上級クエスト


「通常校外クエストは上級生しか参加資格がありません」


 常識を今一度ミロードに再認識させる形でセレストが口を酸っぱくした。


「今回は指名で、ミロード君指定のクエストが来たので特例です。ミロード君に忠誠済みの僕も参加資格があります」

「セレスト。それは僕を止めたくて言ってるのか?」


 ライブラが予言するとおり、クエストは危険を孕む。


「僕に君を止める資格はない。でも君が行くなら僕も行く。だからクエストの詳細もきかせて欲しいよ」

「はいはぁーい。俺ももちろん行くけどまだ詳細聞いてねぇし」


 レオが『頼みの綱』感を出すべく前のめりに来た。ライブラだけがオロオロと困ったちゃん顔でうろたえている。


「ふむ」


 ミロードは少しだけ考えてから「いいだろう」と呟いた。




「──依頼主はラルリルカ」

「は。公爵令嬢じゃないか。なんでそんな大物がミロード君をご指名なんだい」


 セレストの即ツッコミがダントツの速さだった。


「件の騎士学カレンダーをみたらしい」

「早。アイドル総選挙みたいになってきたな……幼姫の異名をもつラルリルカ様には姉姫のマリーセイラ様がいて、御二方はアトラ法皇に嫁ぐ特別な公女で有名だよ。昔一度お会いしたことがあるけど、マリーセイラ様は僕らと同世代、ラルリルカ様は多分五つくらい歳下じゃないかな」


 持ち前の知識をツラツラと語るセレストに対し、レオは「昔一度お会いしたってどゆこと」と真顔でドン引きしていたし、ライブラは「アトラ法皇なんて実在するのかな」と表情を曇らせていた。


 実際のところ法皇の個人情報は公に発表されていないので、どこの誰が法皇で、どのくらいの年齢の人物かなど知る由もない。それどころか『複数名が担っている』だとか『今はいない』だとか憶測はとどまることを知らない。


「まだこどもと呼んでもさしつかえないくらいのお年頃の公女様だ、ただの気まぐれやミーハー心でクエストを発注する可能性だってゼロではない。けれど、アトラ法皇に嫁ぐという立場上、何かと危険も多いはず」

「セレストの見立てはあながち間違いではない。今回ラルリルカは誰かに命を狙われている。五日後の誕生祝いが特に危ないので護衛しろというクエストだ」

「ザックリした内容だけど犯人の目星はぁ?」

「わかっていたらこんな護衛任務は不要ですよ。ていうか本業の騎士団を動かすべき案件ですよね、なんで見習い学生のそれも新入生に白羽の矢を当ててきたんだ」


 もちろん騎士団も動くのだろうが。一番傍に歳の近い者を配置して弾除けくらいにはなるという算段かもしれない。


「まあ僕が弾除けとしては最強に優秀だと見込んでのことかもしれないが、」

「冗談でもやめてください」


 ちょっとしたお茶目発言にセレストがキレた。


「冗談抜きで言っても今回の人選は適任だと自負している。会ったらラルリルカを褒めてやらないと」

「まあミロードちゃんにはこの俺が付いてるしぃ?」


「……マジカコノヒトタチゼッタイアタマヤバイ」

「ライブラ先輩、暗い顔で絶望してないで意見はハッキリ言ってください。本当にミロード君を止めたいのであれば完璧に演じて嘘をつくくらいの覚悟は必要です」

「ほう? 僕を丸め込むとは相当上手くやらないと」

「ウケる。ララちゃんには絶対無理ぃ」


 ケラケラと笑うレオの横でライブラは心臓と胃をおさえて小さく呻いている。だが尚も呪詛のような呟きをやめない。「ミロードヲウシナウトイウコトハアトラヲウシナウトイウコト、マドウモボクラノミライモナニモカモ、シヌシヌシヌダレカシヌコワイ、ボクガミロードガイライニンガダレガ、ワカラナイコワイ」セレストにもその早口な内容はよく聞き取れなかった。


「僕の。世界一優秀な占星術師」「ふひッty」


 まとわりつくようなミロードの呼びかけに、ライブラの肩が跳ね上がった。


「恐怖があるうちは真実は隠される。知ってるだろ。他の誰もアトラの滅亡を予言できない。君は本当は誰より勇気ある占星術師だ。ならば死を恐れるな。『占いこそがお前の武器』だ」


「とはいえ僕もライブラをこんな早々にロストするのは恐いので、今回君は居残りだ。セレストはききわけないので仕方なく連れていく」

「よし!」

「俺はミロードちゃんの頼みの? 綱だからぁ? スタメン枠のエース的なぁ」


「心配しなくてもいい。僕はそんな簡単に死ぬようなたまではない」


 茫然としたままのライブラを撫でで、ミロードは優しくあやした。ガヤは無視した。


「留守の間、せいぜい明日の天気でも占って精度をあげるといい」

 天気予報は統計だ。ライブラの占いの方が信用できるとミロードは云う。天気なら恐れることなく静かに占える。毎日毎日。恐怖を拭えるまで。


 本当ならば死地に赴くミロードに同行して、占いを以てして窮地を救いたい。


 勇気があるならばそうすべきだと知っている。けれど死がチラついた先の占いが見えなくなってしまった今回の件ではもう足でまといでしかないのも事実で。それらを一切責めることなく、ここで待っていろとミロードは云う。





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僕の騎士団 叶 遥斗 @kanaeharuto

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