第十話  ばしゃーんばしゃばしゃざっぱーん

 今日は流都くんとプールの日。この前の夏祭りは楽しかったなぁ。今日も楽しくなるのかな。

 八時五十五分に差し掛かったので、私は家の外に出て流都くんを待つことに。

 今日はちっちゃいひまわりの柄が入った薄いオレンジ色のワンピース。私の持ってる中では大きめの赤色のカバン。

 学校じゃないプールに入るのって……いつぶりかな? 初めて? 海なら小学生のときに行ったことあるけど。

 流都くんと一緒なら、きっと楽しいプールになるはず。

 あ、流都くんが来ました。今日は白に青のボーダーのシャツと、やっぱり紺色のジーンズ。濃い緑色のちょっと大きいリュック。

「おはよ」

「おはよう」

 流都くんが元気ないときって、ちょっと想像つかないかも。

「いこっか」

「うん」

 私たちは一緒に歩き出した。


 夏祭りのときにも利用した最寄りの駅。今日もお世話になります。

 今日は夏祭りのときとは反対方向に進みたいので、この前とは別のホームへ。

 ただの土曜日なので、浴衣着てる人は周りにいない。

「流都くんって、学校じゃないプールにだれかと行ったことあるの?」

「将とはたまに行くなぁ。あいつ小学生のときスイミング通ってたから水泳は今でもちょくちょくやってるんだってさ。まぁ今日行くとこは初めてだけど」

「そうなの?」

「ああ。将と行くときは運動公園のプールさ。あいつ50mプール行きまくり」

 運動公園のプールも行ったことないなぁ。その近くの桜並木ならよく観に行く。

「もし私おぼれたら助けてね」

「た、助けられっかな?」

「助けてね」

「ど、努力するよ」

 電車が来たので私たちは立ち上がった。


 今回は長椅子しかなかったので、ドアの近くに私が座って、その左に流都くんが座った。


 のどかな景色が見えたり、トンネルくぐったり。横にいる流都くんと一緒の時間を過ごしてる。


 乗り換えの駅にやってきた。すぐ横に来ている電車に乗り換えて、ちょっと行けば目的の駅とのこと。

 私たちは電車を乗り換えて、しばらく待っていたら、電車は発車した。


「着いた。ここ降りてからすぐなんだ」

 まったく来たことのない駅にやってきた。

「流都くん、ここ来るの初めて?」

「ああ。でも調べてきたからたぶん大丈夫。迷ったらその辺の人に聞いたらいいしなっ」

 流都くんとっても頼りになります。


 改札を出て、見知らぬ景色。ビルもいくつか建ってる。

「ほら、看板が出てる。ここを裏に通ってっと……」

 私は流都くんについていってるだけ。


 しばらく看板どおりに歩いていくと、一際大きな看板が出てる。看板の先を見ると、

「あれだっ」

 たくさんの人が入っていってる施設の入口があった。

 私たちはチケットを買うために列に並んだ。そんなに長い列じゃないのですぐ来そう。


「それじゃあ……出たとこで」

「うん」

 私たちは更衣室の前に来たので、いったん別れた。


(……よしっ)

 わたくし、桜子雪乃。準備が整いましたので、いざっ。

(背中ちょっとすーすーする)


(流都くんはー……いたっ)

 斜め向こう向いてるけど、あれは流都くん。水色と青が交互に混ざった水着を着てます。違ったらどうしよう。

 私にはまだ気づいてないみたい。てくてく近づいてもまだ気づいてくれないので、

「流都くんっ」

 声をかけた。すると流都くんはこっちに振り返ってくれた。流都くんで合ってました。

「雪乃っ」

 ……見すぎです。そんなにじっくり見ないでください。

「……こらっ」

「え、あ、す、すまん」

 なんですかその顔は。

「じ、地獄のシャワー行こうぜー!」

 流都くんはくるっと半回転して、地獄のシャワーに向かって歩き始めた。ので、私もついていくことに。

 この新しい水着は、ピンクから白にグラデーションしてて、桜の花が描いてあってかわいいなと思ったのでこれにした。私の名字桜子だし。髪は頭の上にゴムでまとめてる。

 おなかもすーすーする。


 夏らしい暑さの中、私たちは地獄のシャワーを抜けました。なんで地獄のシャワーってあんなに冷たいんだろう。入る人みんなきゃーきゃー言ってる。

 ところで地獄のシャワーって言い方は全国共通だよね?


