第六話  テストも終わりみんな一息

 私はテストの三日間を無事終えた。今回のテストは全体的に難しかったと思う。今朝の敬ちゃんはすっごくぐったりしてた。

 テストが終われば終業式まで数日しかないけど、私たち吹奏楽部は大会に向けての練習が再開される大事な時期になっちゃう。夏休みも月曜日から金曜日までみっちり。

 流都くんはバックギャモン部だけど、どんな大会なんだろう。


「ねぇ雪乃ぉ~」

 休み時間、敬ちゃんがやってきた。休み時間って男子とサッカーとかバスケットとかしてるイメージがあるから、教室にいる敬ちゃんって珍しい気がする。

「うわさなんだけどさっ。川音と知尋が付き合ってるかもって聞いたけど、まじ!?」

 敬ちゃんがニュースを持ってきました。

「そうなの……?」

「うわさだってばうわさっ! 知尋と川音が一緒に帰ってるところをよく見るとかで、そういううわさになってるみたいだよー」

「私はそういうの聞いてないけど……」

「だよねー。ただのうわさかなっ。でも一緒に帰ってるのはほんとらしいから、これはほんとにそうなっちゃうかも……!? この前は全然そんなこと言ってなかったのにね!」

 流都くんが、知尋ちゃんとお付き合い……。

「ね、どっちかにその気があるんなら、またこの前みたいに手伝っちゃおっか!?」

「この前みたいに?」

「そうよ! やっぱ人類みんな幸せになんなきゃ! あたしはいつでも恋のキューピッドやっちゃうわよー!」

 めらめら燃えている敬ちゃん。

(流都くんが、お付き合い……かぁ)

「……じゃあ、私、流都くんに聞いてみようかな」

「よし! あたしは知尋に聞くわ! 後で結果教えてよ!」

「うん」

 敬ちゃんは早速教室を飛び出していった。今のところ教室には知尋ちゃんも流都くんもいない。

 ついこの前カップルが誕生したばかりなのに、もう次のカップルが誕生しちゃうのかな。

「お、桜子いたいたっ。なあなあ流都が林延寺と付き合ってるって聞いたんだが、あれまじか!?」

 横井田くんがしゃべりかけてきた。

「私もさっきそのうわさを聞いたばかりなの。本当のことは知らないよ」

「そっかそっかー。いやーさー確かにあいつ最近オレらと遊ぶ回数減ってるような気がすんだよな。そこに来て林延寺と一緒に帰ってるって話。こりゃひょっとしてって思ってさ!」

(一緒に帰ることだけだと、私も入っちゃいそうだけど……でもそれだけ知尋ちゃんは目立つ人なんだっていうことなのかな)

「私も気になるから、流都くんに聞こうと思ってたところなの」

「お! うっしオレも聞いてみるかな!」

「今はどこにいそうかな?」

「今か? さあーいつもは廊下でしゃべってるか運動場でサッカーかなんかやってるかとかなんだけどな」

「そうなんだ」

「もしあいつらが付き合ってるってことになると、こりゃ大ニュースだぞー! うひひ~!」

 横井田くんはそのまま教室を出ていった。

 まだ休み時間は始まったばかりだし、私も流都くんを探す旅に出てみることにしました。


 廊下にはいない。中庭にもいない。靴を履いて運動場を見てみてもいない。体育館にもいない。

(どこにいるのかなー)

 戻ろうとしたら、体育館の陰に二人……あれっ、流都くんだ。もう一人は女の子で……後ろ姿でだれかはわからないけど、上履きの色が緑だから二年生みたい。私たち三年生は青。

(あっ)

 流都くんは封筒を持っているみたい。封筒を持ってて、女の子と二人きり……。

(まさかっ……)

 私はそのまま見続けてしまっていました。

(女の子がこっちに来そう)

 女の子が振り返ったので、私はばれちゃわないようにこそこそ移動。私何してるんだろう。

(い、今は流都くんにも会わないほうがいいよね……)

