第九話 いっぱいにぎわう夏祭り
夏祭りといえば地元でも行われるんだけど、地元の夏祭りでは吹奏楽部で野外ステージでの演奏があった。
それをこなした後にお祭を楽しんだけれど、流都くんとは会えませんでした。
流都くんと約束していたお祭はまた別で、隣の地域で行われるお祭に行くこと。
吹奏楽部は夏休み中も練習や本番があるけど、土曜日と日曜日は本番がない限り必ず毎週お休みなので、お祭の日もばっちり一日中楽しめちゃう。昼の一時から会って、四時くらいまで流都くんの家で遊んで、それから電車に乗って会場へ行くということになった。
私は流都くんのおうちのインターホンをぴんぽんした。
しばらくすると、流都くんが玄関のドアを開けて登場しました。
「……や、やあ雪乃っ」
「こんにちは」
うん?
「……へ、へぇ~っ」
私は流都くんに近づきました。
「四時までおじゃまします」
「どうぞっ」
川音さん家におじゃまします。
「あらーいらっしゃいんまあ! かわいいわねぇ~似合ってるわよぉー!」
「ありがとうございます」
青色に水色のグラデーションが入った
「靴は靴なんだな」
「ごめんなさい」
「な、なんで謝るんだ?」
「普段お父さんってあんまり私のすることを制限しないのだけど、足は大事だからって、遠出するときに下駄履いちゃだめって言うの」
「へぇー。別に悪いことじゃないと思うよ。俺も雪乃の足は大事だと思うし」
「うん。あ、おじゃまします」
「はいはいどうぞどうぞ! 後で冷たいりんごジュース持っていくわね!」
「ありがとうございます」
ということで私は流都くんのお部屋へ招かれました。
小さいテーブルを出してくれたので、それを挟んでお互い座った。
「流都くんは浴衣着ないの?」
「ないよっ」
男の子は浴衣持ってる人少ないのかな?
「浴衣でそろえたほうがよかったか?」
「ううん、好きな格好でいいよ」
流都くんは白の半袖シャツに紺色のジーンズ。その流都くんが扇風機ぽちしたので涼しい風がやってきました。
「な、なんかさ。雪乃がそういう格好してるなら、女子! って感じだよな」
「私はもともと女の子ですぅっ」
「そうなんだけどさっ! こう、ああ、女子なんだなあって……あーこれなんて言ったらいいんだっ」
わかるような気がするけど……?
流都くんのお母さんがりんごジュースとせんべいを持ってきてくれたので、いただきます。
うーん冷たくておいしい。氷がからんからん鳴ってる。
「雪乃は祭に行くってなったら、いつもそんな格好なのか?」
「うーん、昔はよくこういうの着てたけど、中学生になってからはあんまり?」
「じゃあなんで今日はそれなんだ?」
「……それだけ流都くんからのお誘いは特別だったんですぅっ。いつも一人だったもん」
「そ、そっかっ」
小学校のときの浴衣はさすがにちっちゃくなってきたので、これを機にお父さんに買ってもらっちゃったっ。
「あ。これ買ってもらったばかりだから、流都くんが初お披露目だね」
「そうなのかっ」
私はぱたぱたしたりくるくるしたりして流都くんに見せました。
「今日は夏祭りだけど、次に私としたいことは何かある? お互い練習とか大会とかあるから、もしあるなら早く決めないとっ」
「そうだなー……」
考えてくれてる流都くん。
「……ゆ、遊園地とか……プールとか……水族館、とか……?」
どこも最近行ってないなぁ。プールは授業であるけど。
「お友達ともそういうところにいっぱい行ってるの?」
「行ってねーなぁ。ゲームしてるかカラオケボウリングダーツビリヤードとか?」
「そうなんだぁ」
熱唱してる流都くん……気になる……。
「じゃあ私とはなんで違うところなの?」
「……なんとなく?」
なんとなく。
「雪乃の行きたいとこあったらもちろんそこでいいよ。どこかあるか?」
「特にここっていうのはっ。流都くんが私と行きたいなって思ったところを連れてってくれるだけでいいよ」
「ほんとか? じゃあ次は……プールでどうだっ。電車で四十分くらい行ったところにでかくていろんなプールがあるとこ知ってるだろ?」
ちくたくちくたく。
「……あったような気がする」
「どう……かな?」
プールかぁ~。
「……うん。じゃあプールねっ」
「お、おうっ」
大丈夫。浴衣と一緒に水着も買ってもらっちゃったからっ。