 私たちは流れているところを歩くプールにやってきた。

 まずは脚ばしゃばしゃー。腕ばしゃばしゃー。頭やお腹などばしゃばしゃー。

「雪乃まじめだなー」

「あっ」

「どうした?」

「体操してなかったね」

「だはっ。わかった、付き合うよ」

 プール普段来ないからてへ。


 いったん上がって、人があまり通らなさそうなところにやってきて、私たち中学校の体操が音もなく始まりました。

 これテストあるから、全校生徒だれでもこれできると思う。本当は音あったほうがわかりやすいけど、テープ出して音楽かけてくださいなんてできなさそうだし。


 しっかり体操をし終えた私たちは、今度こそプールへ。もっかいばしゃばしゃー。


 私はプールに入ってみた。冷たくない。

「流都くん~」

 緩やかにとはいえ流れているので、ぼーっとしてたら流されちゃう。流都くんも入って私の横までやってきた。

 たくさんの人が流れながら一緒に歩いていて、みんな楽しそうでこの雰囲気だけでも楽しいな。

 深さはそんなになくて、私でも肩が少し出てる。流都くんは歩かず浮いてる。

「楽しいね」

「ああっ」

 全身が水に触れる感覚って普段ないから、とっても新鮮。

「やっぱここのプール来るなら、将とじゃなく雪乃とだな」

「なんで?」

「将プール行くと一人で泳ぎまくってるからな。こういう二人でのんびりするようなやつは、たぶん将向かないんじゃないか?」

「横井田くんってそんなに泳いでるの?」

「泳ぎまくったと思ったらぜーぜー言ってしばらく動かないけどな」

「ふぅ~ん」

 流都くんから男の子情報を聞けています。横井田くんとそんなに仲良しなんだね。

(……私情報も横井田くんに話してるのかな?)

「流都くんって、横井田くんとのことみたいに、私と遊んだことを他の人にしゃべってるの?」

「いいや……? なんで?」

「ううん、どうなのかなあって思って」

 流都くんぷかぷかしてる。

「女子と遊んだことを話すとさ、ほらー……なんか言われることもあるし?」

「う、うん……」

 敬ちゃんに流都くんとプールに行きましたっておしゃべりしたら……確かになにか言われそうっ。

「言っとくけどっ。俺女子とこんなにしゃべったり遊んだりしてんの、雪乃だけなんだからな」

「そうなの? 知尋ちゃんとも仲良さそうだけど」

「しゃべるけど、雪乃ほどじゃないな」

「そうなんだ」

 流都くんの中で、私がいちばん女の子の中でおしゃべりしてるんだ……。

「……私も。男の子の中でいちばんおしゃべりしてるの、流都くんだから」

「そうなのかっ。光栄、だなっ」

 流都くんが流れています。流れていますっ。

「なんか、さ。雪乃と一緒にいるのが楽しいっていうか。もっと会いたくなるっていうか。将たちとはまた違った楽しさなんだよ」

 私も~……敬ちゃんや知尋ちゃんたちと、違う楽しさ……なのかな。

「だからほら、俺遠慮なく誘っちゃうからさ。ほんと、行きたくないとこだったり、遊びたくない内容だったりしたら、ちゃんと言ってくれよっ?」

「うん。わかったけど、私も流都くんと遊ぶの楽しいから誘ってってばぁっ」

「わ、わかったよっ」

 これからも流都くんと遊ぶ日が続きそうです。

「……なんか、その、さ。今日も水着着させて……さ?」

「こらっ」

「すいばべん」

 流都くんは顔を半分沈めてぶくぶく言ってます。いたずらっこ雪乃ちゃんは流都くんの頭を押さえて顔を沈めちゃった。あ、すぐ水面から飛び出てきた。

(やっぱり水着は……ちょっとはずかしかったかな)

 学校で使ってるスクール水着の方がよかったのかな? でもせっかく買ったんだから使わなきゃっ。


 流れるプールを一周したら、次はウォータースライダーに行こうとなった。


「……ほんとにこれ……行くの?」

「怖いなら雪乃やめとくか? 俺は行くけど」

 流都くんやる気まんまん。

「怖いけど……でも流都くんと一緒なら、頑張る」

 私は右手で流都くんの左手を取って、手をつなぐことにした。

「よしっ」

 流都くんに引っ張られる形で、階段を上り始めた。


 人が少し並んでて、でも風も少し吹いていてちょっとぷるぷる。

「流都くんはこういうの滑ったことある?」

「小学生のころあったかなー。家族でこんな感じのプールに一回行ったことがあるんだ。雪乃は?」

「初めてですっ」

「後で無事会おうなっ」

「頑張ります」

 流都くんはちょっと笑ってた。


 いよいよ私たちの番がやってきた。三列に分かれて、私と流都くんは同じタイミングでスタートできるみたい。

 係員の人から腕は胸の前で肩をつかむようにと言われたのでうんうんうなずきました。

 ついにスライダーに座るときがやってきました。

「た、高い……高いよぉ……」

 さっき流れてたプールを泳いでる人たちがあんなにちいちゃく……。

「それじゃ……いってらっしゃい!」

「ひゃっ」

 係員の人から背中を押されると、私はそのまま滑り、角度が急なところに差し掛かるやいなや

「きゃあーーーーー!!」

 ばっしゃーーーん!