 私は急いでげた箱に向かって靴を履き替えて、辺りを確認しながら自分の教室に戻った。


 教室に戻ってイスに座っていると……

(あ、流都くんだっ)

 流都くんが戻ってきて、自分の席に座って……。

(……封筒はどこなのかな。ズボンのポケットに入れたままなのかな)

 特に変わった様子がなく、座ってるだけで……でもその座ってるだけがもしかしたら流都くんからしたら変わったことなのかもしれないけど……。

(どうしよう。気になっちゃう。声かけようかな。でも声かけていいのかな)

 いろいろ思っちゃったけど、結局動けずじまい。流都くんも座ったまま。

(あ、横井田くんだ)

 横井田くんが流都くんに声をかけた。

 私は見てるしかできなかった。


 今日から部活が再開。久々の練習で、やっぱりちょっとしんどいな。

 でも私は今日も頑張りました。


 部活が終わり、楽器を片付けて、私は帰ることに。だいたい帰るときは一人かな。誘われたら一緒に帰るけど。

 げた箱で靴を履き替えてっと。

「雪乃っ」

 声が聞こえた方に振り向くと、そこには流都くんが立っていました。もう靴を履き替えています。

 私は急いで靴を履き替えて、流都くんの前に立ちます。

「流都くん、だれか待ってるの?」

「実はー……雪乃を待ってた」

「私?」

 こんなことなかなかないので、ちょっとびっくりしちゃった。

「私に何かご用事ですか?」

「んー……まぁ、ちょっと、なっ」

「なに?」

「帰りながら聞いてくれるか?」

「うん」

 私は今日も流都くんと一緒に帰ることになりました。


「それで、なに?」

「ああ、実はさー……」

 流都くんの左横に並んで歩いてる私。流都くんは右手でカバンをがさごそしています。

「今日これ、もらっちゃってさ」

 それは一枚の薄ピンクの封筒。今日のあれだっ。

「内容は?」

「まだ読んでなくて、さ。学校の中で開けてだれかに見られたら、あれだし……返事は明日の昼休みにって言われてるんだ」

 やっぱり……ら、らら、らぶれたぁ……だよね……?

「早く読んであげないと」

「そうだな。ちょっと公園に寄ってくれるか?」

「うん、いいけど……でもなんで私も?」

「なんていうか……女子でいちばん相談しやすかったから、かな」

「私がっ?」

 流都くんはちょっと笑いながらうなずいた。私そんなに信頼してもらえているなんて。

「私なんて、その、そういうの、詳しくないし……相談するなら、敬ちゃんとか知尋ちゃんならずばっとアドバイスくれそうだし、穂綾ちゃんなんて当事者って感じだし……」

「それでも雪乃がいいなって思ったんだ」

(そ、そんなに……? なんか、うれしいな)

「あ、迷惑だったら言ってくれよ!? すまん、俺ばっか勝手に話進めてさ!」

「ううん、そこまで言ってくれてうれしいよ。ありがとう」

 流都くんは笑っていた。


 近くの公園にやってきて、ベンチに座る私たち。小学生たちがジャングルジムやシーソー、ブランコやサッカーとかで遊んでる。

「じゃあ、開けるぞ」

「うん。でも私も読むのはなんだか悪いような……」

「責任は俺が取るっ」

「流都くんがそこまで言うのなら……うん……」

 流都くんは、後ろのお星様シールをはがして封を開けた。中から取り出された便せんは一枚。でも文字はたくさん書いてある。きれいな字。


 差出人は多木たぎ 真遊まゆちゃん、二年一組。水泳部の子。

 いろんな想いがそこには詰まっていたけど……つまり、一年生のときから流都くんにひとめぼれをしていて、最近になって付き合っているかもっていううわさを聞いて、いてもたってもいられずラブレターを出しました。っていう感じ。

