14.これ以上にない解答者

「・・・!」



 俺の上空に視点の切り替わった左・・・カメラのモニタのブラックアウトが解けると同時だった。屋敷の一部を中心に、広範囲に魔力が広がった。



(・・・観察し続けることでスキルがまた上がるかもしれん。接近体をそれと識別できるほどにはしないよう気を使いつつ・・・カメラ倍率を拡大!!)



1,2・・・3枚。接近体よりはるかに速い展開。防御壁だな・・・だが、用途は明らかに時間稼ぎだ。阻止は不可能。



《条件が満たされました。【対比】スキルのレベルが2に上がりました》


(お? 自分以外の対象の対比が出来たからかな?)



 左のモニタで接近体を捉えるとまたブラックアウトしかねん。右の簡易モニタでは【魔力感知】だけできるようだが、それも窓からの視界に限られるようだ。3枚の魔力が接近体に激突する瞬間、どうせなので窓の向こうに直接視線を向ける。


 全方位に広がる防御壁が、激突寸前に接近体に向かって圧縮し・・・包み込んだ!!


 空中に固定された1枚目が接近体を包み込むと、2枚目、3枚目とそれに続く。激突・・・と言ったが、軟着弾、いや「粘」着弾といったところか。固い物をぶつけても破壊されると判断したのだろう。粘性を以て接近体の衝撃を吸収し、中空に固定を試みているようだ。固定された位置から離れんとする接近体を留めようと、全体のバネを使って引っ張り上げる。柔らかいがあまり伸びない。


 ・・・汚い話だが、味がなくなっても2時間ほど噛み続けた口いっぱいのガムのような固さ、というのが一番近い。我ながらなんちゅうたとえだ。



《条件が満たされました。【魔力感知】スキルのレベルが2に上がりました》


《条件が満たされました。アクティブスキル【魔力鑑定】スキルを習得しました》



 魔力にこんな使い方があるとはな。おかげで感知しているだけでスキルレベルも順調に上がる上がる。【魔力鑑定】というのは、魔力の質・・・今回で言えば「ガムみたいなもの」というように鑑定したことで上がったのか?


 ただ、やはりどちらも、対象との間に不可視の遮蔽物があると発動しないようだ。間違い易いが、視認する必要はない。窓から広がる彼方で確かに進行している様を、今俺は目ではなく、魔力の感知によって把握しているのだ。


 それはともかくとして、この防御システムへの「阻止は不可能」という俺の評価は、あくまで「接近体に接するまで全方位へ広がること」を想定したものだ。接近体1つに全ての魔力が集中する・・・この状態になれば話が違ってくる。



《条件が満たされました。【対比】スキルのレベルが3に上がりました》



 ん? 僅かだが・・・接近体の魔力が漏れ出ている?



《条件が満たされました。【魔力感知】スキルのレベルが3に上がりました》


(僅かな魔力の流れを感知したせいかな?・・・練度もだが、細かい気付き・・・コツでも上がるな)



 魔力の漏れはそのまま防御壁改め防御ガムに滲み込む。ドレイン的な魔法なりが付与されているわけだな。だが微々たるものだ。ガムが弱いのか接近体の抵抗値が強いのか・・・たぶん、ガムが強くて接近体がそれよりはるかに強い。が正解かな。



《条件が満たされました。【対比】スキルのレベルが4に上がりました》



 そういえば、【魔力鑑定】はアクティブスキルだったな。ということは、意識的に使っていかないとレベルが上がらなそうだ。



「・・・スキル実行! 【魔力鑑定】!」


《対象にスキルを使用できません。【魔力鑑定】は失敗しました。カウンター魔法【グラルベンの鶏冠の呪い】を受けました》


「あんだって?!」


《特別保護【絶対防壁】スキルにより【グラルベンの鶏冠の呪い】を無効化しました》


「おおお! なんか知らんが助かった! そんなもんが付与されてたのか!」


《特別保護【絶対防壁】スキルの使用上限に達しました。特別保護【絶対防壁】スキルによる保護は終了しました》


「えええ?!」


《条件が満たされました。【魔力鑑定】スキルのレベルが2に上がりました》


(やはり戦力差が影響したってところか? ・・・だが失敗してもスキルレベルが上がるんだな。しかし・・・そんなチートスキルが付与されていたとは・・・くそっ! 知っていればもっと慎重にやってたのにぃ)


