第9話 ミサトちゃんは猫の獣人さんです♡

 

 九



 お風呂に入る為に部屋を出て浴場に向かおうとしたら、何故かミーナさんが待ち構えていたです。しかも、ハァハァと鼻息を荒くして。手に着替えなどを持っている所を見ると、ボクと同じくお風呂に行こうとしてるみたいですね。



「ゆ、ユーリちゃん! お、おふ、お風呂なら、わた、私も一緒に行ってあげるわよ? ば、場所が分からないでしょ? はぁ〜はぁ〜♡」


「……場所を教えてくれれば一人で行けるです」


「そ、そう言わずに……!」



 ……逃げても良いですかね? 後ろは行き止まりの為に逃げ場は無いですが。


 それはともかく、あまりにもしつこいので、ミーナさんと一緒に浴場へと行きました。

 浴場の場所は階段を地下まで降りて……地下まで降りてと言っても、地下は浴場だけのスペースでした。

 その浴場は男湯と女湯に分かれていて、ボク達は当然女湯の方に入りました。但し、やはりボクは躊躇って中々入れなかったです。

 だって、ボクの心は男ですよ? 家などのお風呂なら女の人と入っても構わないですが、公衆浴場や公衆トイレは抵抗があるです。かと言って、興味が無い訳じゃないです。むしろ、興味津々です!

 ともあれ、そんな心の葛藤をよそに、ボクはミーナさんに手を引かれるままに秘密の花園……女湯という桃源郷へと足を踏み入れたです!



「さ、入りましょ♪」


「い、いつの間に!?」



 脱衣所に入ったと思ったら、ボクは既に全裸にされてました……! 恐るべし、ミーナさん!

 いくら身に付けている物がローブと下着だけとは言え、それらをボクに気付かれる事なく脱がすとは。脱帽です。……いや、この場合は脱衣ですかね?

 なんて事に驚きながら浴室へと入ったら、先客が居ました。先客と言っても、孤児院である以上この孤児院で養われている孤児ですが。

 それはともかく、十人は入れる程の浴場の中にボクの先輩にあたる子が居たです。



「あら? ミーちゃんも入ってたのね♪ 紹介するわね? この子は今日から新しく入ったユーリちゃん。それで、この子はミサトちゃん。見て分かる通りミーちゃんは猫の獣人よ? 二人とも仲良くね♪」


「は、初めましてです! ボクはユーリです!」


「……初めましてニャ。ミサトって言うニャ」



 さっそくとばかりにミーナさんに紹介されたですが……良いです。堪らないです。猫耳です。……可愛いですぅ♡ 


 …………はっ!?


 な、何ですかね、今の気持ちは……! これが俗に言う”トリップ”というやつですかね?

 それはともかく、ミーナさんから紹介されたミサトちゃんは、猫耳です。……じゃなくて! いや、そうですけど!


 ……コホン。では、改めて。

 そのミサトちゃんは獣人です。裸を見てるから全身の特徴が一目で分かるですが、ボクのイメージしてた獣人とは違い、何だか某アニメの青いタヌキの様な感じです。毛の生え方を見た感じですが。

 ……ともあれ顔から説明しますが、顔は人間とほとんど変わらず、頭に猫耳がピコピコとあって、瞳は瞳孔が縦長の猫の目です。あ、瞳の色はグレーです。それと、鼻の脇におヒゲは生えてないみたいですね。ミサトちゃんが女性だからかもしれませんが。

 そして次に身体ですが、胸から下腹部にかけて毛は生えておらず、それ以外はモフモフです。あ、お尻も毛が生えてないですね! それでお尻の上辺りからは尻尾が生えてて、そしてユラユラと揺れているです。

 腕や背中、そして尻尾や足を覆う毛並みはいわゆる”茶トラ”と呼ばれるタイプのもので、野性味溢れるものを感じるですね。……毛の色が白っぽいから”白トラ”ですかね?


 そんな可愛い姿のミサトちゃんに見惚れてたボクですが、肝心な事を忘れてました。……ミーナさんの事です。

 ふと気付くと、耳元でハァハァと鼻息を荒くしていて、次の瞬間にはガバッと抱き着かれたです。



「はぅぅっ!?」


「も、もういいでしょ!? は、早くか、か、身体をき、綺麗に洗わないと……♡ はぁ……はぁ……あ、鼻血が……」


「……ミーナは、そればっかニャ。君、ユーリちゃんって言ったかニャ? ミーナはがあるから気を付けるニャ。それじゃ、お先ニャ」



 ボクの胸や股間に触りながら抱き着くミーナさんを冷たい視線で見詰めながら、ミサトちゃんはお風呂から去って行ったです。

 ……出来る事ならボクを助けてから出ていって欲しかったです。

 しかし、何とかしないと。このままではボクの貞操の危機です。こんな窮地を脱するにはどうすれば良いですかね……?

