第5話 血濡れのマント

「………………え?」


突然、目の前に現れた人はまるで俺を庇うかのように化け物と俺の間に割って入り、化け物の方を見続けている。


すると、突然化け物が興奮し始め、右手を構えると、その人に襲いかかった。

だが、その人は赤いマントで隠れた懐に右手を突っ込むと、右手を引き抜いたと同時に三本のナイフを投げた。


三本の内一本は弾かれたが、残った二本は右腕に突き刺さった。

傷を付けられた事に対する怒りか、化け物は耳を劈く様な咆哮を上げ、再度その人に襲いかかった。


化け物が走り出した途端、その人は唐突に右手を右斜め前にある木に向けた。

最初はあの化け物と殴り合いでもするのかと思ったが違った。


その人の右手首辺りに装着されていた装置から鏃のような物が先端に付いたワイヤーのようなものを発射した。


映画や漫画でしか見たことの無い道具、フックショットだ。

発射された鏃は狙った方角にある木に刺さり、化け物の攻撃が当たる寸前にその人の体が浮き上がり、木の方へと引き寄せられた。


攻撃を外した化け物は木にぶら下がるその人を見ると逃がすかと言わんばかりに大ジャンプをし、その人を追った。


その人は赤いフードで顔は全く見えないが、体型は比較的小柄で女性的な見た目をしていた。

化け物はその人を必死に追うが、その人は木から木へとフックショットで移動していき、その様子は俺には目で追う事すら叶わなかった。


暫くの間森の中を化け物から逃げながら駆け巡っていると、その人は突然、進行方向を真逆に変更し、化け物の方へと突っ込んで行った。


そして、遠くにある木に辿り着く前にフックショットの鏃を巻き戻し、両手をまた懐に突っ込んだ。


ちょうどその人が先程まで追ってきていた化け物の真下に来た時だった。

その人は化け物とのすれ違いざまに懐から引き抜いたフリントロック式ピストルで二発の大口径の銃弾を化け物の胴体にお見舞いしたのだ。


その銃弾の威力はスラグ弾並で化け物の皮膚を貫くと中の内蔵を銃弾の運動エネルギーでグチャグチャに掻き回し、貫通すると、背中の皮膚がまるで花が咲いた様にバックリと割れ、血と肉片が飛び散った。


流石の化け物も致命傷だったのか呻き声を上げながら目の前の木に激突し、そのまま地面に落下した。


マントの人の方も地面に降り立ち、ピストルを懐に仕舞った。

化け物は死んだかと思っていたが、銃弾二発程度ではそう易々と死んではくれないようだ。


再び起き上がった化け物はもうヤケクソになったのか一番近くにいた俺目がけて突進して来た。


「マジか!?」


急いで地面に置いてあるボルトが後退したままのモシン・ナガンを拾い上げるが、弾が入っていない。


クソっ!よりにもよってこんな時に!!

弾は……弾はどこに……………………あった!!


地面を見渡すと落ち葉の中に僅かに光り輝く物体を見つけた。

拾ってみれば間違いなくライフル弾だ。

早速薬室に弾を込め、ボルトを戻すと、左手が折れているせいで普通の構え方は出来ないため左腕の上にモシン・ナガンを置く形で構えた。



弾は一発のみ……絶対に無駄には出来ない……!



呼吸を整えると、こちらに向かって突進して来る化け物に狙いを定めた。

化け物はどんどん距離を詰めていくが、確実に必中を狙えるまで引き付け続ける。


まだだ……まだ…………。


距離は次第に縮んでいき、もうすぐ100メートルを切ろうとしていた。


…………そこぉ!!


一呼吸置くと、化け物目がけて引き金を引いた。

銃弾は風を切り、真っ直ぐと飛んで行き、化け物の目に命中した。


これには流石に化け物も耐えられないらしく、一気に化け物のスピードが下がる……かと思いきや左手で撃ち抜かれた眼球の一つを抑えながら右手を構えてまたもや突っ込んで来た。


「まだ来んのかよ!?」


もう弾はない、化け物はすぐに俺に追いつき、右手を振り上げた。

そして、肉が裂けるような音が聞こえた。

だが、それは俺が化け物に引き裂かれた音ではなかった。


後ろを振り返ればそこには懐に隠し持っていたのであろう剣で心臓を突き刺され、そのまま喉を貫き口から刃先が飛び出た状態で絶命した化け物の姿があった。


その時、その人が被っていたフードがずり落ち、顔がハッキリと見えた。

その少女は銀色の短髪に青い瞳、鋭い目付き、体型は比較的小柄ながらも随分と大人びた顔付きをしていた。


少女は化け物の死体から剣を抜くと、マントの中に仕舞い、フードを被り直した。


「あ、あんた一体何なんだ?」


試しに問い掛けてみるが、少女は俺を見つめているだけでこれといった反応は示さなかった。

反応が無いことに少し困惑したが、少女の首に刺青のような文字が入っているのが目に入った。


顔を近づけても反応が無いので、首元に掘られている文字を読んでみた。


「……ホルホーヤ?」


少女の首にはフィンランド語で守護者を意味する単語が掘られていた。

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SECOND DEATH COTOKITI @COTOKITI

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