機動少年カシュフォーン

なみかわ

序章:大広間の会話

大広間の会話

 戦争が終わり、新しい時代が来ようとしていた。人々が明日への成長を続けるなか、外界と交流を断ち切って、ある研究に没頭する科学者がいた。

 その科学者の名は、カシュフォーンという。


 彼は少年の頃、病気で視力が著しく低下した。だから兵役も免れて、友達たちが戦場へ出ていく姿を、分厚い眼鏡の奧からいつも見ていた。

 毎日彼は、図書館にこもりきって勉強を重ねた。そして、いくつもの大学を上位の成績で卒業した。ある日ふとうかんだ、でも壮大な夢を叶えようと思って。


 誰もいない大広間に、一筋の光がさしこんだ。


 ”カツコツ、カツコツ……”


 足音が響きわたる。彼の助手の『リウカ』だ。両手で大きな箱を抱えている。時々、箱の中と、リウカの顔面あたりから、時計のネジを巻くような音が聞こえる。その後ろを、ゆっくり、杖をついた老いた男-カシュフォーンがついて来ている。


 リウカは、大広間の中央に箱を丁寧に置き、上ぶたを開いた。


「ご覧下さい。あなたの、全て……『機動人間』です……」


「……」


 しばらく時をおいてから、リウカは箱の中から一本のエナメルのような色のコードを引き出して、自分の手の甲に刺した。

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