 去年の文化祭のときにバックギャモン部の出し物として、体験バックギャモンをしたのがきっかけだったって。

「……流都くん、モテモテだぁ」

「おいおいっ」

 ちょっと笑ってるけど、ちょっとうれしそう。

「流都くん、どうするの? お返事、明日なんだよね」

「ああ……どうしたらいいんだろう……」

 迷ってる、っていうことは……告白を受けちゃうかも、っていうことだよね……。

「流都くんは、この……真遊ちゃん? っていう子、知ってるの?」

「正直体験バックギャモンに来てくれたときのことはそこまで覚えてないんだけど、でも後からそこに来てくれたっていう話をしてくれて、ちょいちょいはしゃべったことあるかな」

「そうなんだ。いいこ?」

「い、いいこ、になるのか? おとなしい感じだけどさ」

「好みの……たいぷ?」

「た、タイプとか、そんなの知らねぇっ………………かわいいとは、思うけど……」

「へぇ~かわいいんだぁ~」

「おおおいおい、今の絶対だれにも言うなよっ」

「……ふふっ。どうしよっかなぁ」

「ちょぉー!」

「じゃ、いっこ貸しねっ」

「ぐっ」

 今日の雪乃、いたずらっこです、ごめんなさい。

「……雪乃だったら、どうする?」

「私が流都くんだったら……うーん……」

 どうするのかな。少しはおしゃべりしたことがあるかわいい人からラブレターをもらったら……うーん……。

(でもちゃんと答えてあげないと、相談の意味がないよね。よしっ)

「私なら、受けちゃう……かも」

「受けるのか!」

「うん。まったくおしゃべりしてなかったらちょっとあれだけど、おしゃべりしたことがあって、魅力的な人からラブレターをもらったら……受けちゃうかも」

「そうか、雪乃受けるのか」

「た、たぶんだよっ。私はその真遊ちゃんとおしゃべりしたことないし、相手によると思うから……あれだけど……」

 伝えました。

「……な、なぁ雪乃」

「なに?」

「ほんとーに、ほんとーーー……に、しゃべったことあるやつからラブレターもらったら、その、あー、お、お付き合い、するかもしれないん……だよな?」

「う、うん。もらったことないけど……たぶんだよたぶんっ」

「そっか……へぇーそっかー……」

 なんだかはずかしくなってきました。

「……水泳部でかわいい女の子、かぁ。スポーツできる女の子って、かっこいいよね」

「楽器できる女子もかっこいいって」

「そう? 私水泳部の練習なんて、とても耐えられそうにないよ」

「雪乃はかっこいいったらかっこいいんだよ。俺なんてバックギャモンしかできないんだぜ?」

「知尋ちゃんのお父さんとバックギャモンできるのは、なんだかすごい気がする」

「まだやってねぇっ」

 でもほめてくれるのはうれしい。

「……どんな想いで、このラブレター、書いたのかな」

「ん?」

「私、もらったことも書いたこともないけど……すっごく想いを込めて書いたんだろうなぁ」

「雪乃……」

 文字を見てると、私まで胸がきゅぅっとしてくる。

「流都くん、どうするの?」

「うぅーん……」

 流都くんは悩んでいるみたい。

「どういうところでそんなに悩んでるの?」

「だってさ、付き合うってなったら、もうずっと多木さんと付き合うってことになるんだろ? 俺、ちゃんと責任果たせるかなって思ってさ……」

 わあ、流都くんすてきっ。

「気にしすぎだよ。大丈夫。流都くんってすてきな人なんだもん。お付き合いすることになっても、きっとうまくいくよ」

 私、なんだかすらすらと言葉が出てきています。

「ゆ、雪乃ほめすぎっ」

「だ、だってっ」

「でもありがと」

 てれ笑いをしてる流都くん。

「今までどんなことをおしゃべりしたの?」

「大したことはしゃべってないかなぁ。バックギャモン部のことと、あとは俺が友達とどんなことして遊んでるのかとか? 全校集会とか掃除場所への移動中とかあるだろ? ああいうときで顔が合ったらしゃべるってくらいなんだ」