《情報開示。この情報の開示にコストの消費はありません。スキルの使用は、該当スキルの使用をイメージするだけでも発動します》


「う、そうか」


『うわぁー。スキル名叫ぶとかカッコ良スぎでスねぇ。ご主人』


「やかましい!!」



 ガムの座標固定が離れたっ! だが一瞬だけ速くなった接近体のスピードがまたすぐに落ちた。これは・・・防御ガムが、引っ張られながらも座標固定を発動している? それは一瞬で解かれるが、次の瞬間には再度発動するという形で、接近体の動きをなんとか遅らせている。


 あくまでこのペースが続くならという前提だが・・・20分くらいは余裕でもつだろう。



《な?!》


(イッシー? マイク切れてなかったか)



 あ、もう1枚魔力が放たれた・・・が、弱い。先ほどの3枚の半分程度の強さしか感じない。あ、小さくなった・・・これは圧縮か。小さい・・・が、とんでもない高圧縮。そしてすさまじいスピード。まるでミサイルのような・・・?! これは狙撃だ!! 魔力の狙撃! いやでもこれ悪手だろ・・・せっかく覆っているガムの膜が損傷するだけじゃないのか?



《くっそ! やられた!! ったく!! 忙しすぎるっつーの!! ・・・あんたはさっさと作業進めなさいよ!!》



 凄まじいスピードでかっ飛ぶ魔力が接近体に衝突する・・・が、突き抜けた!! と同時に、接近体がガムの枷から解放されたかのように一気にスピードを増した。



《条件が満たされました。【魔力感知】スキルのレベルが4に上がりました》



 衝突地点ではガムの魔力がほとんど残っているが、通過した魔力ミサイルも爆発した様子はなく・・・依然強い魔力を維持したまま、俺の【魔力感知】の範囲外まで一瞬でぶっ飛んでいった。・・・細かい魔力の残骸が、尾を引くように舞っているのがわかる。


 直撃しなかった・・・が、おそらくこれは、纏っていた防御ガムで、ミサイルをギリギリで受けたんだ。ミサイルで防御ガムの外側を削り取り、脱出を容易にした・・・ということだろう。まぁ、大方予想通りの展開だ。・・・しかしなぜイッシーはミサイルを撃った? この事態を想像できなかったのか?


 接近体のスピードが増した。明らかに目的地はここだ。まっすぐこちらに突っ込んでくる!! 激突する・・・!というより、衝撃波でその前に屋敷ごと吹き飛ばされるんじゃないのか?!


 中学時代に授業で習った、柔道の自護体。それに腕をクロスさせ前かがみに身を縮める。俺の拙い格闘知識において、衝撃に耐えるに一番頼れる構えだ。・・・俺だっていちおう魔王としての能力に目覚めつつあるのだ。直接相手にしたら到底勝てなくとも、衝撃波に吹っ飛ばされる程度なら耐えられるはずだ。・・・来る!!


 ・・・・・・って来なーい。



「よっ」



 背後から声が掛かる。


 振り返ると、目の前に佇む男が、俺を見て片眉を上げた。


 誰だ? とか、いつの間に入ってきた? などと野暮なことは言わない。こんなバケモンがそう何匹もいてたまるか。先ほどまでの接近体に決まってるじゃないか。


 管理者であるイッシーが制御しきれない相手なんだぞ。ここまでの超スピードによる慣性の法則も、周囲への多大なる影響も発生させることなく、出入り口のないこの部屋にいてもなんら不思議じゃあない。


 ところどころシャドウの入った銀髪に、額から生える子供の腕ほどもある深い黒の角。背中からは立派な羽毛を湛えた艶やかな黒翼。黒地に金色の目。身にまとうノースリープの黒い軍服っぽいコートは、胸とみぞおち部分しか閉じられておらず、いずれも黒いインナーと何らかの革製のパンツが見え隠れしている。少し青味の掛かったくすんだ白い肌は、顔と、脇からリストガードまでの上腕しか露出していない。


 ・・・うん、服装はともかくとして、とりあえず人間じゃない。



 だがわかる。



 こいつ俺だわ。

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