第18話「野生のトランポリン」

今思えば、なんというか____馬鹿だった。

魔物を倒したエスが帰ってくると、奴は異様なくらいテンションが上がっていた。

出発する準備を終えた俺の手を引いて、まっすぐ森を駆け抜ける。俺はてっきり宝の類でもあるのかと思っていたが違った。

森の木々を凌駕するほどの、大きな丸い物体。そよ風にぽよぽよと揺れるそれは、確かに跳ねたら楽しいのかもしれない。

エスはいきなり俺を上空へぶん投げた。そのまま俺はバルーン状のものの上へべシャリと落ちる。続いてエス自身も隣に着地した。結構な高さなのに身軽なもんだ。


「これトランポリンだよねー! 野生のトランポリンかな」

「野生のトランポリンてなんだ」


ぽよんぽよんと跳ねて遊ぶエス。俺は早くシルヴィたちを追いたかったが、確かにこの物体は謎だと思った。触れてみると生温かい。

これじゃあまるで生きも____


「ナハト跳ぶよ」

「あ!?」


エスに首根っこを引っ掴まれ上空へ投げ出される。デジャヴと思いつつ、俺は完全にされるがままだった。


エスは俺を離すと、腰に帯びていた剣を抜く。そのまま空中で一回転し、落ちる勢いのまま剣を野生のトランポリン(仮)に突き刺した。


「ぐあおぉぉぉぉおおお!!!」

「これっ、魔物だったのか!」

「なんだー、魔物じゃなかったらもっと……アッ」


血が震えるほどの断末魔を最期に事切れた魔物。これで一件落着かと思いきや、剣で切り裂かれた箇所から膨大な量の空気が放出される。中身スカスカじゃねえか、まじでトランポリン以外の用途を果たさねえだろこんなの!


「嘘だろ!?」

「あちゃー、ばーいばーいきー」

「ふざけてる場合かー!!」


俺とエスはそのまま、馬車の方向へ一気に吹き飛ばされた。ふがいねえ……。


俺が話し終えたところで、シルヴィの小さな声が静寂を終わらせた。


「私も跳ねたかった……」

「可愛い〜」

「結婚したいするしてみせる」

「お前らな……」


俺はやっと気づいた。ここでマトモなのは俺だけだ……。はあ、と大きなため息を一つ。

特にシルヴィなんだが、あいつは昔から本当に危機感というものを知らない。一向に覚えようともしない。

「そういえば魔物って」と今更ながらに震え始めたシルヴィに、エスが至って明るく説明し始める。ガルシアはシルヴィだけを見つめている。


(渡さねえ)


落ち着かない自分の鼓動を感じつつ、俺は静かに拳を握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る