 などと考えている間に、ボクの全身は泡だらけになっていたです。……貞操の危機というのは考え過ぎでしたね。



「……どうしてソコだけ念入りに洗ってるです? ……んぅ……っ!」


「どうしてって、女の子はココからバイ菌が入ると大変なのよ? 当然じゃない! はぁ〜はぁ〜♡」



 ……言ってる事は分かったですが、どうして興奮してるですかね?

 それはともかく、あまりにも念入りに洗われた為、何だか変な感じがしてくるです。くすぐったい様な、気持ち良い様な……

 ともあれ、とりあえずは何事も無く体を洗い終わり、ボクは浴槽へと入りました。

 その後ミーナさんは自らの体を洗い始めましたが、やはりソコを念入りに洗っていたですね。……時おり色っぽい声を出してましたが。

 深く考えると負けの様な気になって来るので、とにかく今はお湯の気持ち良さを堪能するです!



「……くっつき過ぎです、ミーナさん」


「そ、そんな事は無いわよ!?」



 ……堪能出来ませんでした。


 そんなこんなでお風呂が終わり、夕食まで少し時間があるという事で……現在孤児院でお世話になっている子供達とボクとの顔合わせを行う事になりました。

 その場所は、孤児院の入口から入ってすぐ右側にある食堂です。広さは二十畳程ですかね。この後すぐに夕食となるので、当然そこが丁度良いとの事でした。

 集まってる子達はボクを含めて四人です。一人はさっきお風呂で会ったミサトちゃんですね。

 後の二人はどうやら男の子の様ですが、一人は随分とずんぐりむっくりな体型です。



「それじゃあ、みんな集まったわね。さっそく紹介するけど、私の隣に居る娘が今日から新しく入ったユーリちゃんよ。みんな、仲良くね?」


「ボクの名前はユーリと言うです。記憶が無くて何も分からないので、色々と教えてくれると嬉しいです!」



 そういう訳で始まった顔合わせですが、既にお風呂で会ったミサトちゃんはともかく、二人の男の子は何だかムスッとしてました。

 そんな二人の男の子をよそに、ミーナさんからみんなを紹介されたです。


 先ず初めは男の子からで、一人目の名前は『クリス』という名前でした。歳は十五歳で、切れ長の目に通った鼻筋の、いわゆるイケメンの部類に入る顔立ちをしてます。ボクが女の子だったら、先ずほっとかない顔をしてるですね。……今は女の子ですが。

 それはともかく、髪の色はブラウンで、瞳の色は綺麗な翠色をしてます。身長は165cmくらいですかね。整った体型をしてるです。


 二人目の男の子は『ノルド』という名前で、どうやらドワーフらしいです。ずんぐりむっくりの体型にも納得ですね!

 そんなドワーフなノルド君の年齢は二十五歳で、髪の色と瞳の色は共に赤茶色でした。

 ここで疑問に思うかもしれないですが、年齢が二十五歳なのに孤児院に入っているのは、ドワーフだからという事です。ドワーフはエルフなどと同じく人間よりも長命種な為、二十五歳でも人間にすると十四歳と同じくらいだと言っていたです。……ミーナさんが。

 まぁ、それは置いといて……身長は今のボクと同じくらいの145cmで、ずんぐりむっくりな体型は筋肉で覆われているです。あ、まだ子供な為か、ドワーフ特有の立派な髭は生えてないです。


 男の子二人の紹介が終わり、最後はお風呂でも会ったミサトちゃんです。そのミサトちゃんは猫の獣人ですが、年齢はボクの設定と同じ十三歳との事でした。

 ……体型とかも知りたいですって? ……はぁ。仕方ないですね。

 身長はボクよりも少し大きい150cmくらいで、年齢の割には胸も大きくてクビレもあり、いわゆるナイスバディというやつです。……正直、悔しいです。



「俺は認めないからな! ミーナさんは俺の物だ……!」


「初めまして。僕はノルドだよ。よろしくお願いします」


「あたしはミサトニャ。お風呂で会ったから特には無いニャ」



 ミサトちゃんの身体を若干の悔しさを込めて見詰めていたら、クリス君達が次々に声を掛けてくれました。そして、クリス君がムスッとしてた理由が分かったです。ミーナさんをボクに取られると思ったみたいですね。

