第32話「魔物を倒せ」
「ガルシア様は、どちらの国に居られたのですか?」
「覚えてない」
「では、王に仕えていた頃は何を?」
「知らない」
「……話にならんな」
あまりにも発展しない問答に、グレイス王はため息をつく。場の雰囲気はまるで良くない。
やっぱり、シルヴィ以外の人間はろくなやつが居ない。朝食すらまともに摂れないなんて、そっちの方が話にならないだろう。
俺は食べるタイミングを完全に見失い、朝食に手を付けない調査団員たちを睨みつける。
「ねえ。朝ごはん冷めるから食べたいんだけど」
「し、しかし」
「しかしじゃない。俺お腹空いた」
俺に怯えながら、目線は合わせずに反論しようとする女。ああ、面倒臭い。
グレイス王もグレイス王だ。自分はのうのうと食べているから何も思うところは無いかもしれないが、あくまでこれは顔合わせなんじゃないのか。このポンコツ。
「ガルシア。この者たちは今後もお前と関わることになる。顔だけでも知っておけ」
「最悪。大体、勝手に呼びつけておいて俺とシルヴィを城に留めてるのはお前だろ。天災について話せば終わりじゃないの」
何故シルヴィは社交界のマナーを覚えなければいけないのか。俺が一緒に居たいと願ったからだとはわかってる。だけど、グレイス王を睨めずには居られない。
彼は全く動じる素振りを見せず、鼻で笑った。表情筋死んでるのだろうか、鼻だけ活発なんじゃないのコイツ。嫌味ばかり口をついて出そうになるが、言ったところで奴の機嫌がななめになるだけだ。良いことなんてありはしない。
グレイス王はいつの間にか完食していたらしい。両手の指を絡めて肘を机に乗せ、顔を寄せる。ふむ、と間を開けてから、俺に言い放つ。
「お前を部下におく」
「嫌だ」
「拒否権は無い。それに、魔物が出てきた封印にはお前も関わっているのだろう。男として責任を果たせ」
大きく舌打ちをすると、調査隊員たちは一斉に肩を震わせた。一々苛立たしい。早くシルヴィに会いたい。
『シルヴィは、ものじゃねーよ』
『シルヴィ様はものじゃないんですよー、ガルシア様』
「……」
俺にはシルヴィが必要だ。これは『もの』扱いに入るだろうか。離れたくないと思うことは、駄目なんだろうか。
熱の逃げたプレッツェルを千切り、口の中に放る。断じて不味くはないけど、シルヴィの家で食べた彼女の手料理の方が好きだった。
「……俺は何をすればいい」
「魔物を倒せ。優先すべきことはそれだ」
優先すべきこと、という口ぶりからして、この王は他にも何やら企んでいるらしい。こき使われるのは目に見えている。
俺は冷水で喉を潤すと、そっと頷いた。
「わかった」
ずっとシルヴィに頼るばかりの生活なんて恰好がつかない。シルヴィにも、コイツにも。
目にもの見せてやる。あとシルヴィを惚れ直させる。
「……よし」
魔物は全部、俺が片付けてみせる。
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