第47話 思わぬ誤算

 学校へ登校して、課題のプリントを受け取った後、ルンルン気分で下校しようとしていた。


「青谷くん!」


 振り返ると、彼女がいる。

 天使のような笑顔を振りまいて、俺の彼女、綾瀬望結は俺の前に現れた。


「おう、望結!」

「どうしたの青谷くん? なんだか機嫌がいいみたいだけど?」

「ふっふっふ……聞いて驚け望結!」


 俺はニヤニヤが止まらないまま、少しもったいぶるようにして言った。


「来週、カップ戦にメンバーとして同行することが決まったんだ!」

「……えっ!? それって、青谷くんがプロの試合に出るってこと?」

「まあ、出るかは分からないけど、ベンチ入りすることは決まった」


 望結は俺の手をガシっと掴んできた。そして、目を輝かせて嬉しそうに言った。


「おめでとう! 本当におめでとう!!」


 望結は自分の事のように喜んでくれている。心なしか、涙を浮かべているようにも思える。


「それじゃあ、試合見に行かないとね!」

「えっ……見に来てくれるのか?」

「当たり前じゃない! 青谷君のデビュー戦を見に行かないわけがないじゃん!」

「でも、多分ベンチ入りするだけで、実際に試合に出るかどうかも……」

「出るよ!」


 すると、望結が当たり前のように言ってのける。


「青谷君は試合に出る。あれだけ努力して頑張ってたんだから、絶対にチャンスは回ってくるよ」


 望結にそう言われると、本当に出番がありそうな気がしてくるのでこっちまで乗せられる。


「よぉっし! 望結にカッコいい姿見せるためにも、頑張るぞ!」

「おー!」


 こうして、二人して仲良く放課後の西日が降り注ぐ廊下で、プロの試合出場へ向けて、二人して気合を入れ直すのであった。



 ◇



 週末前の金曜日、望結は一緒に見に行く仲間を集め、広瀬さん、藤堂さんを連れてスタジアムに足を運ぶそうだ。ってか、いつの間にか藤堂さんとも仲直りしたんですね。


 翌日からも練習でサブ組ではあるが試合形式の練習に参加させてもらった。

 今日は、稲穂も同じくピッチの上で練習に参加させてもらえていた。


 ここのところ、チームは中2日や中3日の過密日程により、疲労が蓄積して怪我をする選手が続出しているそうだ。


 よって、俺や稲穂のようなユースからの練習性をサブチームに入れてまで練習せざる負えない状況になっていた。


 今日は雨の中での練習。ピッチがぬかるんで、足が引っ掛かる。

 そんな劣悪な環境でも、選手たちは練習を疎かにしたりは全くしない。


 泥を被ろうが、靴が脱げようが関係なしにスライディングやタックルを惜しみなくしている。

 俺達もまた、それに負けないように体をぶつけたり、スライディングで守備に貢献したりと懸命に食らいついた。


 そして、練習が終わるころには全員が疲れ果てた様子で項垂れていた。


「OK」


 ようやく監督が笛を鳴らして、今日の練習が終了した。


 明日はプロチームのリーグ戦があるが、俺は普通に学校の授業に参加しなければならない。


 練習を終えて、クラブハウスのシャワールームでシャワーを浴び終えて、学校へと向かおうとした時だった。


「天馬、ちょっと待っててもらえるか?」

「はい……」


 突然コーチ陣に廊下で呼び止められた。

 なんだろう? 何か渡すものでもあるのかな?

 そんなことを思っていると、監督がトレーニングルームから現れて出てきた。

 そして、俺の前で立ち止まると、神妙な面持ちで口を開いた。

 監督は英語で何か言っていたが、tomorrowという言葉以外は聞き取れなかった。

 通訳さんに顔を向けると、通訳さんが淡々と話してくれる。


「けが人が続出して、明日の試合。悪いんだが急遽ベンチ入りしてもらう」

「……へっ?」


 思わぬ誤算だった。

 なんと、明日の試合でベンチ入りを突然宣告されたのだ。しかも、カップ戦ではなくてリーグ戦で……


「は、はい……」

「よしっ、それじゃあ学校に連絡してから、明日の試合について作戦会議をするから来てくれ」

「わかりました……」


 そう言ってコーチ陣は会議室の方へと去っていってしまった。

 明日……試合……ベンチ入り!?


 状況を理解した俺は、顔面蒼白になっていた。

 ちょっと待って、嬉しいけど、嬉しいんだけど来週だと思ってたから心の準備が出来てないよぉ!


 ってか、明日のリーグ戦ってことは……

 望結たち試合来れなくね?

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利き手恋愛~左利き至上主義~ さばりん @c_sabarin

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