就くそうです。ならば、孤児院の子達には正にうってつけの学園ですね。孤児院を出てからも生活に困らない様に、学園に通って手に職を付ける。ダストさんは本当に素晴らしい人ですね!

 ともあれ、煉瓦造りの立派な冒険者学園へとボク達は入りました。



「それじゃあ私はここまでだけど、それぞれの夢に向けて頑張ってね? ユーリちゃんとミサトちゃんは私がずっと面倒見ても良いけど、クリスとノルドは頑張って独り立ちするのよ?」


「くっ! 必ず俺に振り向かせてみせるからな!」


「僕、頑張るよ! ドワーフだって冒険者になれるって所を見せなくちゃね!」


「あたしは冒険者になるニャ! 世界中のお宝は、みんなあたしの物だニャ! だからミーナのお世話にはならないニャ!」



 おかしな事を言ってるミーナさんはさておき、門を潜った所でそのミーナさんと別れたボク達は、先ずはクラス分けの為の試験を受ける為、学園の中庭へと行きました。中庭の広さは恐らく東京ドーム一つ分ですね。それだけの広さを誇る中庭には、今日入学する子達が100人程集まっていたです。

 その子達の身なりからすると、貴族の子供も混じっているみたいですが、大半は一般市民の子供達ですね。そして、誰も彼もが希望に満ちた顔をしてました。表情がキラキラと輝いて見える事からもそれが分かるです。



「所でクリス君。試験って何をやるですかね?」


「……何でミーナを巡るライバルの俺に聞くんだ?」


「ご、誤解です! ボクはミーナさんの事は何とも思ってないですし、むしろ迷惑してるです! なので、ボクはクリス君を応援するです!」


「そ、そうか! お前……良い奴だな! それで試験ってのは……もう始まるみたいだから、他の連中を見てれば分かるさ!」



 クリス君とこんなに早く打ち解ける事が出来たのは嬉しいですが、それよりも今は試験ですね。この試験で、この世界の人間の能力や魔法などもきっと理解出来る筈です。でも、魔法初心者のボクでさえあれだけの魔法を使えたんだから、他の子達はもっと凄いと思うです。注目ですね!


 ワクワクしながらそんな事を考えてましたが、先ずは説明から始まる様です。試験官と思しき男の人(?)が園舎の方からやって来て、みんなの前で話し始めました。



「やぁ、みんな! 僕の名前は『カミーサ』! 普段は冒険者ギルドの職員をしてるんだけど、今日は呼ばれちゃったから特別だね! それでなんだけど、みんなには試験を受けてもらいまーす! まぁ試験と言っても、あそこに立ってる人形を好きな様に攻撃してもらうだけなんだけどね。それで君たちの実力が分かるんだから、マジックアイテムって凄いよね! 僕の家にも欲しいくらいだよ! ギルドで嫌な事があったら、それで憂さ晴らしなんかしちゃったりしてさ?

 ……た、たははははは。は、話が逸れちゃったね。そ、それじゃ、そっちの端の子から順番にお願いするよ」



 どうやら試験官は、カミーサという名前のギルド職員みたいです。その見た目は……男の人か女の人かは分からないです。

 髪の長さは背中の中程で、色はブラウン。それをポニテ(ポニーテール)に縛っています。

 顔はどうなのかと言うと、端正な顔立ちなのに丸みを帯びているし、声も綺麗な少年の様な声です。自分の事を僕って言ってるからたぶん男の人だとは思うですが、僕って言ってるだけじゃ、ボクの事もあるので分からないですね。

 ならば、服装や身体の特徴で分かるんじゃないかと言われそうですが、服はゆったりとした緑色の上着を着ているし、ズボンも同じく緑色のゆったりとした物を履いてるです。その事から身体の特徴は分からないですし、身長も165cm程なので、男の人にも女の人にも当てはまるです。

 もしも話す機会があるならば、その辺りをしっかりと確認しないと失礼な事を言ってしまいそうですね。


 ……と、それはともかく、試験に集中するです!



「お願いします! はぁぁぁ……やぁぁああ!!」



 試験一人目は男の子でした。可愛らしい掛け声と共に、試験の為に用意されていた長剣を両手で大きく頭上に振りかぶり、そのままの姿勢で人形へと突撃しました。そして突撃した勢いのままに人形へと長剣を振り下ろし、人形を真っ二つに両断したです。

 ボクの目にはとてもゆっくりとした攻撃に見えたですが、人形を真っ二つに両断した所を見ると、相当な威力があった様ですね。それを示す様に、他の子達も驚きの声を上げてました。



「おおー! 凄いね、君! 中々筋が良いと思うよ? みんなも彼の様に精一杯攻撃しても良いからね! この人形はさっきも言ったけどマジックアイテムだから、絶対に壊れないから安心してね! 壊れた様に見えても……ほら! ね? この通り、元に戻るから! あぁ、君は終わったから、園舎の方に行っても良いよ? 結果は既に分かってるからね! それじゃあ、次の子!」



 なるほど。カミーサさんが言う通り、人形はビデオの逆再生の様に元に戻りました。

 それはともかく、人形が壊れる壊れないは別にして、攻撃が当たればその時点で結果が分かるという代物でしたか。という事は、さっきの男の子はそのまま園舎に向かって行きましたが、園舎の入口で結果を知っている先生が待っていて、その指示に従えという事みたいですね。納得したです。……嘘です。

 ボクの魔力を測った測定器もそうですが、マジックアイテムは不思議で仕方ないです。あれだけでどうやって結果が分かるですか!? ……かつての世界のスマホみたいな物ですかね? 運動を管理したりするアプリがあったりもしましたし。……不思議です。


 ともあれ、試験は始まったばかりです。そして、この試験こそが冒険者になる為の第一歩です。ボクも頑張るとするです! 

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