1-4 真智子とまどか

 翌日、昼休みになると、親友の杉浦まどかが真智子のことを呼び出しに来た。真智子が廊下に出ると、まどかは右手に持っていた弁当箱を軽く振って言った。

「今日はいい天気だし、二人で校庭でランチしない?」

「いいよ、ちょっと待ってて」

杉浦まどかはサッカー部のマネージャーをしていた頃のマネージャー仲間だった。サッカー部のマネージャー時代が楽しかったのは快活で機転が効いて明るいまどかと一緒だったから―ということも一つにあった。一年、二年と同じクラスだったことも影響して、ふたりはいつも一緒にいた。三年になってからはクラスも分かれ、マネージャーも引退したし、受験の影響もあって、一緒に過ごす時間がめっきり減ったが、それでも携帯で連絡を取り合ったり、ときどき昼休みに一緒にお弁当を食べたりなど、ふたりで過ごす時間を作って親交を温めていた。


「あのね、修司が言ってたけど……」

廊下を歩きはじめるとまどかはすかさず言った。

「修司が?」

「そうそう、修司が言ってたよ。朝から。ああ、つまんねえなって」

「……」

「思いあたることあるでしょ?」

「まあ……ね」

「あまりにもつまんなそうに言うから、そっと聞いてみたら真智子が音楽室で真部慎一と!ってぼそっと小声で呟いて……」

「ああ、よかった。小声でね。近くに真部君いなかったよね」

「真部君はまだ教室にはいなかった」

「そう、よかった」

「で、ほんとなの?音楽室で真部君と一緒にピアノの練習してるって」

「まあ、だって、真部君が来る前は私ひとりで練習していたわけだし……」

「そうだよね。しかたないよね」

「しかたないっていうか、けっこう良い刺激になりそう」

「そっか、それはよかった。それにしてもあの真部君だもの、突然、舞い込んだラッキーって感じだよね。いいな、いいな。私なんて同じクラスでもまだ話したことさえないのにさ、修司もかわいそう」

「かわいそうってことはないと思うけど……」

「かわいそうだよ。修司は昔から真智子ひとすじだし……」

「でもまだ、真部君とは一緒にピアノを練習しはじめたってだけだよ」

「そうだけど、修司にとっては一緒にピアノを練習しているところを想像しただけで、妬けてきたりすると思うよ」

「でも、修司は好きにすればいいって言ってくれたし」

「まあね、とにかく受験のことがあるから、頑張ってとしか私も言えないけど。何かあったら、今まで通り、なんでも相談に乗るから」

「うん。わかった。いつもありがとうね」

「これからだんだんと寒くなるから風邪にも気をつけてね」

「まどかもね」

ふたりは手頃なベンチを見つけると一緒に腰掛けた。気兼ねなく話せるまどかとの楽しい昼休みのひとときはあっという間に過ぎていった。

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