番外編③-2 自慢の仲間

 外はどんよりとした雲に覆われた世界が広がる。今日会ったばかりのはずの新入生。その一人の言葉に、私は虚をつかれてしまった。

「あの、先輩、『君津幹彦』先輩に何か思い入れでもあるんですか? ずっと見てらっしゃいますけど……。」

「いや、そんなこと無いよ。ただぼーっとしてただけ。」

私は慌ててごまかしたが、彼女にその手は通じなかった。私を糾弾でもするかのように言葉の刃が飛んでくる。

「でも、やっぱり気になります。演劇部に関わってれば今日紹介があったと思いますし、それがなくてここに名前が貼ってあるってことは元部員かなと。」

「うん………そうだよ。」

もうこの後輩には言い逃れは通用しないのだろう。いつか言うはずのことなのだから、今にでも言ってしまおう。覚悟を決めて少し下を向く私。

「あ……先輩、かなり傷つけてしまったかもしれませんね。ごめんなさい。」

私のうつむきをそうとったのか、彼女は謝ってきた。大したことでも無いので笑って流すことにする。

「いやいや、大丈夫だよ。それにどのみちあとから話そうとしてたことだし。菜々子の言うとおり、あの名前は去年までうちにいた私の同期の名前だよ。すごく大事な人なんだ……。」

思いが溢れていく。いつしか私の記憶は過去へと、去年の今頃へと飛んでいく。

 「これからよろしくお願いします!! 」

やる気満々だった国之を筆頭に、私達四人は初日から洋々と部室へ突入していった。なぜだか不安なんて欠片もなかったのを覚えている。

「かっこいい……やっぱり先輩達かっこいい!! 」

子犬のように国之が先輩達に突撃する中、そんな時に私は幹彦に話しかけられたのだった。みんなの、四人の中も速攻で深まっていった。もしかしたら初めから波が合うような運命だったのかもしれない。四人だけの思い出で一番のハイライトは、やっぱり夏季講習が終わったあの日だろう。

「あのさ一美、今日の帰り、部活も無いしみんなでプリクラ撮りにいかない? 」

蝉の遠鳴きの中で幹彦に言われた言葉は鮮明に心に残っている。そういえばあれ以降、彼に何かを誘われたことは皆無だ。また少し痛みを感じながらも、回想はとどまるところを知らない。結局、四人で北去山駅の駅ビルに行った。なぜだか少し渋る国之を尻目に四人で撮り、その写真は今でも私の学生手帳に入っている……。あのときの思い出の証拠として。

 「そんなことがあったんですね……。」

やっと現実に引き戻された私に、驚いた様子で菜々子が呻く。しかし、彼女はすぐに笑顔を見せてこう言った。

「それじゃあ、またこういう思い出を一緒に作っていきましょうね、先輩! これから色々あるでしょうし……。」

 曇天はいつの間にか晴れ渡っていた。本当にいい後輩と出会えたようだ。こんなこと言われたことなかった私はかなり面食らった。しかし、それと同時に演劇部が紡いだまた一つの出会いに、私はただただ感謝するしかなかった。

「ありがとう。」

同輩にも後輩にもこれから幾度となく使うだろう言葉が、私の口から思わず漏れた。顔を上げると、私の自慢の後輩は大人びた顔で笑っていた。

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