「そうなんだ。かわいいこなんだったらお誘いすればいいのにぃ」

「おい雪乃、楽しんでないか?」

「ううんっ」

 ごめんなさい、ちょっと楽しいです。

「ひとつ下の学年の教室に行くっていうのもなぁ、ははっ」

「でももしお付き合いするってなったら、いっぱい行かなきゃいけなくなるよ?」

「げ、そうか。うーん」

 まだまだ悩むのが続きそうです。

「雪乃はさ。俺……多木さんと付き合った方がいいと……思うか?」

「私?」

「ああ。雪乃の意見が聞きたい」

 流都くんがそれで幸せなら……それがいいのかな……。

「……私は、その……それが流都くんの幸せだったら……」

「俺の、幸せ?」

 私はうなずきました。

「真遊ちゃんと一緒に笑って、手をつないで、夏祭りも行って……そういう毎日を多木さんと送るのが幸せなんだったら……」

 流都くんが幸せなら。

「……お付き合いしても、いいと思い、ます」

「そ、そうかっ。女子の雪乃からそう言ってもらえると、それがいいような気がしてきた」

「あ、でも」

 そう。お付き合いするっていうことは~……。

「でも?」

「流都くんがもし真遊ちゃんとお付き合いを始めたら、もう私とこうして公園でおしゃべりとか、私のおうちでバックギャモンとか、夏祭りとか……一緒に帰るのも……しちゃいけなくなっちゃうね」

「え! それ全部だめなのか!?」

「だって、彼女さんがいるのなら、そういう時間は、か、彼女さんと、お、おデート、しなきゃ……」

「おデート……」

「それに、好きな人が他の女の子と楽しそうにしてるのを見るのは、私でもちょっと……むぅって思っちゃう……かも」

「雪乃がむぅって思っちゃうのかっ」

「こらーっ」

 なんでそこで笑っちゃうのかなあっ。

「だから。学校の中でおはようくらいはすると思うけど、流都くんは真遊ちゃん以外の女の子にでれでれしてはいけません」

「で、でれでれなんて普段からしてないだろっ」

「……くすっ。そうだねっ」

「おいぃ~」

 今日のおしゃべり、なんだか楽しいなっ。いつも楽しいけど、今日は特にっ。

「雪乃の言ってることだったら、たぶん全部正しいことなんだろうなー。でも俺が気になるのはさー、雪乃がもしラブレターもらったら、だれかと付き合うってことだ」

「そんなにそこが気になるの?」

「気になるに決まってんじゃん。だって今こうして雪乃としゃべると楽しいってことこれだけよく知ってるんだぜ? それ独り占めできる男子がいるかと考えると、なんかこう、うらやましいっつーかさ?」

「ええっ? そうかなぁ?」

「そうだよっ。ま、さっき言ってくれたのをお返しすると、雪乃がそれで幸せなんだったらそれがなによりなんだろうけどさ」

 便せんを封筒に戻して、カバンに入れられました。

「私は……たぶん、ラブレターなんてもらえないよ」

「わからないぞー? 俺でもらえたんなら、雪乃も必ずもらえるだろーっ」

「私より流都くんの方がモテモテっていうだけだよぉ」

「そんなのまだわからないだろー? これから雪乃んところに三通来るかもしれないし!」

「ないと思うけどなぁ」

「いーや、あるっ。断言する!」

 断言されちゃいました。

「わ、私のことはいいから……ほら、真遊ちゃんのこと、どうするの?」

「うーん……結論出そうにないなー。家に帰ってじっくり考えることにしようかな」

「うん」

 流都くんは手を頭の後ろに組んでる。

「でも雪乃の話はすっげー参考になった。ありがとな!」

「ほんと? よかった」

 あまり自信なかったけど、少しでも役に立てられたようでよかった。

「でもさ雪乃、もうちょっとだけ……しゃべってかないか?」

「うん」

 まだもう少し、流都くんとの楽しいおしゃべりが続きそうです。

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