第24話 紛失!?

 朝、岩城さんのお勉強会が終わり、学校へ行く準備を進める。


 今日は放課後に望結に自分のすべてを打ち明ける。

 結果はどうなるか分からない。幻滅されて二度と口を利かなくなってしまうかもしれない。彼女をさらに傷つけることになってしまうかもしれない。そうだとしても、俺には彼女に真実を伝えなくてはならない。


 大切な人だから…もう二度と普通の恋愛が出来ないのではないかと思っていた俺に、希望の光を与えてくれた恩人だから。

 だからこそ、彼女には俺のすべてを話したい。そう結論を自分の中で出すことが出来たのだ。


 俺は制服ブレザーの胸ポケットに入れてある例のカードが入っているのを確認して・・・っと、あれ?入っていない。


 俺が何者であるのかを証明する大切なカード。胸ポケットに昨日入れておいたはずなのに、胸ポケットを探っても、カードらしき感触は見当たらない。


「あれっ!?」


 バックに戻したっけな?バックのサイドポケットや、ズボンのポケット、再度ブレザーのポケットを探すが、そのカードをどこにも見当たらない。

 まさかの非常事態に慌てふためいていると、トントンと部屋の扉がノックされる。

 俺が生返事を返すと、ガチャリとドアが開かれて、岩城さんが部屋に入ってきた。


「そろそろ学校へ行く時間ですよ」


 まだ、家でバタバタしている俺を心配して様子を見に来てくれたようだった。


「岩城さん!あれがないんです!」

「どうしました?」


 慌てる俺をよそ目に、岩城さんは落ち着いた丁寧な声で聞き返してくる。


「入ってないんです!スペシャルヒューマン証明書が!昨日、ブレザーの胸ポケットに入れておいたんですけど、そのあとどこかにやってしまって…」

「はぁ…青谷くん。あれほど、『大切なカードだから、存外に扱わないでくださいね』って言いましたわよね私。なんで、胸ポケットなどに入れておくのですか…」


 どうやら岩城さんは、怒りを通り越して呆れかえっており、怒る気にもなれないらしい。


「昨日はちょっとたまたま使う予定があったので…」


 と、ここで何故昨日胸ポケットにスペシャルヒューマン証明書を入れたのか思い出す。もとはと言えば、望結に自分がスペシャルヒューマンであることを証明しようとして準備して胸ポケットに入れたのだ。


 だけど、その場の成り行きで結局藤堂さんを追いかけて・・・そのあと・・・


 俺は、はっ!っと思い出した。そういえば、あの時藤堂さんに「あんたは一体なんなの?」と言われて、胸ポケットからカードを出そうとして・・・


 俺は冷や汗を掻きながら、昨日のことを思い出した。


「もしかして・・・あの時謝って落っことして・・・」


 こうなってしまえば、今すぐにでも学校に急がねばという気持ちに駆られた。

 俺は、すぐさま鞄の中に荷物を詰め込んで、無造作に鞄を背負って、駆け足で岩城さんの元をすり抜けていく。


「行ってきます!」

「こらっ!ちゃんと何があったのか説明しなさい!」

「帰ってきたら詳しく説明します!」


 そう岩城さんに言い残して、ローファーの踵をつま先でトントンと押し込みながら家を飛び出した。



 ◇



 教室へ到着して、俺は鞄を机に放り投げて、昨日藤堂さんを追いかけていった北棟の屋上へと続く階段の踊り場へと駆け足で向かう。


 荷物を机に置いた際、隣の席の様子をチラっと窺ったが、望結はまだ登校してきていないようで、机と椅子だけがポツンと佇んでいるだけであった。


 俺はそれを確認してから、駆け足で教室を飛び出した。



 階段の踊り場に到着して、改めて辺りを這いつくばるようにしながらスペシャルヒューマン証明書がないか探したものの、やはりどこにも見つからなかった。


 もしかしたら、用務員さんか誰かが掃除中に見つけて、落とし物として届いているのかな?それなら、それで先生方に見つかるだけなのであまり問題はないのだが、一番の厄介なのは、昨日この場で揉めていた藤堂さんに拾われていることである。

 彼女に拾われてしまったら、確実にそれを餌に色々と問い詰められるに決まっている。

 だが、こういう時に限って悪い予感というのは当たってしまうものなのだ。


「君が探しているのは、もしかしてこれかなぁ~」


 バっと振り返ると、階段の下からぷらぷらと俺が探し求めているカードをかざして見せながら、満面の笑みで勝ち誇っている藤堂麗華の姿がそこにあったのであった。

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