「流都くんは泳げる?」
「泳げる泳げる。雪乃は?」
「得意じゃないけど、大丈夫」
「そこのプールはひとつくらい浮き輪持ってったほうが楽しいかもな。俺が用意しとくよ」
「うん」
どんな柄の浮き輪なのかな。うきうき。今のはなんでもありません。
結局次の土曜日にプールと決まりました。朝の九時に流都くんが私の家に来てくれることに。
いろんなおしゃべりをしたりボードゲームで遊んだりしていたら時間がやってきたので、私たちは流都くんのおうちを出てお祭会場へ向かいました。
駅ってあんまり利用しないけど、浴衣着てる人がいるのでみんなお祭に行くんだろうなぁ~。
私たちは切符を買って、改札を通って、ホームで電車を待ちます。あと五分くらい。
うきうきしている感じが周りのみんなから伝わってきます。
「結構人いるな」
「うん」
友達はいそうでいない。もしかしたら会場で会えるかもしれないけど。
電車がやってきたので、私たちは電車に乗った。
横に二人並んで座る座席が空いていたので、私が窓側に座って、流都くんも続けて通路側に座った。結構人がいたのに座れてよかった。
あ、流都くんと脚が当たっちゃった。
「わ、すまん」
私も座り直した。流都くんは小さい緑色のリュックを自分のひざの上に乗せた。私もカバンをひざの上へ。
「流都くんと一緒に電車に乗るのって、初めてだね」
「今まで外で遊んでこなかったんだから、初めてだらけだぞ?」
「そうだねっ」
今日も流都くんはお元気。
電車に揺られて、目的の駅に着くと降りる人がたくさん。これみんなお祭が目当てなのかな。
私たちも降りて、改札くぐって……もっと浴衣着てる人が街中にいた。
早速私たちは会場へ向かって歩き出すと、早くも太鼓の音が聞こえてくる中、同じ方向へ歩いていく人が結構いた。そして会場へ近づくほどに太鼓の音が大きくなっていった。
会場付近の商店街までやってくると、もう人がいっぱい。ぎゅうぎゅうまではいかないけど、油断するとはぐれちゃうくらいにはいっぱい。
「ゆ、雪乃?」
「なに?」
「こんなに人がいると、はぐれるとー……あれだし……」
流都くんが左手を出してる。私はとりあえずそれを見てる。
「……ぬあぁっ」
「あっ」
ずっと見てたら、その手は私の右手を取った。
「い、嫌か?」
「……ううんっ」
優しく、流都くんと手をつなぎました。
(……ちょっとどきどきしてる)
流都くんの表情はここからだと普通に見える。私も平常心平常心。
流都くんは焼きそば、私はりんごあめを買って、橋のところに座って食べることに。普段は車がびゅんびゅん通ってるけど、今は車を通れなくしてるので人がいっぱい橋のところに座ってる。ごめんなさい車さん。
いただきます。りんごあめおいしい。定番の赤色の大きいの。
「おすそわけ、いる?」
「ん? い、いいのか?」
「うん、大きいし」
流都くんはりんごあめをじっと見つめています。どこから食べるのか考えてるのかな。
「……いただきます」
流都くんもかじりました。私のかじってるとことは反対のとこから。
「んまい」
「そこじゃあめのとこだけだよ?」
「ふぁ、ふぁい」
流都くんはもっかいかじりました。りんごもかじれたみたい。
「ふまい」
かりこりとしゃりしゃりの音が聞こえる。
「焼きそばも食べるか?」
「うん。手にりんごあめ持ってるから……あーん」
流都くん手が震えてる。お、落とさないでね。でも無事私のお口まで運んでくれました。
「おいしいっ」
香ばしい香りが口いっぱいに広がった。
流都くんは焼きそばをまた見つめています。おいしいね。
ここの夏祭りでは、花火は五時半の部と七時半の部があって、私たちは五時半の部を見たらおうちへ帰ろうということになってる。
ちょうどこの場所に座れているので、このまま花火の時間まで待つことにした。
太鼓の音、人の楽しそうなしゃべり声、行き交う足音、アナウンス。まさに祭っていう感じだけど、それを流都くんと一緒に感じながら過ごすのって、なんかこう……楽しいなっ。
流都くんは焼きそばを食べ終わって、リュックの中からビニール袋を取り出して、ゴミぽいぽい。リュックの中にまたしまった。
「雪乃っ」
呼ばれたので振り向くと、また左手が出てます。
(つまり……握るんだよ、ね?)