 それとノルド君は、ドワーフなのでムスッとした様に見えたみたいです。


 ともあれ、それぞれの紹介が終わったので、夕食ですね。夕食は白パンにシチューでした。そのセットは、この世界では一般的な食事だそうです。……とは言っても、ボクは知らないのでミーナさんの受け売りですが。ともあれ、食べるとするです♪


 あ、そうそう! ダストさんについてもミーナさんから説明がありました。

 ダストさんは一代で莫大な富を築きあげた人らしいですが、悪い事をして稼いだ訳では無いみたいです。

 十代の頃より自分で薬草を採取、そして低価格で販売。例え嫌がらせを受けようと、それにも負けずにコツコツと人の信頼を得て次第に店は拡大。そして今の様に、トキオと言えばダスト商会とまで言われる程になったとの事でした。

 そんなダストさんに付いたアダ名は『仏のダスト』だそうです。……この世界での仏という意味がボクの知ってるものと同じならば、正に善意の塊の様な人ですね!



「ユーリちゃん? 食べないとクリスとノルドに食べられちゃうニャよ?」


「た、食べるです!」



 ……食事の時は集中するです。考え事をしてると、いつの間にか食べられてるなんて事もありそうです。


 そうこうしてる内に夕食は終わり、明日はさっそく冒険者学園に行って入学手続きという事で、寝坊しない為にも早めに就寝する事になりました。

 ちなみにミーナさんが言ってましたが、ダストさんが学園の方に既に入金は済ませたみたいです。さすがやり手の商人は行動が素早いですね!



「……ミーナさん? どうしてボクの部屋に一緒に入ろうとしてるですかね? まさか、一緒に寝ようとしてる……なんて事は無いですよね?」


「……な、何の事かしら? ヒュ〜ヒ〜プヒュ〜……」



 ダストさんに感謝しながら部屋に戻って来たですが、ミーナさんがボクの部屋に入ろうとしてます。しかもその事を聞くと、下手な口笛を吹いてまで誤魔化そうとしました。どうやら図星みたいですね。

 ですが、もしも一緒に寝てしまうとクリス君に怒られるだけじゃなく、今度こそ本当にボクの貞操の危機になりそうです。なので……きっちりお断りさせてもらうです。



「ミーナさん。ボクはおねしょをするかもしれないです。なので、一緒には寝れないです……!」


「…………ふぅ。理想的♪」


「ひぃぃぃぃっ!? お、おやすみです!」



 予想の斜め右上を突いてきたです! おねしょなんてしないですが、まさか断り文句を好意的に返されるとは思わなかったです……!

 恐ろしい思いをしながらですが、何とかミーナさんを部屋に入れる事無く、無事に部屋へと生還しました。


 さて、と。夕方も考えてましたが、寝る前に今までの事をもう一度整理しますかね。


 先ず、ボクはユーリです。妻の美代に、長女の小桜こはると長男の大和。これがボクの家族構成でした。

 そして世界の終焉と、幾つもの世界の融合。それがボクが目覚めた世界。これも何となくですが理解してます。

 魔物や魔法についても、謎は残ってますが理解してるつもりです。

 だけど、一番分からないのは自称神様のシヴァの事と、そのシヴァがボクと一つになる前……なった後ですかね? ……に言った「美代達はこの世界に居る」という事です。

 世界の融合から暦が始まったとすれば、あの出来事から既に2000年以上経っているのに、美代達が生きてるという事は信じられないです。……もしかしたらシヴァがそう言ったのは、ボクに対する気休めだったかもしれないですね。

 ですが、本当にこの世界に美代達が居るのならば、絶対に探し出してみせるです。そしてそれには、ボクが冒険者になる事が必要不可欠です。


 後、考えるのは……クリス君など孤児院の先輩達の事ですね。ボクは仲良く出来るですかね?

 ノルド君やミサトちゃんは普通に仲良くなれそうですが、クリス君はミーナさん絡みなだけに少し面倒臭そうな予感がするです。それでも、一緒に孤児院で生活する訳だから仲良くしないと互いに辛いと思うので、何とか誤解を解くしかないですね。


 ……とまぁ、こんな所ですかね?

 それでは明日に備えて寝るとするです。楽しみですね、明日が♪ おやすみです!

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