第八章 魔人同士の対決・その4

「ちょっと質問があって、ここにきた。貴様、ザクロを見てないか?」


 心配そうな表情で訊いてくる。ギリギリのタイミングであった。スマホで魔人と話してるときにアズサが来たら大騒ぎになっていたところである。


「いや、今日はまだ見てないな」


 と、これはヒロキくん、嘘を吐いてない。


「なんかあったのか?」


 と、これはヒロキくん、かなりすっとボケて質問したものである。


「いや、昨日の夜、わかれてから、どこにもいないものでな。昼間中、あちこち捜しまわったんだが、どうしても見つからないから、ひょっとしたら、貴様のところかと思って、仕方なく質問しにきた」


「そういうことなら、なんでもっと早く来なかったんだよ?」


「貴様に頭をさげて質問などしたくなかったからな」


 なんとなく、苦手意識が働いたみたいな顔でアズサが言う。オッパイ鷲づかみ事件が、やはりトラウマになってるのか、ヒロキくんには目上の立場でいたいらしい。察したらしく、ヒロキくんも頭をかいた。


「じゃ、姫のところには?」


「行ってみたが、ボタンがいるだけだった」


「へェ。ま、ザクロちゃんも背伸びしたい年頃だからな。アズサさんの見てないところで、なんか、手柄を立てたいと思ったんじゃないか?」


 これはこれで、ある意味正しいことを言いながらアズサをケムに巻くヒロキくんであった。


「――そうか。言われてみると、ザクロも、そういう年頃かもな」


 納得のしかけたアズサを前に、ユウキちゃんが口を開いた。


「あの、ヒロキくん? こっちの人は? 昨日も一緒みたいだったけど」


「アズサさんて死神だよ」


「死神さん、か。そういえば、それっぽいコスプレしてるわね。――あの、アズサさん? ここは高校だから、部外者が、勝手に立ち入ったら、いけないってことになってるんですけど?」


「ふむ、そうだったな。それは失礼した。慌てていたので、姿を消すのを忘れていてな。もう消えるから安心してくれ」


 一方的に宣言して、アズサが手を振った。瞬間にその姿が消える。キョトンとなるユウキちゃん。


「え?」


「じゃ、俺は行ってくるから」


「え? え? ちょっと待ってヒロキくん、いま、アズサさんて女の人、なんだか、いきなり消えちゃって。ひょっとしてイリュージョン?」


「瞬間移動らしいぜ。古武道の滑り足とか縮地法とは違って、ガチのテレポーテーションじゃないかって俺は思う。ちゃんと確認はしてないけど、電話相手の不死の魔人も超能力って言ってたし。ま、気にしないでやってくれ」


 武道家には虚偽の返答をしないという特性があるらしい。そのままヒロキくんが背をむけて階段を駆け降りて行った。あとに残るはユウキちゃん。


「――まさか、死神がどうとかって話、本当ってことはないよね?」


 さすがに冗談として聞き流せなくなってきたユウキちゃんであった。

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