私はゆっくり右手を出して、流都くんと手をつなぎました。
(普段手をつなぐことなんてないし……流都くん、男の子だし……)
やっぱり私、流都くんのこと……ちょ、ちょっと意識、してるのかな……。
(でも手を握ってないときはそんなに意識してないような気がするんだけど……どうなのかな……)
流都くんを見てみたけど、辺りを見回していた。りんごあめおいしい。
……ずっと流都くんと手を握ってます。
「流都くん」
「ん?」
「男の子友達と遊ぶときも……こんなに手を握るの?」
「に、握らねぇ」
私は改めて握られている手を見た。流都くんは身長も大きければ手も大きい。
いよいよ花火が始まるというアナウンスがありました。
それからは花火がどんどん。いろんな光の粒が空に浮かんでは弾けて、どーんと大きな音が響き渡って。周りにいる人たちからおぉ~という声。
私も流都くんも、周りにいるたくさんの人も、まだ暗くなりきってないけど色々な光あふれる鮮やかな空を見上げていた。
私たちはずっと手をつなぎあったままで。
ここで突然いたずらっこ雪乃ちゃんが登場しました。りんごあめ持ってる方の左手を、頑張って人差し指を伸ばして、流都くんの左ほっぺをつん。
「うゎあっ!」
流都くんが慌ててこっちを向きました。
「な、なんだなんだっ?」
「くすっ、ううん」
あ、流都くんも笑いました。
「お返しだっ」
私の右ほっぺたが流都くんの右手でぷにぷにされました。
(楽しいなっ)
大きく丸が広がる物。絵柄の物。線がいっぱい飛んでく物。ひゅーひょろひょろな物。どっかーんと幅も音も大きい物。ずっと手をつないで見てた。りんごあめおいしい。
花火が終わったアナウンスが流れたころに、私はりんごあめを食べきった。
「ゴミ入れるよ」
「ありがとう」
ようやくここで手が離れて、さっきのビニール袋にまとめてくれました。流都くん優しい。
「うし、帰るか」
「うん」
私たちは立ち上がった。花火を観終わって帰る人は他にも結構いそう。
今度は何も言うことなく私の右手は取られちゃいました。
流都くんが手をつないでくれたおかげもあって、無事駅まではぐれることなくやってくることができた。
行きのときよりも人が多くて、電車の中では立ったまま。揺れて流都くんにちょっと寄っかかっちゃいました。
帰るときは途中の駅で降りていく人がいたので、少しずつ空いてくる中、私たちの最寄りの駅に戻ってきた。
友達に会いそうで会わなかった。
ここまで来たらもうはぐれることはないのか、流都くんは特に手を握ってはきませんでした。
改札を抜けると、そのまましばらく歩けばもうそこはただの通学路なので、周りに歩いている人はかなり少なくなる。
「ちょっと公園寄っていかないか?」
「うん」
お誘いがあったので公園へ。
さっきと同じように、私が左、流都くんが右で並んでベンチに座った。
あまり大きな公園じゃないということもあってか、今この公園には私たち二人だけ。さっきまであんなににぎやかなところにいたのにね。
「祭楽しかったなっ」
「うん。誘ってくれてありがとう」
「お、俺の方こそ、誘いに乗ってくれて、さんきゅ」
私は脚ちょっと伸ばした。
「流都くんといると、楽しい」
「おっ、俺だって、雪乃といると楽しい」
「よかった」
伸ばした脚をちょっととんとん。
しばらくセミさんの声を聞きながら、私たちは特にしゃべることなく座ってた。
さっきまでにぎやかだったので、今静かなのはそれはそれでいいかも。
「雪乃」
「なに?」
「また……手、握っていいか?」
「もう迷子にならないよ?」
「……そ、そうだよな! ははっ」
でもそういうお話があったので、今度は私から流都くんの左手を取りました。
「って握るのかよっ!」
やっぱり楽しいなっ。
(なんで今日はこんなに楽しいのかな)
なんかずっとうきうきしてるような気がする。
「これからもー……たまに手、握っていいか?」
今日だけじゃなく、これからも。
「……いいけど、なんで?」
「握りたい……から?」
私と手を握りたい流都くん。
「……流都くんなら、いいよ」
「さんきゅ」
ちょっと握られる手の力が強くなった気がする。
「なんかさー、俺ばっかりが誘ったりお願いしたりばっかだな! 迷惑だったら遠慮せず言ってくれよ?」
「うん。でも大丈夫だから。もっと誘ってほしいな」
「わ、わかった」
また握られる力が強くなったような。私もうにうにしよ。
特に反応はありませんでした。
「……じゃ、そろそろ帰るか」
「うん」
「雪乃の家まで送るよ」
「ありがとう」
私たちは立ち上がると、自然と手が離れた。
(し、知り合いに見られるとあれだからっ)
おしゃべりは少なめだったけど、私のお家まで送ってくれて、流都くんとばいばい。あ、ゴミ流都くんに持たせっぱなしだったけど……ありがとうございます。
私は自分の家に帰った。まだうきうきしてるかも。特に右手が。
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