(あうぅ、はわはわ)

 私今どんな体勢っ。さっきの何秒の出来事だったのかな。し、心臓が大変なことに……は、鼻もっ。えと、えと。あ、立てた。

「ぷぁっ、けほっ」

 うう。流都くん、流都くん。

「雪乃っ」

 振り返ると流都くんがいたので、急いで流都くんの左手を両手で取りました。

「おもしろかっ……そ、そんなに怖かったのか?」

 私はぶんぶん縦に首を振ります。

「あっははっ。じゃベンチで休むかっ」

 歩き始めても私は流都くんの手を離しませんっ。


 ベンチで休んでいるとだんだん落ち着いてきた。心臓も、鼻つーんも。

「ふはっ。やっぱ雪乃とプールはおもしろいなっ」

 私は上目遣いでにらんじゃいます。ぷんぷん。

「あっははっ! またプール来ようぜ!」

 ほっぺたふくらませますぷんぷん。


 流都くんはいったん更衣室に戻って、浮き輪を持ってきた。

 空気を入れる機械があるので、それを借りるとあっという間に南国な絵柄の浮き輪が出来上がりました。

「雪乃、はい」

「私がかぶるの?」

「ああ。次行くところは人工波を発生させるところなんだ。パンフレットには浮き輪で浮いてる人いっぱいいてさ。俺はこのひも握ってるから」

 この浮き輪には白いひもが付いてる。

 私は早速浮き輪をかぶりました。よいしょっ。

 浮き輪雪乃の出来上がりです。

「似合ってるぞっ」

「それはどういう意味でしょうっ」

「い、いや別に深い意味はっ」

 流都くんは浮き輪をつんつんして、私の体勢がぐらぐら。今日は流都くんもいたずらっこ流都くんなのかもしれない。


 大きなプールにたくさんの人が入ってて、確かに波でゆらゆらしてる。

 私たちも入っていざ深いところに。私は浮き上がった。わ~波にゆらゆら~。

 流都くんに引っ張られていくと、私はだんだん脚が着かなくなってきた。波ゆらゆら。

 ゆらゆらの波がやってくる度に、辺りからきゃーきゃーの声。

「やべ、脚着かねぇ」

「おぼれちゃったら大変」

 端の近くになると流都くんでも脚が着かないみたい。大変だっ。

「雪乃、浮き輪つかまっていいか?」

「うん。どうぞ」

 私は腕を使って、お腹の前を空けた。

「…………やっぱいい」

「え、なんで?」

「い、いや、当たったら、あれだし」

「こちょこちょしないでね」

「するわけないっ」

 結局流都くんは浮き輪につかまらずひも持って浮いてた。波ゆらゆら。


 しばらくゆらゆらしたら、また流都くんに引っ張られて、私たちは波プールから上がった。

「なんか食べよっか」

「あ、じゃあえっと……待っててっ」

 私は浮き輪をよいしょして外すと流都くんに渡して、更衣室へ。


「……おにぎり持ってきたの」

 黄緑色のバンダナでくるまれたお弁当箱と水筒を流都くんに見せた。

「まじかー! よし食べるかっ」


 座れる席を探すとすぐに見つかったので、私たちは座って、お弁当箱をテーブルの上に置いた。早速開けちゃう。割り箸も二膳持ってきた。

 フタを開けると、私が朝握ったおにぎりが崩れることなくちゃんとよっつ入ってた。きゅうりのお漬物付き。

「手を合わせましょう」

 ぺったん。

「いただきます」

「いただきまーす! よし、これだっ」

 割り箸ぱちんの音が聞こえたとともに流都くんは右上のおにぎりを取って、裏返したフタを準備しながら食べ始めた。私は先に水筒を手にしてっと。

「うまいっ」

「よかった」

 それは野沢菜ですねー。私はお茶を飲んでっと。おいし。

「まさか雪乃が弁当持ってきててくれてたなんて!」

「そんなに意外?」

「ああいや、なんか、うれしいっつーか……さっ」

 もりもり食べてる流都くん。のど詰まりそう。

「そんなに急いで食べたらのど詰まっちゃうよ? はい」

「さんきゅ……ん? おい雪乃」

「なに?」

「この水筒のコップ。さっき雪乃使ってたよな?」

「うん」

「うんて。うんてっ」

「えっ、私使った後の嫌だった? 洗ってきたほうがいい?」

