13.変質を促された入り口

 誰もいない。・・・背中全体になにかを押し付けられた、そんな錯覚に陥るほどのハッキリとした圧迫感の元が、視界に存在しないのだ。だが、そこに違和感を抱く暇はなかった。その圧迫感の正体が、振り返った先にある窓枠の彼方・・・まっすぐ遠方に存在することを、直感で理解できたからだ。



《条件が満たされました。パッシブスキル【魔力感知】を習得しました》


「?!」



 スキル。

 習得。



 自分のスキルと成長を明確に表示される・・・そんな世界が無遠慮に、最初の一歩を踏み込んできたのを実感できた瞬間だった。


 予想できなかったのではない。予想で来ていた範疇であるからこそ、それこそラノベ読者やゲームプレイヤーを慮り整理されたシステムそのものだからこそ、面食らったのだ。確かにわかりやすい。生きやすい。だからこそ、どこか片手間で作ることのできるチープ感が見えてしまった。


 だがそんな、世界観という大きな視野で得た落胆など今は問題ではない。



(なんっだこれ・・・魔力ってこんなヤバいの?)



 不快感ハンパないんだが?!



 全身の虚脱感。背中から広がり内部を侵す寒気・・・「背筋が凍る」の強化版のようなこの不快感。【魔力感知】? をするたびにこんな不快な思いをするのか?


 いや、違うな・・・これは不快感というより、不安だ。今俺、物凄い不安に襲われているんだ。それこそ体調に不調をきたすレベルの。魔力を感じているんじゃない。その先にある魔力が醸し出す、強烈な威圧を直に感じて不安になっているのだ。



 この魔力の持ち主、それ自体がヤバいんだ。



 その証拠に、すぐそこで寝っ転がってケツを掻いている【星薙ぎ】の魔力・・・「あれ」には到底及びもつかない容量だが・・・に対しては、不快感も不安もまったくない。【魅了】の影響もあるのか、心地よさすら錯覚してしまうほどだ。というかこいつ、なんでこの状況でこんなのんきにしてるんだ? 視線を時々そちらに移す素振りからして、こいつが「あれ」に気づいていないわけはないんだが・・・



《(ピッ)あー、わかってるだろうけど緊急事態。まぁ、ずっとは無理だけど、あんたの事前設定終わるくらいまでは余裕で時間稼げるから、あんたも余計なことしてないでちゃっちゃと済ませなさい。まったく、仕事増やしてもう・・・》



 やはり、イッシーの介入するレベルの話か。しかも「ずっとは無理」「仕事増やして」ということは「管理側が制御しきれない存在が不意を突いた」アクシデントなわけだ。・・・一つ間違えば危険な状況下とはいえ、これはこれで大いにモチベーションを掻き立たてられるじゃあないか。


 うん・・・わかる。遠くから近づいてくるあれが間違いなく危険な存在であることが。俺の存在など一瞬で吹き消すほどの、とんでもないバケモンだということが。



《条件が満たされました。パッシブスキル【対比】を習得しました》



 【対比】? そうか。【魔力感知】によって見た魔力で、無意識に自分との差を計ったことで習得したってことか。それなら納得いくが・・・しかしどういうメリットがあるんだ? 【魔力感知】の習得がおそらく前提になっているが、【魔力感知】だけで事足りるような気がするぞ・・・


 というよりスキル習得のシステムも不可解だ。体感することが切っ掛けでスキル習得できるようだが・・・スキルを持っていないのに体感する時点で矛盾している気がせんでもない。



「情報購入。どんな作用でスキル習得が成されるか教えてくれ」


《情報開示。コストを1消費しました。スキルは、体内に存在する該当スキルの因子に外的要因が影響を及ぼすことにより発現します。これを便宜上「習得」と呼称します》



 なるほど。元からある因子に働きかけると。そこでいいスキル因子を持っているかいないかが、素質の範疇の1つになるといったところか。・・・とりあえず、もう少しいじってみるかな? 現在こちらに接近しているなにか・・・その登場によって、いきなりスキル習得が始まった。この状況はチャンスでもあるんじゃないか?


 それにはまず・・・



(レーダー・・・的なものあるかな?)



 念じる・・・というわけでもなく、そう思っただけで、目の前の簡易モニタが右にずれ、円形のトップヴューマップが現れた。この建物の外観らしき空色の屋根の白い屋敷と、それを覆う僅かな土肌と雪を中心として、一面に雲が広がる。尺はこれ・・・mってあるな・・・メートル法か。まぁこれも翻訳の範疇なんだろうな。有り難い。


 接近体が表示されない。ズームアウトだ。



(ズームアウト。・・・ズームアウト)



 単位表記がkmに変わる。うん、やはりメートル法らしい。



(接近体を表示するまでズームアウト)



 画面が切り替わり・・・雲の終わりより先に、接近体と思わしき反応が姿を現した。なるほど、使い方がわかってきたな。


 東に120km。110、100、90・・・秒速10km、時速にして36000kmといったところか。凄まじい速さでこちらに接近してくる。


 ・・・バグってない? 空気がまだまだ充分ある層で人工衛星より速いぞ? 地図だとあまり実感が湧かないが・・・ありえないスピードだ。一体どんな奴なんだ? というか、空気の壁をもろともせず時速36000kmでぶっちぎる状態ってどんななんだ?



「(・・・接近体をピックアップ)・・・・・・・?!!!」



 ブラックアウト? ・・・機械じゃあるまいし故障とかではないだろうな。おそらく対象に弾かれた。圧倒的な戦力差とは理解していたが・・・インターフェイス? にまで影響を及ぼすほどのものとは。

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