「ああいやいや! 雪乃がいいんなら……別に……」

 はっ。

「ご、ごめんなさい、えとね、あのね、吹奏楽部はその……か、間接ちゅーとか、に、日常茶飯事と言いますか、なんと言いますか……」

「す、すごい部活だな」

 そ、そうだよね、変だよね、うん変だよね。

「もぅ。いいから飲んでっ」

「あ、ああ」

 流都くんはお茶を飲んだ。


 私たちはごちそうさまをしてエネルギー全開。再びプールめぐりを始めた。

 波のない普通な感じのプール、じゃばじゃば水が流れてるプール、さっきのみたいな一直線じゃなくてぐるぐるジェットコースターみたいに落ちていくウォータースライダー、二人一緒に大きな浮き輪みたいなのに座って落ちていくウォータースライダー、足つぼゾーンなどなどいろんなアトラクションを楽しんだ。


 三時くらいになったら、ちょっと早めだけど帰ろうってなった。地獄のシャワーはやっぱり地獄のシャワーだった。

 最後に私のことをじろじろ見てきたのでこらって言っておきました。


 お着替えして、更衣室を出たところでまた流都くんと会って、一緒に施設から出た。髪ほどいて開放感いっぱい。


 駅までやってきて、改札を通ったらもう電車が来そうだったのでちょっと急いでホームへ。すぐに電車がやってきたので乗り込んで、今度は片側二列の座席だったので、私が窓側に座って流都くんが通路側に……座る前に、私の荷物を網棚に置いてくれた。やっぱり優しい流都くん。


「今日はいっぱい遊んだなー」

「うん。こんなに長い時間身体動かしたの久しぶりかも」

 まだ髪がちょっとつやつやしてる。

「俺来週大会なんだよなー」

「そうなの? 吹奏楽部も来週の土曜日大会だよ」

「おっ、同じ日か。じゃあそれの次の日の日曜会えるか? お互いの結果発表とか、頑張りました会的な感じで」

「うん、いいよ」

「おしっ」

 次流都くんと会う日が決まっちゃった。

「何しよっか」

「うーん、何しよう」

 特に思いつかないなぁ。

「雪乃は俺としたいことは何かないのか?」

「思いつかないよぉ」

「なんでもいいぞっ。俺としたいこと!」

 流都くんとしたいこと……夏休みの間に流都くんとしたいこと……うーんと……

「あっ」

「お? あったか?」

「夏休みの宿題、一緒にしよ」

「うえぇぇ~~~っ……?」

 ものすんっごいへの字口をされちゃいました。

「だめ?」

「限りなくだめに近いだめじゃない」

「流都くんとしたいことっていうことだから挙げたのにぃー」

「俺はせっかくの雪乃との時間に宿題なんてしたくないぞっ」

 ちぇ。

「……ぷはっ。でもまぁ雪乃とならいつもより宿題頑張れるかもな。たまにはそういうのもいいかっ」

 やっぱり流都くんは笑ってくれました。

「どこで宿題する?」

「そこで図書館とか言い出すなよ?」

「なんで?」

「雪乃いんのにしゃべれないのとか、それなんの罰ゲームだよっ」

「えっとー……? じゃあ、私の家か流都くんの家でする? どっちがいい?」

「雪乃の部屋って、エアコン付いてる?」

「うん、あるよ」

「じゃそっちで」

「流都くんのお部屋には付いてないの?」

「リビングしか付いてねーんだよ。俺ん家のリビングでしたくてしたくてしょうがないんなら……まぁ別に」

「ううん、流都くんが私のお部屋でしたいなら、私のお部屋でしていいよ」

「うしっ。どの教科する?」

「数学まだ残ってる?」

「手付かず」

「くすっ。じゃあ数学ね」

「わかった」

 流都くんと数学の宿題をする日になりました。

「でもさー大会の次の日に宿題とか、まったく頑張りました会になんねーじゃんっ」

「嫌なら、他のことでもいいよ?」

「わかったわかったっ、今回は雪乃に従いますっ」

 決定しちゃいました。

 友達と一緒に宿題することも、ほとんどしたことないなぁ。

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